現在、DARTSからの公開を目指してX線天文衛星「ぎんが」データのアーカイブ化作業が進められ ています。本ニュースでは、その内容と現状につ いて報告します。これらの作業は、X線グループ を中心とする「ぎんが」アーカイブチームと PLAINセンターが協力して行なっているものです 。
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「ぎんが」は我が国3番目のX線天文衛星で、 1987年2月にM-3S-II型ロケットによって打ち上げ られ、1991年11月に大気圏に再突入して消滅しま した。「ぎんが」はこの時期の唯一のX線天文台 として活躍し、世界のX線天文学をリードしまし た。その成果は、超新星1987AからのX線の発見を 筆頭に、中性子星、ブラックホール、活動銀河、 銀河団、ガンマ線バーストなど、きわめて多岐に 渡ります。図1に、衛星の外観を示します。
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図1: 「ぎんが」衛星の外観
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「ぎんが」には、大面積比例計数管(Large Area Counter = LAC)、 全天モニタ、ガンマ線バースト検出器の3種類の 検出器が搭載されていました。今回我々の公開の 対象とするのは、主検出器であるLACのデータで す。LACは、4000 cm2という大有効面積、低バッ クグラウンド、2−70キロ電子ボルトの広い エネルギーバンドにわたる感度、1ミリ秒という 高い時間分解能といった優れた性能をもち、その データは現在でもユニークで十分に科学的価値が あるものです。すでに多くの論文が出版されてい るとはいえ、たとえば最近の観測結果と比較して 天体の性質の長期変動を調べることで確実な科学 成果が期待されるほか、詳細な解析を行なうこと で思わぬ宝物が発見される可能性も大いにあると 思われます。
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標準的な解析方法で整約された「ぎんが」LAC データは、検出器の共同開発者であった英国レス ター大学から既に公開されています。しかし、 (1)生データはまだ公開されていない、(2)宇宙研 で行なわれた最終的な姿勢決定情報が取り込まれ ていない、(3)日本の「ぎんが」チームが開発し たソフトウエアやキャリブレーション情報が含ま れていない、といった点で、科学情報を最大限引 き出すためのアーカイブとしては必ずしも十分な ものではありませんでした。そこで今回は、最終 キャリブレーション情報を反映させた上で、テレ メトリデータと解析ソフトウエアそのものを公開 することを目指しました。これにより、全世界の ユーザがより柔軟に、これまで宇宙研の大型計算 機でしかできなかった詳細な解析をUNIX上で行な えるようになります。
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以下、アーカイブ化に際して我々が行なってき た主な作業を説明します。
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(1) テレメトリデータのFITS標準化。宇宙研の SIRIUSデータベースに保管されている「ぎんが」 のテレメトリデータの最小単位は、First Reduction File (FRF)というファイルです。そ れらにラッパーをかぶせることで、FITSファイル として最低限の条件を満たしました。同時 に、最終キャリブレーション情報に基づいて時刻 精度を向上させました。
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(2) 解析ソフトのUNIX移行。宇宙研の大型計算 機(FACOM M780/MSP)の上で開発された「ぎんが」解析ソフトをUNIX環 境に移行しました。現在のところ、DEC OSF/1 および Linux 版をサポートする予定です。また、XSPECなどのX 線天文標準解析ツールに対応させるのに必要な、 フォーマット変換プログラムも用意します。また 解析マニュアルも併せて公開し、エキスパートの みならず、「ぎんが」解析未経験者も抵抗なく解 析を始められるように考慮しました。
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(3) 観測データベースの作成。「ぎんが」の時 代、運用記録などはすべて手書きで、電子的に作 られた観測ログは存在しません。そこで今回、テ レメトリデータから作られた観測情報の時系列ファ イルをもう一度系統的に調べあげ、それらを整理 することで「ぎんが」観測データベースを作成し ました。「ぎんが」の解析では、目的の天体に視 野を向けた観測データのみならず、バックグラウ ンドの観測データが必要になる場合がありますが、 バックグラウンドデータの検索のためにもこの観 測データベースはたいへん有用となるはずです。
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(4) DARTSへの組み込み。上の観測データベー スをもとに、同じ視野方向の連続した観測ごとに シークエンス番号を割り当て、DARTSデータベー スへ組み込みました。これにより、ユーザーは 「あすか」など他のX線天文衛星と同じ感覚で、 DARTS検索システムを使ってデータを取得するこ とが可能になります。
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「ぎんが」のFRFは、鹿児島空間観測所で行な われた運用単位(パス)ごとに作られています。 5年分のFRFの総数は約14000、データ総量は、圧縮 なしで約27ギガバイトです。一方、データ解析は、 シークエンス単位ごとに行なうのが便利です。一 つのシークエンスは、連続観測の単数または複数 のFRFから構成されます。観測データベースには、 およそ7500のシークエンスが定義されています。 ユーザーは最初に全FRFをコピーして手元におい ておくこともできますし、DARTS検索システムを 利用して、シークエンスごとに必要なFRFを毎回 ダウンロードすることもできます。また、「ぎん が」の解析でしばしば有用となる、衛星の状態を 時系列に記述したダンプファイル (LACDUMP)も、FRFと一緒に用意されます。ダンプファ イルは、解析ソフトを用いてFRFからユーザーが 自分で作ることも可能です。
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図2: 「ぎんが」LAC データの解析フロー
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図2は、「ぎんが」LACのデータ解析方法の流れ を示したものです。四角(赤)が出入力ファイル を表しています。丸で囲まれたのが解析ツールを 表し、「ぎんが」用解析ソフトが青で、一般のX 線天文解析ツールが緑で示されています。「ぎん が」用解析ソフトも、DARTSの「ぎんが」のペー ジからダウンロードできます。個々のソフトの機 能、使い方についての詳しい説明は、同じく DARTSから入手可能な、解析マニュアル(ABCガイ ド)を御覧下さい。
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アーカイブ化の作業はいずれも最終段階に来て おり、本年度末をめどに、DARTSより世界に向け て公開したいと考えています。「ぎんが」アーカ イブの公開は、長い目で見た時に、X線天文コミュ ニティに対する大きな貢献になると確信していま す。
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