No.198
1997.9

ISASニュース 1997.9 No.198

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Great! Keppel Island

   小林康徳

 去る7月20日から1週間,オーストラリアのグレートケッペル島(Great Keppel Island )で開かれた第21回国際衝撃波シンポジウム(ISSW)に参加してきた。成田を朝11時に出発,夕方7時過ぎにケアンズに着く。入国を済ませてその日は国内便乗り継ぎのためにここで1泊。翌早朝7時,33人乗りのプロペラ機でケアンズを発ち,途中3つの空港に立ち寄り,わずかな乗客の入れ替えを行いながら4つめの空港(Rockhampton)でやっと解放された 。繰り返し減圧試験にさらされて私の鈍感な耳鼻中枢器官もさすがに参るが,1時間ほどの待合わせで今度は18人乗りのプロペラ機で30分,午後の1時頃ようやく目的地に辿り着いた。はるばる遠くに来たもんだという達成感を味わう。そして遠い昔,各駅停車の国鉄を乗り継ぎ,ビールを飲み継ぎ,2日掛かりで内之浦まで行ったことをフイと思い出した 。

 この国際会議は隔年に世界各地で開催され,今回は300人弱の参加登録者があったと聞く。内,日本からは50人(参加者実数は60〜70人?)ほどの参加,宇宙研からは成田出発から帰り着くまで同道させていただいたH先生と彼地で一緒になったA先生の計3人であった。オーストラリア東海岸の珊瑚礁棚に浮かぶリゾート地,時期は夏休み,とあってか日本からも夫婦や家族連れ,それに大学院学生が大勢見かけられた日本の経済力もここまで来たかという感慨がある。

 ケッペル島は,それほど険しくない岩場ときめ細かい白砂の浜辺が交互に連なる周囲12〜3km程度の無人島?(リゾート関係者以外定住者が居ないようだ)である。島全体が日本とは植生が大きく異なる樹木や草花に覆われ,海岸の一部はマングローブの生える湿地帯になっている。浜辺に打ち寄せる小波はあくまで青く澄み,どこを歩いてもゴミ屑や人工漂流物が見当たらない。ここの売り物はやはり海岸での水遊びと珊瑚礁見物で,自然の恵みを満喫してくださいというところであろう。図々しいくらい人見知りをしない色彩豊かな小鳥や小動物たちも観光に一役買っているのかもしれない。Great の後にビックリマー ク(!)が付いた表題は,一括運営するカンタス航空会社がこのリゾート地につけた名前であるが,びっくりするほどグレートであるか否かは個人の判断による。会議開催中はわれわれ以外にリゾート客はほとんどなく,この上なく静かで平穏であった。シンポジウム主催者側もこれを承知してか,セッションは朝7時半から始まり昼食を挟んで午後3時位に終わらせ,そのあとに色々なアフタースリープログラムを組んでいた。

 ともかく,「東奔西走」ならぬ離れ小島での「定住禁足」では,披露できるような旅先での冷汗談義もない。会議場周辺の2,3のちっぽけなみやげ物店とカフェーに顔を出すか,清潔そのものの浜辺をさまようくらいで1日が終わる。季節は冬,水遊びをするには少々寒すぎる。健康志向のH先生と私はある日の午後,マングローブの林を抜けて海岸に出て浜伝いに戻る4kmほどの道程を散歩した。H先生の,素足で砂の上を歩くとストレス 解消に利くとの説を信じて,2人して靴をぶら下げて波打ち際をテクテク歩いた。帰り着く頃には日が落ちていた。海に沈む大きな夕陽を眺めるのも悪くないが,夜の空に満天の星屑を縦断して力強く流れる天の川がやはり圧巻であった。久しぶりに子供の感動が蘇った。しかし哀しいかな,しばし哲学的気分にと暗闇にたたずむも,ネオン街の雑踏と騒音が染みた俗人はやがて遠く点々と続く対岸の街灯かりに思いを馳せてしまう。

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 帰途,乗り継ぎのために泊まったブリスベーン市では,最後の晩餐をというわけでA,H両先生と市中央部の銀座通りに出た。しかし結局,雑踏の大通りの真ん中に張られた吹き晒しのテント囲い食堂に入った。何料理を注文したか忘れたが,東南アジア系の熱くて辛いスープが美味かった。

 これは独断であるが,オーストラリアにはまだ固有の料理や食文化がないようだ。たとえばレストランを語るとき,ギリシャ料理のレストラン,といった具合に大抵オーストラリア以外のさまざまな国名がその頭に付く。今のオーストラリアは少数の原住民を除けば,ヨーロッパ,中近東,インド,アジアなど世界の各地から移住してきた民族がそれぞれに固有の文化と生活様式を持ち込んで,お互いにあまり干渉し合わずに上手に暮らしている生活共同体,まさに人種のるつぼであり,バラエティ文化の国である。現在は民族自決と宗教の時代と言われているが,まだ若くておっとりしたこのオーストラリアはこれからどのような国造りをし,発展していくのだろうか。硬直し制度疲労に悩む国に住む者には羨ましい気もする。

(こばやし・やすのり)



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