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宇宙輸送機開発の初期にはこの2つの方法が平行して試みられたが,1957年にソ連が弾道軌道によって人工衛星の打上げに成功して以来空力軌道による宇宙への道が下火になった。空力軌道の方が技術的に多くの困難な問題を抱えていたことによる。しかし,最近になって空力軌道による宇宙への道が見直されるようになった。それは民間による宇宙開発を促進する場合,コストの低減,安全性,信頼性,乗り心地の向上および環境の保全に重点を置かなければならないからである。これらの要求に応えるにはスペースプレーンによる空力軌道の方が優れた点が多い。
「スペースプレーン」と「ロケット」の大きな違いは離着陸の方法にある。ロケットはほぼ垂直に打ち上げられるが,スペースプレーンは飛行機と同様に滑走路から水平に離陸し,ロケットより小さい加速度で上昇でき,乗り心地が改善できる。また,水平離陸方式では離陸や上昇中の故障に対して回避が容易になる。更に,スペースプレーンは宇宙から帰還する場合も滑走路に水平に着陸し,機体を全て再使用することが容易になる。これによって輸送コストを低減でき,貴重な資源と労力を浪費することがなくなる。
従来のロケットの飛行状態を見ると,高度50kmまでの大気圏内で全推進剤の約 60 〜 80 %を消費している。スペースシャトルの場合,全重量の約67%が液体酸素で占められている。このことから飛行中に大気中から空気を吸い込み,酸化剤として用いることによって宇宙輸送機の重量を大幅に軽減できることが分かる。このような空気吸い込み推進方式はロケットよりスペースプレーンの方が容易に利用できる。
以上のようにスペースプレーンはロケットに比べて有利な点が多いが,現在のところ実用化には到っていない。これは空気中を高速度で飛行することに伴ういくつかの困難な問題によるものである。それは空力加熱や空力抵抗の低減および大気中から空気を効率よく取り込む方法である。また,吸い込んだ空気を有効に推進力に変換する推進エンジンにも困難な問題がある。
宇宙科学研究所ではスペースプレーンに用いる推進エンジンの基礎開発研究を進めている。スペースプレーンに応用可能な空気吸い込み式推進エンジンとして多くの形式のものが提案されているが,宇宙研では比較検討の結果エアーターボラムジェット( ATR ) エンジンを選択した。ATR エンジンは低速飛行ではファンを用いて空気を吸い込み,高速飛行ではエンジンに飛び込む空気圧(ラム圧力)を利用して空気を吸い込む形式の複合エンジンである。宇宙研の ATR エンジンは燃料の水素を空力加熱や自らの燃焼ガスを利用した再生加熱によって加熱し,その熱膨張エネルギでタービンを駆動し,ファンを用いて大気中から空気を吸込むエキスパンダーサイクルある。このようなエンジン形式から宇宙研の ATR エンジンは「 ATREX 」と称している。
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宇宙研では1986年から ATREX エンジンの開発研究を開始し,ファン入口径が30cmのサブスケールエンジンを試作して,現在までに45回の地上・静止状態における燃焼試験によってその性能を確認した。
ATREX エンジンは離陸から高度30kmでマッハ6程度までスペースプレーンを加速することができ,その比推力は従来のロケットに比べて5〜10倍程度向上できる。ATREX エンジンは2段式スペースプレーンの1段目の推進機関に応用できるものとして期待されている。
(たなつぐ・のぶひろ)
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