No.202
1998.1

ISASニュース 1998.1 No.202

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新スペースVLBI入門 (最終回)
−将来の干渉計は?−

村田泰宏

 前回まで,干渉計の原理から実際に画像が作成されるまでの道筋を簡単に述べました。今回は,最終回ということで,VSOPを始め,干渉計形式の望遠鏡の現状と今後を『かなり』の主観を交えて述べたいと思います。

 いままで,あれこれ書きましたが,要は,「干渉計およびVLBIの技術を使うと,複数の望遠鏡を1つの望遠鏡として使うことができる!」ということです。いままでの話では,望遠鏡を離して置くと,システムの感度および位相安定度(いかに安定に波の山と山を合わせることができるか)が許す限り,解像度を上げることができます。このことは,VSOPでも実証済みです。

もう1つ望遠鏡を合成できると嬉しいことがあります。それは,天体からの電磁波を検出する感度は,電磁波を受ける望遠鏡の開口面積が大きいほど,その面積に比例して上がります(検出感度が装置自体の雑音などによる場合)。干渉計技術の確立する以前は,微弱な電磁波を検出するためには,大きなアンテナを作りました。ドイツの口径100mの望遠鏡,アレシボの谷間に作った305mの望遠鏡等々です。アレシボの望遠鏡は巨大な開口を持つ代償として,鏡面が動かせないために観測可能天域が狭くなっています。ドイツの望遠鏡も大きな鏡面を動かしているために,望遠鏡の指向誤差に気を使わないとなりません。それでも口径100mは強力な望遠鏡で数多くの天文学の成果を出してきました。

 ドイツの望遠鏡を意識して作られたのがVLAで,口径25mのアンテナ27基によって構成される干渉計型の望遠鏡で,開口面の面積は,口径130m相当の望遠鏡に匹敵し,稼働式望遠鏡としては,センチ波(波長10〜1cmの電磁波)では世界最大の感度を持ちます。しかも,100mの望遠鏡は,構造的に限界に近く,これ以上開口面積を増やすのは技術的に難しいのに対し,干渉計の場合は「技術的には」,同じアンテナを増やせばいいので,感度を上げるのは,一枚鏡の望遠鏡に比べると容易です。しかも,解像度も得られるし,指向精度も一枚鏡ほどは問題になりません。

 これらの干渉計の利点から,日本のLMSAや米国のMMAなど野辺山の45m鏡に続く次世代のミリ波サブミリ波(波長10mm〜0.1mm)の望遠鏡計画は全て干渉計型の望遠鏡を提案しています。また,赤外線や可視光でも干渉計実験の試みが行われており,電波天文学から始まった干渉計方式の望遠鏡が,短い波長の電磁波へ広がって行っています。ただ,波長が短い分だけ大変です。波長の短い電磁波を電波で行われているのと同じようにヘテロダイン方式で受信することが難しいのも1つの原因ですが,もう1つの大きな要因は大気です。大気によって電磁波の地上への到達時刻は短時間で変動します。時間遅れの変動が1ピコ秒(1兆分の1秒)あったとすると電波の場合は,波の山と山(位相)のずれは波長1センチの30分の1しかずれず,相関結果には影響がでません。ところが,この時間遅れの間に可視光の場合では波の山が500個もあり,波の位相を合わせるには大問題です。多くの研究者が,位相合わせに苦労しています。

 そのような苦労は,干渉計を大気のない宇宙へ持って行けばなくなります。そのことは,ハッブル宇宙望遠鏡が出した強烈な観測結果が示しています。もちろん,衛星を作って上げること自体,別の大きな苦労が発生しますが,現在の電波天文学での干渉計の威力を見ると,将来は他の波長域でも干渉計方式の望遠鏡が従来の観測装置に対して優位に立ち,しかも,短い波長での波の乱れの問題を解決するために,宇宙でやるという方向になると考えられます。特に,天文学者がもっと高解像度,高感度の観測を各波長の観測装置に対して要求して行くようになるでしょう(これは,天文学者の習性を考えると確かでしょう)。いままで地上でやってきた波長域でもより高精度の観測を要求されれば,「宇宙干渉計」がそれらの要求を満たす1つの有力な方法です。干渉計なら望遠鏡を分割できますので,ロケットの大きさに合わせて分割し,GPS衛星のように次から次へと衛星を上げてやれば,どんどん開口面積が増えて感度を上げられます。「はるか」クラスでも160個上げれば,ドイツの100m鏡並になります。

 最後は笑い話に近くなってしまいました。いつ頃になるか皆目検討もつきませんが,世界中の天文学者が,今より2桁も3桁も高い感度/解像度の観測データを手にし,想像もつかないようなことを議論しているような状況を生み出すような観測装置をつくりたいなと思います。日本のグループを中心に,「はるか」で「宇宙干渉計」に向けた半歩(半分は地上なので)を踏み出しました。この流れを閉ざさないように,笑い話が笑い話でなくなるようにがんばりたいと思います。

(むらた・やすひろ)



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