PLAINセンターニュース第131号
Page 1

設計の最適化について(1)

大山 聖
JAXA/ISAS
宇宙輸送工学研究系


  近年の目覚しい計算機環境の進歩と数値シミュレーション技術の発展により、数値シミュレーション技術は様々な分野の設計・開発に深く浸透し、時間と費用がかかる実験の回数を最低限に抑えることで設計・開発に必要な時間と費用を大きく削減することに貢献している(図1)。


図1. 数値シミュレーションを用いた設計手法

 しかしながら、数値シミュレーション技術は与えられた設計の性能評価を行うための道具でしかなく、図1にあるように数値シミュレーションによる設計評価を行った後の再設計は、未だに設計者によって行われることが多く、効率的ではない内部ループを構成している。また、設計者による再設計は設計者の経験や勘に頼ることも多く、必ずしも最適な設計を得ることができるとは限らない。
 内部ループをより効率的にまわす手法として、近年数値最適化手法の研究が盛んに行われている。数値最適化手法とは、与えられた設計最適化問題に対し、数値的に最適な解を求める手法で、勾配法や進化アルゴリズムなどがその代表例である。例えば、古くから使われている勾配法は、あるひとつの設計候補からスタートし、設計変数に対する目的関数の勾配を調べながら、解が改善される方向(目的関数の最大化であれば、目的関数が増える方向)に進んでいくアルゴリズムである(その特徴から山登り法とも呼ばれている)。
 これらの数値最適化手法と数値シミュレーション技術を組み合わせることで図2に示すように、内部ループを完全に自動化することができ、設計の効率化やより優れた設計が期待できる。


図2. 数値シミュレーションおよび最適化を用いた設計手法


 数値最適化手法の研究は比較的歴史が浅く、現在盛んに研究が行われている分野ではあるが、実際に数値設計最適化手法を工学上の設計などに適用した例も近年では数多く見られるようになってきた。筆者が今思いつく数値最適化手法の最適化問題への適用例のいくつかを表1に挙げる。ここで注目していただきたいのは、一般に実用的な設計問題は複数の目的をもつ多目的設計最適化問題であるということである。近年注目されている信頼性についても目的と考えると目的の数はさらに増加する。また、それら複数の目的を評価するために必要な数値シミュレーション技術は空力・構造・音・制御など複数の領域にまたがり、複合領域問題であるという点も心にとどめておいていただきたい。

表1. 設計最適化の応用例

設計対象
目的
自動車(GM)
↑燃費、↑居住性、↑強度
遷音速旅客機(三菱重工)
↓空気抵抗、↓離陸重量
新幹線(川崎重工)
↓騒音、↑安定性
携帯電話
↑構造強度、↓重量
ポンプ
↑水量、↑効率、↓騒音
ガン放射線治療法
↑効果、↓副作用

 数値最適化手法と数値シミュレーション手法を用いた設計最適化手法はJAXAで開発しているロケットや衛星など様々な設計において適用可能であり、これを用いることで、より効率的により優れた設計を得ることができると考えられる。次回は多目的複合領域問題のための設計最適化手法についてより具体的に述べさせていただきたいと考えております。



この号の目次へ

日本福祉大生 恒例の PLAINセンター研修 へ


(920kb/2pages)

Next Issue
Previous Issue
Backnumber
Author Index
Mail to PLAINnewsPLAINnews HOME