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地球超高層大気撮像観測ミッション(ISS-IMAP)の初観測データ取得について

国際宇宙ステーション(ISS)の「きぼう」日本実験棟船外実験プラットフォームからの地球超高層大気撮像観測ミッション ISS-IMAP(Ionosphere, Mesosphere, upper Atmosphere, and Plasmasphere mapping)が初の観測データを取得しました。

ISS-IMAPミッションは、地球大気と宇宙の境界領域で大気が光り輝く現象(大気光、プラズマ共鳴散乱光)をVISI(可視・近赤外分光撮像装置)とEUVI(極端紫外光撮像装置)と呼ばれる2台のカメラで観測し、地球の気候変動や衛星通信・GPSナビゲーションシステムの受信障害・精度劣化などの原因をさぐることを目的としています。宇宙航空研究開発機構(JAXA)、京都大学、東北大学、東京大学、名古屋大学、九州大学、情報通信研究機構、国立極地研究所などの研究者による共同研究として、7月21日打ち上げの「こうのとり3号機」によってISSへ運ばれ、宇宙飛行士によって取り付けられました。その後、8月からの初期観測を終え、10月15日から定常観測を開始しました。初観測データは9月25日〜26日の初期観測時に取得されました。

ISS-IMAP/VISIの大気光の観測:2012年9月25日
図1はISSが大西洋上空からポルトガル、フランス上空にさしかかる地域でVISIが撮影した画像です。右の画像は背景光と呼んでいる「大気光」が光っていない波長の光を使って撮影した画像で、ハリケーンの渦状の雲や、町灯りが写っています。左の画像は、波長が762nm(近赤外線)の大気光の撮影画像です。波長762nmの光は大気の酸素分子で吸収されるため、町灯りや雲からの月光の反射光のうち波長762nmの光はISSまでは届かず、ISSに近い高高度(高度95km)で発光する大気光のみが撮影されます。このISS-IMAP/VISIの波長762nmの大気光の観測によって、世界で初めて、高度95kmの超高層大気が水平波長数十kmで波打つ様子を宇宙から観測することができました(オレンジ色の中に見える白い斜めの線が1つ1つの波)。これらの波は、重力があるために大気が波打つ現象で、大気重力波と呼ばれています。宇宙からの観測によって、これまでは観測できなかった地域での観測が出来、地球全体での変動の様子を捉える事が出来ます。

ISS-IMAP/EUVIのイオン共鳴散乱光の観測:2012年9月26日
図2は太平洋上空でのEUVIによる撮影です。高度1,000km以上の高高度まで広がる電離圏のヘリウムイオンが光る様子が観測できました。とても弱い光なのですが、設計通り超高感度で撮影できることが確認できました。画像の左右と上側が暗くなっているのは装置の感度特性のためです。

図1

図1 ISS-IMAP/VISIの762nm大気光撮影画像
  2012年9月25日11:20(日本時間)付近の観測

図2

図2 ISS-IMAP/EUVIのHeイオンの共鳴散乱光
  撮影画像:2012年9月26日16:30(日本時間)
  ニュージーランド上空付近での観測

【齊藤昭則 京都大学准教授(ISS-IMAP代表研究者)のコメント】
VISIとEUVIの両機器とも設計した通りの超高感度で「目には見えない大気の光」が観測できることが確認できました。これから2年間にわたる観測によって、これまで捉えることができなかった地球全体での超高層大気や電離圏の激しい変動のようすを観測していきます。このミッションによって、地球全体の気候変動の状態や衛星通信・GPSナビゲーションシステムの受信障害・精度劣化などの原因を調べていくことができると期待しています。

(補足資料)地球超高層大気撮像観測ミッション ISS-IMAPについて

ISS-IMAPミッションの観測装置はISSの「きぼう」日本実験棟船外実験プラットフォームに設置されているポート共有実験装置(MCE)に搭載されています。本年7月21日に種子島宇宙センターから打ち上げられたHTV-3(こうのとり3号機)によってISSに送られ、8月9日に日本実験棟「きぼう」の船外プラットフォームに宇宙飛行士によって取り付けられました。

