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トピックス

超新星爆発の衝撃波で宇宙線は極めて短時間(1年程度)で加速されていた
−「すざく」衛星とアメリカの「チャンドラ」衛星のX線観測より発見−

宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究本部(ISAS)の内山泰伸研究員を中心とする研究グループは、日本のX線天文衛星「すざく」とアメリカのX線天文衛星「チャンドラ」を用いた観測により、さそり座にある超新星残骸の一つで、電子・陽子のエネルギーと磁場のエネルギーが互いに増幅しあうことにより、とてつもない速さで高エネルギー宇宙線が生成され続けていることを突き止めました。
これにより、超新星爆発によって星間空間に形成される衝撃波が、地球に降り注ぐ宇宙線を作り出す源であるという長年の仮説が非常に確からしいものとなりました。

これらの発見は英科学誌ネイチャー10月4日号に掲載されています。

宇宙線の起源

宇宙線は、宇宙空間をほぼ光速で飛び交い、地球に降り注いでくる高エネルギーの荷電粒子のことで、われわれの体にも毎秒100個程度の宇宙線が貫いています。20世紀初頭の宇宙線の発見(宇宙線を発見した Victor Hess は1936年ノーベル物理学賞を受賞)以来、このような高エネルギーの粒子が宇宙空間で生成するメカニズムについては長いあいだ謎とされてきました。1978年頃に提唱された「衝撃波統計加速理論」の発展や、最近の「あすか」衛星(日本)、チャンドラ衛星(アメリカ)、大気チェレンコフ望遠鏡HESS(ドイツ)による観測結果によって、宇宙線の大部分は太陽よりも約8倍以上重い星が重力崩壊したときの超新星爆発の衝撃波により加速されることが有力な仮説となってきていました。

超新星残骸 RX J1713.7-3946

さそり座の尾の中に位置した星が終焉を迎えて爆発して(超新星爆発)発生した衝撃波が超新星残骸 RX J1713.7-3946 を高エネルギーの光(X線、ガンマ線)で輝かせています(図1)。地球からの距離は3000光年程度と推定されています。(中国の文献から西暦393年に爆発したと考えられています。)
数百ギガ電子ボルト(ギガは10の9乗)を超えたエネルギーを持つ宇宙線の存在を示すX線(シンクロトロン放射)や超高エネルギーガンマ線での明るさは銀河系の天体の中でも際立っています。これらの事実から、この超新星残骸こそが長いあいだ人類が探し求めてきた「宇宙線の製造工場」なのではないかと、近年、特に注目を浴びてきました。

図1 (左)超新星残骸 RX J1713.7-3946(右)「すざく」衛星によって得られた RX J1713.7-3946 のX線像

図1 (左)超新星残骸 RX J1713.7-3946 はさそり座の尾の中、銀河面(天の川)上に位置しています。(右)「すざく」衛星によって得られた RX J1713.7-3946 のX線像(田中孝明 博士論文 東京大学 2007年)。黄色や赤色はX線が強い部分を示します。大気チェレンコフ望遠鏡HESSで得られた超高エネルギーガンマ線像(Aharonian et al. Nature 432 p.75 2004)を等高線で重ねてあります。

今回の結果の概要

本研究グループは、広いエネルギー範囲にわたって優れたX線エネルギー(波長)測定能力を持つ「すざく」衛星と、圧倒的な解像度のX線望遠鏡を持つ「チャンドラ」衛星の2つのX線衛星を使って、この天体の観測を大規模に行ってきました。まず、「チャンドラ」衛星のデータが、われわれに画期的な発見をもたらしました。2000年、2005年、2006年と、時が経つにしたがい変化してゆくX線画像が得られたのです(図2)。BX線画像は宇宙線に含まれる高エネルギー電子の分布を示しているため、宇宙線が1年という短期間でエネルギーを得る(「加速」される)過程が、はじめて直接的に捉えられたことになります。「宇宙線の製造工場」の過程が明らかになった、ともいえます。1年という極めて短い時間でこれだけのX線強度を変動させるためには、1ミリガウスもの強度の磁場が必要であり、宇宙線の加速にともなって強い磁場が発生していることも判明しました。また、このことから、超高エネルギーガンマ線が宇宙線の主成分である陽子によって、中性パイ中間子の生成崩壊を通して作られていることもわかりました。

