No.269 |
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法人化と基礎科学の振興名古屋大学大学院理学研究科 教授 山 下 廣 順宇宙3機関統合による宇宙科学研究所の独立行政法人化,それに続く国立大学の法人化と,行政改革に端を発した組織改革が急速に進められている。それは組織の長に強い権限を与え,組織運営の効率化を図ることが眼目とされている。その際,重要なことは歴史に学び,現状分析をいかに綿密に行うかであり,時間に追われた性急な改革は改悪にしかならない。特に,大学の法人化の主眼は,大学の主体性を尊重し,学長の裁量権を大幅に拡大し,自主的・自律的運営により個性化を図ることであると言われる。そのキャッチフレーズは「教育の充実,研究の活性化,組織の簡素化,管理運営の効率化」と,とらえている。 しかしながら,国会で審議中の「国立大学法人法案」を見ると,これまで以上に大学の官僚統制が強くなるように感じられる。6年の中期目標・中期計画と評価により大学を縛り上げ,教官に過重な負担を強いるのみであり,大学本来の使命である教育と研究がますます阻害されることが懸念される。 法人化の推進に当たっては,社会からは実態も理解せずに大学はゆるんでいると言われ,学内では教授会自治が強く,大学運営が難しいと言われる。しかし,「組織は人なり」と言われるごとく,システムを変えたところで活性化できるわけではない。組織の長の管理・運営能力と,構成員の意識改革が問われているのである。 大学の法人化は,大学に経営感覚を導入し,研究成果の創出による社会貢献が強く求められている。しかし,大学の最大の使命は,教育研究による人材の育成である。特に,基礎科学の振興には,真理の探究,文化の高揚,泰然自若の精神を貫かねばならない。また,自然科学の深奥を究めることは,その副産物として技術革新を伴っていることを十分に認識すべきである。 「科学技術創造立国」を目指して,重点分野(ライフサイエンス,情報・通信,ナノテク・材料,環境)に巨額の予算が投入されているが,目先の成果ではなく,20年,30年という長期的な展望に立った教育研究の推進が求められる。コンピュータは世の中を便利にし,情報化社会の中核を担うものであるが,その一方で人間の思考力を徐々に奪うという公害をまき散らしている。このような社会環境の中で基礎科学を礎に,人材育成と世界水準の研究を創出することが,大学人に課せられた大きな責務である。 宇宙科学はその象徴として,巨大科学であるがゆえに強い風当たりを受けることになるが,基礎科学の一翼を担うものとして強力に推進すべきである。科学衛星による宇宙の探究は,極限技術への挑戦でもあり,基礎科学と先端技術を先導するものと位置づけるべきであろう。そのためには,真理を探究する「科学目的」と,それを達成するための「技術目的」を明確にし,緻密な実行計画と将来構想が求められる。 研究所はプロジェクトを遂行することが最大の使命であり,大学はそれに協力するとともに基礎研究から次なるプロジェクトの芽を創出することが望まれる。相互理解と人事交流により,研究所と大学は対等な立場でスクラムを組み,この難局に対処することが必要である。 私は法人化を前に現役を去ることになりますが,法人化によって,宇宙研は新機関の中で存在感を高めて宇宙科学の推進役として,大学は主体性を堅持して高等教育と学術研究の府として,基礎科学の振興に精励していただきたい。 研究科長としての経験と学内外の現状を見ながら書き連ねました。酒の飲めない人間のいも焼酎とご理解下さい。最後に私のモットーを付記します。
(やました・こうじゅん) |
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