金星探査機「あかつき」には5つのカメラが搭載されています。このうち2つのカメラ(1μmカメラと2μmカメラ)について、JAXAは科学観測を休止することを決定しました。他のカメラ(中間赤外カメラ、紫外イメージャ、雷・大気光カメラ)は正常に観測を継続しています。

「あかつき」に搭載されている1μmカメラ(IR1)と2μmカメラ(IR2)は、平成28(2016)年12月9日に2つのカメラを制御する機器が示す電流値が不安定になり、翌12月10日の可視運用では両カメラのスイッチを入れることができなくなりました。「あかつき」プロジェクトチームは12月10日からリカバリー作業を開始しました。しかし、電流値の不安定は改善されていません。

同時に、電流が不安定となった原因の究明も進めています。いくつかの直接的かつ可能性の高い原因を調査し、再現実験なども行っていますが、いずれも機器劣化に起因する可能性が高いと考えられます。「あかつき」は平成22(2010)年5月の打上げ後、約7年が経過しています。また、平成22(2010)年の金星周回軌道投入に失敗し、平成27(2015)年の金星周回軌道投入まで想定よりも高い放射線環境に耐える必要がありました。こういった状況により機器劣化が進んだものと考えられます。

IR1とIR2の観測は休止しますが、JAXAでは2つのカメラの復旧に向けた地上検討を継続し、また、定期的に両カメラのスイッチを入れるコマンドを送信する予定です。

「あかつき」は金星の大気の運動を観測し、金星大気の3次元的な動きを明らかにして、金星の気象学を確立することを目的とした探査機です。(参考:金星大気の観測
平成27(2015)年12月に金星周回軌道への投入に成功後、「あかつき」は平成28(2016)年4月から本格観測を開始しました。「あかつき」は搭載された6つの観測装置(参考:探査機を知る)によって様々な高度の大気を観測できるように設計されています。
これまでの観測データから金星の3次元的な雲の動きが明らかになりつつあります。また、これまでに考えられなかった現象も発見しています。

図:IR2が捕らえた金星の雲底部に出現した大気渦。地球では見られる現象だが、金星で観測されたのは初めて。

図:IR2が捕らえた金星の雲底部に出現した大気渦。地球では見られる現象だが、金星で観測されたのは初めて。( © ISAS/JAXA)

その一つが、局所的な渦です。このような渦は地球では見られる現象ですが、金星で観測されたのは初めてです。スーパーローテーション(雲頂の速さが秒速100mもある東風)のような大気の激しい流れを持つ金星の大気で局所的に渦が発生するということは、これまで考えられていなかった強い南北流やスーパーローテーションの流れをブロックする大気構造があることを示唆しています。

「あかつき」プロジェクトチームでは、引き続きIR1とIR2のリカバリーに向けた努力を行いつつ、他の観測機器による科学観測を継続します。同時に取得したデータから金星大気の知見を得る研究を行っています。