No.191 |
<研究紹介> ISASニュース 1997.2 No.191 |
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まず,三半規管は互いに直交する三つの半規管から成る。それぞれの半規管の内部はリンパ液で満たされ,半規管が回転しリンパ液が流動すると,半規管の取付部でリンパ液をせき止めている平衡頂( Cupula )の毛状細胞が変形し,平衡頂両端間の圧力差が検出される。従って,三半規管は三軸まわりの角加速度検出器である。しかし,リンパ液の粘性が高いので角加速度入力に対する平衡頂の動きの動特性は過減衰の二次系でモデル化することができ,しかも二個の時定数( 16 secと0.005 sec程度 )の差が大きいので,実際には積分ジャイロ的特性が示される。即ち,三半規管はむしろ角速度検出器として働いている。実際,平衡頂の動きと眼球の動き( Nystagmus )が密接な関係があることを利用して,入力角速度と人間が感覚する角速度の間の周波数特性が測定されていて,それによると,0.1 rad/sec〜10 rad/secの広い範囲で振幅比はほぼ0 dBであるが,位相は同じ範囲で+30°位から徐々に遅れていき,1 rad/secあたりで丁度同位相,10 rad/secでは-180°程の遅れを示している。このことから,三半規管は1 rad/sec付近の回転運動に対しては角速度検出器として美事に作動するが,それより低周波や高周波の入力に対しては主観的回転感覚は特に位相の面で信用できないことになる。雲の中など低視程環境での低周波旋回飛行を水平直線飛行と感じたり,スピンを続けて急停止すると逆スピンをしているように感じるのはこのような三半規管の特性から生じる錯覚である。フィギュアスケータの回転感覚には多分に順応( Adaptation )や馴化( Habituation )の作用があると考えられるが,これらの作用は三半規管自体だけでは説明できず,中枢神経系( Central Nervous System )の役割が大きいようだ。
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次に耳石であるが,これは三半規管に比べるとまだ良く理解されていない。というのは,耳石は卵形のう( Utriculus )と球形のう( Sacculus )に一式ずつ収められているが,卵形のうの方は明らかに直線加速度検出器であることが認められるものの,球形のうの方は構造は類似であるのにその働きは不明だからである。ここでは直線加速度検出器としての卵形のうの方を取扱う。図1に示すように,卵形のうは耳石とそれを支える有毛支持細胞( Macula )及び神経組織から成る系を包んでいる。耳石自身は炭酸石灰を成分とする多数の平衡砂( Otoconia )であり,直線加速度入力により感覚細胞の毛の曲げ変形が神経系へ伝えられる。しかし,曲げ変形だけでは二軸方向の加速度検出が主となるので,圧縮力も伝えられるのかも知れない。一軸加速度入力による実験解析によれば,耳石系は三半規管と同様に過減衰二次系のモデル化が可能で,従って実際には速度検出器として作動し,その特性が良好な周波数領域は0.2<ω<1.5 rad/secである。耳石系は合成加速度を検知するので,例えば電車がカーブした軌道を走ると乗客は窓外の家や木が傾いていると感じる。勿論これは視覚系が運動感覚系と連動しているためである。また,宇宙飛行士の訓練のために軌道飛行による自由落下の実験が行われるが,この無重力状態では定常の重力加速度入力が無いので飛行士には上下感覚が無い筈である。にもかかわらず上下感覚の幻覚があることが報告されているが,これは瞬間的頭部の運動による加速度情報が誤認されているためであろうと思われる。
上述の前庭器官や視覚による情報の他に,人間は触覚や知覚神経端末からの情報を空間識に役立てている。触覚は圧力センサーと見なされるが,日常経験するように,圧力刺戟の微分値の検知がその主な役割である。一方,各知覚神経端末からの情報は定常の空間識を得るために用いられる。例えば,手足の位置,各筋肉の長さや張力などは上下位置関係や外力の認識に役立てられる。

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(ごとう・のりひろ)
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