1.1 Mロケットの歴史とM-V開発の経緯
【歴史】
L-4S-5による「おおすみ」の打上げ(1970.2.11)

Mロケットは,1971年のM-4Sの成功以来改良を重ね,わが国の宇宙科学研究を支えてきた。初代のM-4Sは4段式で,尾翼とスピンによって姿勢の安定を保ち,いわゆる重力ターン方式による軌道投入が行われた。この方式を実証するためのL-4Sロケットによって,1970年わが国初の人工衛星「おおすみ」が誕生している。2代目のM-3Cは3段式で,新規開発の第2・3段を用い,第2段に推力方向制御装置(TVC)を導入することによって,軌道精度が格段に向上した。M-3Cの第1段を従来の3セグメントから4セグメントに延長したのがM-3Hで,約20%の全備重量増で約50%の軌道投入能力増を実現した。さらに第1段にTVCを導入したのが3代目のM-3Sで,これにより機体としての完成度が高まった。
M-3SII型ロケット(1985〜1995)

第4世代のM-3Sは,M-3Sの第2・3段を新規開発して大型化するとともに,補助ブースタを2基のラムダロケットに変更することによって能力を増強したもので,各段における質的な向上によって約20%の全備重量増で2倍を越える軌道投入能力を実現した。M-3Sは,1〜2号機の「さきがけ」「すいせい」によるハレー彗星探査にはじまり,X線天文衛星「ぎんが」,オーロラ観測衛星「あけぼの」,工学実験(スウィングバイ技術)衛星「ひてん」,太陽観測衛星「ようこう」,X線天文衛星「あすか」と7つの科学衛星の打上げに成功し,これによりわが国の宇宙科学は世界の最先端に躍り出ることとなった。このような状況を踏まえ,1990年代後半以降の月・惑星探査を含むより高度な科学ミッションに対応すべく計画されたのがM-Vである。