No.194
1997.5

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1.5   制御系の開発

1.5.2  制御系の開発経緯


 姿勢制御装置が取り付けられた3段目計器部

 制御系レビューという今や悪名高い会議も,始まった頃は結構参加していた方も多かったと思う。当初から長い会議の代名詞で,昼1時から始まると終わるのは夜10時といった状況がずーっと,おそらく1年にもわたって続いた。会議は,大体1ヵ月に一度のペースで行われ,結局打上げまでに20数回ものレビューが行われた。辛抱強く参加を頂き,大変有難かった。ヤリスギとの評も風にのって届いていたが,実はこうして成功した今でも,まだまだと考えているのが正直なところである。

 よく言われることだが,宇宙開発で最も難しいのは,試行錯誤の過程がほとんどないということである。新しいロケットを作る場合でも,事前に知りうることはほとんどが数学モデルでしかない。その数学モデルがどのくらい正しそうなのか,あるいはどのくらいの不確定性を含んでいるのかを見極めることが,この制御系レビューの主題だったわけである。全ての段が新しいロケットを打ち上げることは世界的にも少ないと思うが,どのくらい検討すると,どのくらいの完成度になるのかという感触は今回よく把めたと思う。宇宙研は,M-3Sの8号機で苦い思いをするまで,実に順調に打上げに成功してきたが,全て新しいロケットを作り上げようとしてきたのは,本当は無理をしていまいかと,あの不具合の後はずいぶん考えさせられた。この問題にも答えが出せたわけで,感慨もひとしおというところである。

 どの段のアクチュエータも新しいものばかりだったから,制御系の検討はその数学モデルの構築と試験結果の整合性をとる作業がほとんど全てであったと思う。この短期間に少ない回数の試験で,よくモデルを追い込めたものだと思う。ファイバジャイロは可動部分がないため機械環境に強いといわれるが,実際の開発は皮肉にも全く振動対策そのものだった。その対応に追われ,残念ながら半年間打上げは延期されてしまったが,この半年の間に講じられたいくつかの対応によって,ようやくINGも一人前になったといえるのではないだろうか。

 レビューの内容は,この他にも軌道計画から構造荷重解析まで,非常に広い範囲のテーマを扱った。そういった分類しがたい分野の検討の集合が制御系レビューの実態であったといえる。キーメンバーは最後まで減らなかったが,これも各担当者の方々の強い決意の現れだったと思う。

 発射のまさにその朝まで最後のアクションの消化に追われたが,これもまさに粘りの現れだろう。発射の直前,この強い横風でも大丈夫だろうかと問い合わせがあったが,コントローラがスタートせんとしていた段階でもなお計算をしていた人もいたくらいだから,粘りもここに極まれりといったところであろうか。発射後のテレメータデータは,それまでレビューで見なれていた何かしら問題のある場合とはうって変わって,拍子抜けのするくらい順調なものだった。こういうものなのだというのが実感であった。

(川口淳一郎)



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ISASニュース No.194 (無断転載不可)