ISS-IMAPの2つの観測装置と視野

ISS-IMAPにはVISI(可視・近赤外分光撮像装置)と呼ばれる可視光と近赤外光で大気光を撮影する装置と、EUVI(極端紫外線撮像装置)と呼ばれる紫外線でプラズマ散乱光を撮影する2つの装置があります。

VISIはスリットカメラになっており、地球を見下ろすように下部に取り付けられ、スキャナのように地球表面をスキャンしながら、酸素原子(O)と水酸基分子(OH)、酸素分子(O2)の3つの原子・分子が出す大気光を撮影します。EUVIは地球の縁とその上の空間を見るように後方に向けて取り付けられ、ヘリウム原子イオンと酸素原子イオンが太陽からの紫外線を散乱して出す光を撮影します。

図3に、宇宙ステーションからの写真にVISIとEUVIの視野の概要を示してあります。通常の撮影では、大気からの光としては右側に見られるオーロラと地表近くの雲しか撮影できませんが、ISS-IMAPによる超高感度な撮影では、暗闇となっている大気圏最外部や雲の上で、大気が光っている様子を撮影することができます。

図3

図3 ISSよりデジタルカメラで撮影した画像にIMAP/VISIとIMAP/EUVIのおおよその視野を記入 [画像提供:NASA]

観測ターゲット

ISS-IMAPが観測ターゲットとしている「大気光」や「プラズマ共鳴散乱光:電離圏のプラズマ(荷電粒子)が太陽光を散乱した光」は、地球大気と宇宙の境界領域(超高層大気:高度約85km〜20,000km)で大気そのものが光り輝く現象です。この領域で大気が光り輝く現象としてはオーロラが注目されてきましたが、ISS-IMAPの超高感度な観測装置は、オーロラだけではなく、光がとても弱くてこれまで観測することができなかった「大気光」と「プラズマ共鳴散乱光」の画像を撮影することができます。これまで観測することができなかった現象をとらえることができるため、超高層大気について新しい事実がわかると期待されています。

ISS-IMAPは、宇宙から雲に遮られること無く観測することができ、ISSの動きを利用して地球全体をスキャンしながら撮影ができるため、「大気光」や「プラズマ散乱光」を天気に左右されることなく地球全体で観測できます。

観測される現象

大気波動(大気重力波)

「大気光」を撮影すると、超高層大気が海のように波打つ「大気波動(大気重力波)」という自然現象を観測することができます。「大気波動」は地球大気の中でエネルギーなどを輸送する重要な役割があり、気候変動に大きく影響しています。2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震後にも、大気波動が海面隆起によって発生し、超高層大気まで伝わった事が明らかになっています。ISS-IMAPでは、この「大気波動」の発生や変動を観測することができるため、超高層大気が「大気波動」によってどのように変化するかを調べることができます。

電離圏の乱れ(プラズマ擾乱)

「プラズマ散乱光」を撮影すると、やはり電離圏が波打つ様子を観測することができます。電離圏が波打ったり、乱れたりすると、衛星電波などに乱れを引き起こし、衛星通信や、GPSナビゲーションシステムの受信障害・精度劣化などの原因となります。ISS-IMAPでこの電離圏の乱れを、詳しく観測・監視することにより、衛星通信・GPSナビゲーションシステムの受信障害・精度劣化などを防止する方法を考えることができるようになります。

図4

図4 2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震後に発生した大気重力波で揺さぶられた高度300kmの電離圏プラズマ。中央の星印が震源を示す。
観測データが一様でなく日本列島の形をしているのは、日本列島に配備されたGPS観測網が異なるGPS衛星に対して計測したデータに基づいて総合的に解析したためで、全体像の一部分しかとらえられていない。
宇宙から観測を行えば地球上の任意の地点で発生しているこの種の現象の全体像を把握することができる。[画像提供:京都大学]

2012年12月21日

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