PLAINセンターニュース第112号
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「ぎんが」アーカイブ公開迫る

上田 佳宏、馬場 肇
「ぎんが」アーカイブチーム
宇宙科学研究所

 現在、DARTSからの公開を目指してX線天文衛星「ぎんが」データのアーカイブ化作業が進められ ています。本ニュースでは、その内容と現状につ いて報告します。これらの作業は、X線グループ を中心とする「ぎんが」アーカイブチームと PLAINセンターが協力して行なっているものです 。

「ぎんが」は我が国3番目のX線天文衛星で、 1987年2月にM-3S-II型ロケットによって打ち上げ られ、1991年11月に大気圏に再突入して消滅しま した。「ぎんが」はこの時期の唯一のX線天文台 として活躍し、世界のX線天文学をリードしまし た。その成果は、超新星1987AからのX線の発見を 筆頭に、中性子星、ブラックホール、活動銀河、 銀河団、ガンマ線バーストなど、きわめて多岐に 渡ります。図1に、衛星の外観を示します。

衛星 については、http://www.astro.isas.ac.jp/ginga/に詳しい説明があります。


図1: 「ぎんが」衛星の外観

 「ぎんが」には、大面積比例計数管(Large Area Counter = LAC)、 全天モニタ、ガンマ線バースト検出器の3種類の 検出器が搭載されていました。今回我々の公開の 対象とするのは、主検出器であるLACのデータで す。LACは、4000 cm2という大有効面積、低バッ クグラウンド、2−70キロ電子ボルトの広い エネルギーバンドにわたる感度、1ミリ秒という 高い時間分解能といった優れた性能をもち、その データは現在でもユニークで十分に科学的価値が あるものです。すでに多くの論文が出版されてい るとはいえ、たとえば最近の観測結果と比較して 天体の性質の長期変動を調べることで確実な科学 成果が期待されるほか、詳細な解析を行なうこと で思わぬ宝物が発見される可能性も大いにあると 思われます。

 標準的な解析方法で整約された「ぎんが」LAC データは、検出器の共同開発者であった英国レス ター大学から既に公開されています。しかし、 (1)生データはまだ公開されていない、(2)宇宙研 で行なわれた最終的な姿勢決定情報が取り込まれ ていない、(3)日本の「ぎんが」チームが開発し たソフトウエアやキャリブレーション情報が含ま れていない、といった点で、科学情報を最大限引 き出すためのアーカイブとしては必ずしも十分な ものではありませんでした。そこで今回は、最終 キャリブレーション情報を反映させた上で、テレ メトリデータと解析ソフトウエアそのものを公開 することを目指しました。これにより、全世界の ユーザがより柔軟に、これまで宇宙研の大型計算 機でしかできなかった詳細な解析をUNIX上で行な えるようになります。

 以下、アーカイブ化に際して我々が行なってき た主な作業を説明します。

  (1) テレメトリデータのFITS標準化。宇宙研の SIRIUSデータベースに保管されている「ぎんが」 のテレメトリデータの最小単位は、First Reduction File (FRF)というファイルです。そ れらにラッパーをかぶせることで、FITSファイル として最低限の条件を満たしました。同時 に、最終キャリブレーション情報に基づいて時刻 精度を向上させました。

 (2) 解析ソフトのUNIX移行。宇宙研の大型計算 機(FACOM M780/MSP)の上で開発された「ぎんが」解析ソフトをUNIX環 境に移行しました。現在のところ、DEC OSF/1 および Linux 版をサポートする予定です。また、XSPECなどのX 線天文標準解析ツールに対応させるのに必要な、 フォーマット変換プログラムも用意します。また 解析マニュアルも併せて公開し、エキスパートの みならず、「ぎんが」解析未経験者も抵抗なく解 析を始められるように考慮しました。

 (3) 観測データベースの作成。「ぎんが」の時 代、運用記録などはすべて手書きで、電子的に作 られた観測ログは存在しません。そこで今回、テ レメトリデータから作られた観測情報の時系列ファ イルをもう一度系統的に調べあげ、それらを整理 することで「ぎんが」観測データベースを作成し ました。「ぎんが」の解析では、目的の天体に視 野を向けた観測データのみならず、バックグラウ ンドの観測データが必要になる場合がありますが、 バックグラウンドデータの検索のためにもこの観 測データベースはたいへん有用となるはずです。

 (4) DARTSへの組み込み。上の観測データベー スをもとに、同じ視野方向の連続した観測ごとに シークエンス番号を割り当て、DARTSデータベー スへ組み込みました。これにより、ユーザーは 「あすか」など他のX線天文衛星と同じ感覚で、 DARTS検索システムを使ってデータを取得するこ とが可能になります。

 「ぎんが」のFRFは、鹿児島空間観測所で行な われた運用単位(パス)ごとに作られています。 5年分のFRFの総数は約14000、データ総量は、圧縮 なしで約27ギガバイトです。一方、データ解析は、 シークエンス単位ごとに行なうのが便利です。一 つのシークエンスは、連続観測の単数または複数 のFRFから構成されます。観測データベースには、 およそ7500のシークエンスが定義されています。 ユーザーは最初に全FRFをコピーして手元におい ておくこともできますし、DARTS検索システムを 利用して、シークエンスごとに必要なFRFを毎回 ダウンロードすることもできます。また、「ぎん が」の解析でしばしば有用となる、衛星の状態を 時系列に記述したダンプファイル (LACDUMP)も、FRFと一緒に用意されます。ダンプファ イルは、解析ソフトを用いてFRFからユーザーが 自分で作ることも可能です。


図2: 「ぎんが」LAC データの解析フロー

  図2は、「ぎんが」LACのデータ解析方法の流れ を示したものです。四角(赤)が出入力ファイル を表しています。丸で囲まれたのが解析ツールを 表し、「ぎんが」用解析ソフトが青で、一般のX 線天文解析ツールが緑で示されています。「ぎん が」用解析ソフトも、DARTSの「ぎんが」のペー ジからダウンロードできます。個々のソフトの機 能、使い方についての詳しい説明は、同じく DARTSから入手可能な、解析マニュアル(ABCガイ ド)を御覧下さい。

 アーカイブ化の作業はいずれも最終段階に来て おり、本年度末をめどに、DARTSより世界に向け て公開したいと考えています。「ぎんが」アーカ イブの公開は、長い目で見た時に、X線天文コミュ ニティに対する大きな貢献になると確信していま す。



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