No.214
1999.1

ISASニュース 1999.1 No.214

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宇宙輸送のこれから(最終回) 

これからのはじまりと問題の所在


稲谷芳文  

 次の時代の輸送システムについて考えるために,現在の時点で提案されているシステムや,考えるべき課題などについて連載を続けてきました。  将来の輸送の姿については,完全な再使用によって宇宙輸送の形態を質的に変え,これによって大幅な輸送コストの低減と宇宙への容易なアクセスを可能ならしめる,と言うところまでの合意は一応得られていると言ってよいのでしょう。ところが,その先の各論となるとなかなか話が一本になっていない,と言うのが現状です。例えば性能の意味では,いわゆるスペースプレーンでは空気を吸い込むとロケットに比べて得になることは分かっているが問題はその程度であって,外の空気を使うが故に損になることも多くて技術的に難しいことが色々と残っていること,単段ロケットの場合も軽量化がその完全再使用化の鍵であるが一見もっともらしい提案もあるけれども誰もそれを実証していないし,単段式輸送システムに対して懐疑的な人も多いこと,など技術論の意味でどちらがよいかと言う話ですら決着がついていません。

 だから基礎的な研究も含めて開発投資をもっと大々的にやるべきだと言うのが研究開発の現場にいる人たちの主張なのですが,なかなか予算獲得に至らないのは,コストダウンを目標に掲げながら開発の規模がこれまでになされた日本の宇宙開発での経験の中でもかなり大きなものとなって,初期投資の大きさに比べて先で期待されるリターンを明確に示せていないことが問題のひとつとして挙げられます。今こんな技術開発に投資すればこんな立派なスペースプレーンができます,とは言っても「それを作ってどうするの?」と問われて誰もが自分が得をすると思えるような明解な答えを用意できていなければ,それは研究者の独りよがりで,これではだれも投資する気にならないと知るべきでしょう。


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 連載では宇宙旅行の話にも触れましたが,宇宙への輸送が国が税金を使ってやる仕事だけという図式は色々なところで既に崩れています。NASA がシャトルの次に考えている完全な再使用の機体も今の内は国も投資をするけれども,民間の資金を使って開発して行こうと言う考えです。勿論これを使ってやる打上げはビジネスの対象であって,これがもっと進むとどうなるかというと,「こんなにいい SSTO ができたので,作るのはアメリカがやりますから日本はこれを買って運航しなさい」と言う現在の飛行機の業界の製造者と運行会社の図式と同じことになってしまう,と言う人もいます。要するにビジネスとは弱肉強食の世界です。せいぜい下請けぐらいはあるかも知れません

 宇宙輸送の質的な変革のために必要な先行投資は大きな規模になるのは避けられません。アメリカのやり方を大げさに宣伝して危機意識を煽るのは正しいやりかたではありませんが,大きな開発になればなるほど社会的な認知が必要になるのは自明のことでしょう。開発を進めるためのコンセンサスを得るためには,研究者だけが難しいことをやって満足しているようなことでなく,こんなものを作ればこんなに宇宙が身近なものになったと一般の人が実感できるような仕事を積み重ねることだと思います。社会的な認知とは,今のロケットの打上げのように固唾をのんで見守ると言うことでなく,みんなの見ている前で安全に宇宙との往復が,例えば羽田から飛行機が飛んだり降りたりする様に,あるいは何回も飛んで見せてそのようになる可能性があるということを示す,ということでこれが結局は近道なのだと思います。

 これで連載を終わります。この話はキャッチアップのフェイズの開発ではなく,フロントに立って物事を決めていく場面であることの認識をまずすべきです。もう一つは宇宙の仕事を世間から隔離された特別な地位に置いておこう,今の程度の税金は使えるのだから,と言う考えでは輸送の質的な変革にはたどり着けないことも事実のようです。輸送とは結局はサービスです。

(いなたに・よしふみ)



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