先日,日本のゴールデンウィークそのままぴったりに,アメリカを東部から西部へと渡ってきた。旅行と喜ぶべきか,仕事かよと嘆くべきか。気がかりだったのは,出発前から咳が出ていたこと。SARS全盛の時代である。まずい,このままでは成田で拘禁の運命か??
旅の前半は,ペンシルバニアにてガンマ線衛星Swiftの会議である。ペン・ステート大学は,のどかな丘陵に惚然と建つ人工的な大学町で,広ーいキャンパス,芝生の丘,そして,住人全員が大学生か??と思うほど,とにかく若い! アパートのベランダで仲間と語らい,バーベキューを楽しむ。なんとのんびりとした,自由なアメリカン・キャンパス・ライフ(造語)なのだろう。懐かしいような,悲しいような,甘ずっぱい思いが…。こんな大学生活がしてみたかった…。
すっかり「羨ましモード」の中,気分を入れ換えて,仕事もきっちり済ませる。今回の会議は,我々も貢献している衛星そのものの準備状況と,その後の観測計画の議論であり,研究費の配分も絡むため,みなさん真剣である。アメリカ人のこうした議論は,いろいろな意味で大変参考になった。衛星のターゲット,「ガンマ線バースト」は,宇宙の一点が数秒ばかりガンマ線で突然明るく輝くことであり,「宇宙の最果てでの,宇宙最大の爆発」という魅力的な天体現象である。しかし,いつどこで起きるのか予想ができないので,Swift 衛星はガンマ線用の大口を開けて,宇宙(そら)が光るのをじっと,ちょうちんあんこうのように待っているのである。24時間営業が約束されている新・運用センターを見学して会議も終了。続いて,サンフランシスコへと向かう機中の人となった。飛行機の中は極めつけに乾燥している。咳は悪化をたどるのみ…。まずい。
旅の後半はリバモアの研究所で,ガンマ線気球実験の打合せである。東京から来た関係者と合流してから,リバモアの研究員のS氏に,サンフランシスコ風レストランにつれていってもらった(シスコは飯がうまい!)。S氏は,好人物である。皆さんはフリーダムフライをご存知だろうか? フランスと外交的に喧嘩したアメリカで,国会の食堂からフレンチフライという名前をなくし,フリーダムフライと名付けた件である。彼いわく,「ここカリフォルニアでレストランに入り,”フリーダムフライだ!”と叫べば,店内大爆笑だよ。みんなばかばかしいと思っているから。でも決して中部でやってはいけないよ,ボコボコにされてしまうよ。」さすがアメリカ,懐が広くも狭くもある…。
次の日はリバモアの研究所に行った。原爆も作ったような施設なので,カメラは持ち込み禁止。ゲートまで持ってくるだけでトラブルの元だそうなので,注意。そんな立派な施設にしては,なぜか建物の半分はプレハブである。その中で,Bill Craig 博士の気球実験装置の話を聞き,その実物,6 mくらいのゴンドラを見せて頂いた。一つ一つのパートは,我々にも理解できる。しかし,全体を組み合わせると素晴らしいの一言である。特に,構造/姿勢系が格好いい。格好の悪い装置は一般に不具合が多く,まじめな話これは美的な好悪だけの問題ではない。我々もあれに匹敵する装置を作らなくては!
シスコの最終日の土曜。快晴,ではなかったが,雲の悠々と流れる,絵に出てくるような素晴らしい空である。こんな日は…,ということで,ゴールデンゲートブリッジを自転車で渡ることにした。これが大当たりであった。私は海が好きで,船が好きで,特に帆船が大好きである。湾に沿って行くと,さまざまな船が行き交い,帆船がのんびりと訓練航海をしている。対岸の,サルサリトの町も素晴らしい。引退のおりには是非ここに別荘を…。空も,海も,青い中に雲を浮かべている。この天気はやはり日頃の行いに違いない!(ゴホッゴホッ,うっ,苦しい…。)
マスクをしながら,日曜にさりげなく入国ゲート等を突破して,帰宅。月曜からすぐ出勤すると,しかし,会うひと皆にSARS,SARS といわれる。いや,高熱は出ていないから(微熱はあった)違う!と頑張ってみても,本人もだんだん恐くなる始末。大切な仲間たちに伝染すわけにはいかない。やむなく病院に行くと,危険地域を通ってないのでちがうと言われ,ひと安心。「海外から帰ってきて咳が…」と言ったときの看護婦さんたちのえらい緊張と,「アメリカしか行っていないんですけど〜」といった途端の,な〜んだ,といわんばかりの脱力が,なんとも印象に残った。健康には気をつけよう。
(なかざわ・かずひろ)