No.203 |
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火星は地球のすぐ外側の惑星である。地球と同じように石ころの転がっている立派な地面がある。わずかとはいえ大気もある。もっともこの大気は炭酸ガスからできているから呼吸をするのには適さない。火星にも大昔にはもっとまともな大気があったらしいと考えられている。バイキング探査機の写真を見ると,かつては地表に水が流れていたらしい痕跡が多数見つかっている。液体の水が流れていたとなると,当時の火星の気候は現在の地球に近いものであったに違いない。同位体比を使った過去の大気量の推定もこのことを支持している。となると,「火星にも生命が」ということは誰もが考えることである。地球上では35億年前に既に生命が誕生していたことが知られている。火星に水が流れていた時期は40億年くらい前だから火星でも十分生命誕生のチャンスがあったのではないかという考えである。このことを裏付けるように,一昨年の夏,火星隕石ALH84001を分析した米国のマッケイ博士等は微小なバクテリアの痕跡とも解釈できる結果を報告して世界を驚かせ,米国を発信地とした火星フィーバーが世界を駆け巡った。
火星探査は1962年の Mars-1 以来これまで20数回試みられてきたがどういうわけか成功率は低い。
1975年のバイキング探査機1,2号は周回機,着陸船とも成功し火星の地形,地質,気象,生命に関する基本的なデータを収集した。1988年になって旧ソ連邦の大型探査機フォボス1,2号機が送られた。残念ながら1号機は地球離脱時に,2号機は火星の衛星「フォボス」に接近中に消息を絶ったがフォボス2号は短い寿命の間に重要な観測を行った。1990年代に入ってからロシアの大型探査機 Mars96 と米国のやはり大型の探査機 Mars Observer が相次いで失敗した。冷戦終結という時代の変化のもと,大型探査機はますます難しくなり,代わって中小型の探査機の時代に入ろうとしている。最近のパスファインダー, Mars Global Surveyor ( MGS ),我々の Planet-B 等である。
Planet-B は「火星上層大気と太陽風の相互作用」という堅苦しいテーマを掲げている。平たく言えば太陽風が火星の大気に吹き付けると何がおきるのかということを調べようというものである。彗星の尾のように大気が剥ぎ取られ吹き飛ばされているのか,あるいは火星の大気は何らかのメカニズムで太陽風から守られているのか。バイキング着陸船が着陸時に測ったデータから判断すると後者のようだし,フォボス2号の観測では前者のようである。フォボス2号の観測では火星の大気が1億年程度で全部入れ替わってしまう程の酸素イオンが火星から逃げ出しているということである。本当だとすると火星の大気進化を考えなおす必要が出てくる。最近のMGSによる磁場観測によると火星には400ナノテスラ程度の磁場があるようである。この程度の磁場が火星表面にまだらに分布しているとすると,太陽風の影響は大変複雑なものとなる。
Planet-B の観測の結果,バイキング着陸船の観測もフォボス2号の観測もともに正しかったという結論になるかもしれない。いずれにしろフルセットの観測機を搭載した探査機が火星の上層大気を調べるのは初めてでありどんな結果が出るか楽しみである。
Planet-B では以上の他に,搭載カメラによる火星気象の観測,地表の風化の度合い,極冠の季節変動,あるかもしれない火星の塵のリング,火星の月フォボス,デイモスの詳細地形を調べることが考えられている。試験的に行う電波による地表の反射率測定は地下の永久凍土層の情報を与えるかもしれないとの期待もある。
Planet-B には外国の研究者も多く参加している。イオン質量分析器の Lundin 氏はフォボス2で流出イオンを発見した当人であり,中性ガス質量分析器担当の Niemann 氏は有名な金星探査機 Pioneer Venus Orbiter の中性ガス質量分析器の責任者である。この他にカナダ,ドイツ,フランスの研究者が参加し国際色豊かなチームで計画が進められている。是非成功させて火星の新しい顔を明らかにしたいものである。
(つるだ・こういちろう)
<PLANET-B打上げまであと5ヵ月>
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