太陽観測データ(ミラーリングの過去、現在、未来) 松崎 恵一
観測的な学問において、研究者はデータを身近なところにおき、自分たちの手で現象を精査します。「手で」、といっても、今日は、ほどんどが計算機を用いたデータ処理です。太陽の観測では、可視光において温度6000度の光球面 (目で見える太陽の表面) やその上空の彩層 (厚さ1500km)、極端紫外線においてその上空の温度 1万度 〜100万度の遷移層 (厚さ 200km)、X線においてさらに上に広がる温度が100万度を超えるコロナで発生する現象を調べることができます。これらいろいろな高さでおきる現象は磁場を通じて密接に結びついており、いずれの観測データも矛盾なく説明することが重要です。一方、どの波長の光で観測できるかは望遠鏡ごとに定まっています。データをインターネット越しに入手できることが増えていますが、望遠鏡ごとに異なる場所から異なる方法でデータを取り寄せる必要があります。今の研究はあちこちからデータを集めるところから始まります。 太陽物理学は、我々の星「太陽」を対象とした、天文学の分野のひとつです。でも、観測データの利用スタイルは、太陽とその他の天文学とで傾向が異なっています。
現在、ISAS では、ISAS 内外の研究へ役立つよう、ようこう衛星の全データのほかに、以下の二つの衛星のデータのミラーリングを保持しています。
それぞれの衛星は、
というミッションです。 図1は RHESSI 衛星の観測結果と TRACE 衛星の観測結果を比較した一例です。フレアにおいて、硬X線がループの足元で発生し、時刻とともに、光る足元が変化しているのが見て取れます。
研究者がもっとも身近にデータを扱える場所はどこか?その答えは一つではありません。 研究の目的やそれぞれの研究者の環境に応じて、最適な解は異なってきます。多様なニーズに対応するため、プレインセンターでは以下の方法でミラーリングしたデータの提供を行っています (あるいは行う予定です) 。 (ウエブページ, Anonymous FTP サービス) 太陽の研究では、しばし、時間変化する観測データを動画にして眺めます。数年前まで、動画を見る際に流れるデータ量はインターネットやキャンパス内のネットワークが流せるデータ量をはるかに超えていました。そこで、研究者はデータを自分自身の机の上の端末(パソコンやワークステーション) にあらかじめダウンロードしておくしかなかったのです。ISAS における 海外衛星のデータのミラーリングは、この時代にようこう衛星とTRACE 衛星の観測結果を比較するために始めたものです。また、この頃は、海外への回線がとても細く、日本の国内に海外の有用なデータのコピーを作成し、Web Page や Anonymous FTP を通じ、再配布することは ISAS 外部にいる国内の研究者に対してもとても有用なことでした。 今は、この頃よりネットワークの太さが増大しています。データ量が小さいのなら、国内から持ってくる時間も、海外から持ってくる時間も、差が気にならなくなりつつあります。通常のファイル転送では、転送に必要な時間が距離に比例します。データが多量になり、転送時間が長くなるとこの効果が無視できなくなるので、ミラーリングをすることにはいまだに意義があるのです。 (解析サーバへのログインサービス) ISAS 太陽グループが用いているワークステーションからは、ウエブページやAnonymous FTP サイトで見えるミラーリングデータを直接ファイルとしてアクセスすることができます。ここでは、解析に必要なソフトも使える形で整備されており、ムービーを眺めたり、本格的な解析まで行えます。プレインセンターでは、昨年度から、公共用の解析マシンを用意し、ISAS 太陽グループ内と同等な環境をISAS 外の太陽研究者にも提供しています。ネットワークも太くなったので、ムービーを最速で見るのでなければ、ISAS 外からの使用においても、ストレスを感じることは減ってきたのではないでしょうか?ある程度の下解析までをこのマシンで行い、後は自分の端末で解析を続けるのが典型的な使い方です。なお、アカウント申請は、ISAS の太陽グループで取りまとめており、随時、電子メール (アドレス manager@solar.isas.jaxa.jp) で受付ています。 (遠隔ファイルサービス) ネットワークの速度が向上してくると、ISAS 外の端末から ISAS 内の端末とおなじ方法でデータをアクセスできるようになります。現在、ISAS と国立天文台、ISAS と東大理学部の間には、ISAS 内部のネットワークと同じ太さ (1Gbps) のネットワーク (Super SINET の専用線)が張られています。現在、この回線を用いて、離れた地点の間でファイルを共有の準備を進めています。本年度は、試験運用を行います。 研究者はいろいろなデータの中身に興味がある。できることならば、それがどこに保持されているのか、どう保持されているのかは知らずに済ませたい。"データ・グリッド" 技術が実用になり、その理想が実現される日が来てほしいものです。
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