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「はやぶさ」搭載電池で電気化学会論文賞受賞

「はやぶさ」用リチウムイオン二次電池の微小重力下での運用性評価に係る論文について、投稿先のElectrochemistryを編纂する電気化学会殿から、電気化学会論文賞を授与されましたことを、感謝とともにご報告申し上げます。

「はやぶさ」において、日本は世界に先駆けて大容量リチウムイオン二次電池の実用化が図られました。この電池の採用がきまった頃は、まだリチウムイオン二次電池がようやく民生市場に出回り始めたことでありました。

電池は、正極と負極の電極材料で、電解液をしみこませたセパレータを挟んで構成されます。宇宙で使用するときには周囲が真空になりますから、これらの構成材料を電池ケースにいれて密封されています。

従来の宇宙用電池はニッケルカドミウム電池やニッケル水素電池でした。これらの電池では電解液として水酸化カリウムの水溶液が使用されており、これをセパレータと呼ばれる不織布にしみこませていました。電解液の量は非常に少なく、セパレータの湿り具合として、関係者の間では「固く絞った雑巾程度」という表現がされるくらいです。

それに対して、新型のリチウムイオン二次電池では豊富に電解液を使用します。セパレータは言葉通りに隔膜の役割は果たしますが、電解液は電池内部で比較的動きやすい状態となっています。宇宙の微小重力環境のもとで、このような電池がどのような性能を発揮するかは是非とも確認したい事案でした。宇宙空間での性能を精密に地上試験データと比較することにより、「はやぶさ」がイトカワに到達した際にどの程度の活動までが許容できるかを定量的に示すことが可能になります。

「はやぶさ」の電源運用に係る3つの組織(電池製造メーカである古河電池殿、電源系を製造したNEC東芝スペースシステムズ殿、JAXA)では協議を重ね、世界で初めて軌道上の微小重力環境のもとで衛星に搭載された状態でのリチウムイオン二次電池の完全な容量確認試験を実施しました。結果として、電池の性能の変化は地上試験データから予測可能な範囲にあることや、電解液の偏在によるような内部抵抗の上昇や各素電池間の容量バラツキも見られないことが確認されております。

このたび電気化学会殿から表彰いただいた論文は、この容量確認を行った結果をまとめたものです。

受賞対象となった論文タイトル等の詳細は以下の通りです。

受賞対象論文
題名: The Performance of the Lithium-ion Secondary Cells under Micro-Gravity Conditions. -In-Orbit Operation of the Interplanetary Spacecraft 'HAYABUSA'.
著者: Yoshitsugu Sone1), Hiroki Ooto2), Masaaki Kubota2), Masahiro Yamamoto2), Hiroyuki Yoshida2), Takashi Eguro2), Shigeru Sakai2), Teiji Yoshida3), Masatoshi Uno1), Kazuyuki Hirose1), Michio Tajima1), Jun'ichiro Kawaguchi1)
1) Japan Aerospace Exploration Agency,
2) Furukawa Battery Co. Ltd.,
3) NEC Toshiba Space Systems, Ltd.
雑誌: Electrochemistry, pp. 518-522, 75, No. 7, (2007).
(「はやぶさ」は、この容量確認試験の後、イトカワに到達しました。ここで得られた知見は、後のイトカワ到達時の電力管理や、イトカワ離脱時のバッテリ過放電時後の運用における貴重な知見として活用させて頂きました。イトカワ離脱時に発生したバッテリの過放電と、その後一度だけ行った充電作業結果についても、上記と同じElectrochemistry殿に論文投稿を行っており、2007年12月号に掲載いただいております。)

2008年3月30日に電気化学会第75回大会にて授賞式が開かれました。授賞式と併せて開かれた第27回加藤記念講演会の中で、内閣府総合科学技術会議の相澤益男先生から日本の科学技術政策の中でのフロンティアの位置づけについてお話があった折に本受賞についてふれられ、電気化学分野が特殊用途の電池という領域から貢献していることについて言及を頂きましたことを、併せてご報告致します。

「はやぶさ」電源系運用においては、ISASホームページ、ISASメールマガジン、ISASニュース等をご覧の皆様から暖かく力強い応援を頂いて参りましたことが、常に我々の励みとなっております。心より御礼申し上げます。

本受賞については、Electrochemistryの2008年7月号におきましても受賞対象者全員の写真とともに報告いただけるとのことです。

宇宙の電池屋 曽根理嗣

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2008年5月26日

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