図2

図2 Uchiyama et al. Nature 2007 より転載。
a: 超新星残骸 RX J1713.7-3946 の西側外殻。「チャンドラ」衛星によるX線像をカラーで表示。等高線は超高エネルギーガンマ線像。
b: パネルaの中に示した box(b)の拡大図の時間的な変遷。2000年の観測で見つかっていたX線放射源が2005年には消えていることがわかります。
c: 2005年に新しいX線源が現れ、2006年には消えていることがわかります。2005年ごろにこの場所で宇宙線が超高エネルギーに加速されたことを示しています。また他の場所では2006年のみに現れたX線源もありました。

一方、「すざく」衛星によるX線スペクトル観測では「カットオフ」(10キロ電子ボルトあたりのエネルギー以上で急激にX線の強度が弱まる)があることがわかりました(図3)。このカットオフの現れるX線エネルギーは宇宙線のエネルギー増幅率によって決まり、観測されたカットオフのエネルギーからエネルギー増幅率が宇宙線加速の標準理論(衝撃波加速理論)において考えられるほぼ最大値になっていることがわかりました。自然は驚くほど巧妙に、効率よく、宇宙線を製造していることになります。

宇宙線が、このように短時間でこれほど高いエネルギーにまで加速されていることを示した例はこれまでになく、きわめて高い解像度でX線像を得られる「チャンドラ」衛星と広いエネルギー領域で高精度のX線スペクトルが得られる「すざく」衛星のそれぞれの特長を活かすことで、はじめて実現できたものです。

図3

図3 Uchiyama et al. Nature 2007 より転載。
超新星残骸 RX J1713.7-3946 のX線スペクトル。「すざく」衛星の広い範囲でのX線スペクトルにより、X線強度が10キロ電子ボルト付近から急激に弱まることが明らかになりました。これは宇宙線加速の理論として提唱されている「衝撃波統計加速」による予測と符合し、加速が極めて効率よく行われていることを示します。

今回の結果が持つ意義

今回、日米の2つのX線天文衛星を組み合わせて得られた新しい観測結果は、超新星爆発によって星間空間に形成される衝撃波が、地球に降り注ぐ宇宙線の起源であることを強く支持するものです。具体的には、
(1)ついに高エネルギー宇宙線が加速された「瞬間」をとらえ
(2)衝撃波において磁場が大きく増幅されていることを今までにない確度で明らかにし
(3)宇宙線加速のエネルギー増幅率が最大になっていることを明確にし、
(4)高エネルギーガンマ線が宇宙線の陽子によるものであることを示しました。
そしてこれらのことから、
(5)宇宙線が少なくとも1ペタ電子ボルト(ペタは10の15乗)まで加速されることを示し、地球に降り注ぐ宇宙線スペクトルの特徴を満たすことがわかりました。

「あすか」衛星、「チャンドラ」衛星、大気チェレンコフ望遠鏡HESS、そして「すざく」衛星の結果がここに結実し、100年近く前に発見された宇宙線の銀河系内での発生場所を明確にすることに、ついに成功したと言うことができます。

超新星残骸 RX J1713.7-3946 のイラストレーション(池下章裕氏作)

超新星残骸 RX J1713.7-3946 のイラストレーション(池下章裕氏作)。超新星爆発の衝撃波が星間空間を伝わり、宇宙線を活動的に生成しているフィラメント状の領域を形成しています。

研究チーム

  • 内山 泰伸(リーダー): 宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究本部 宇宙航空プロジェクト研究員(ポスドク)
  • Felix Aharonian: Dublin Institute of Advanced Study(Ireland), Max-Planck-Institute for Kernphysik(Germany), Professor
  • 田中 孝明: Kavli Institute for Particle Astrophysics and Cosmology, Stanford University 日本学術振興会 海外特別研究員
  • 高橋 忠幸: 宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究本部 教授、東京大学理学系研究科物理学専攻 教授(併任)
  • 前田 良知: 宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究本部 助教

問い合わせ先

内山 泰伸(e-mail): uchiyamaと@astro.isas.jaxa.jpを結んだアドレスです。

本ページ中の図などは、商業利用でない限り、ご自由にお使いいただけます。
その際、図 2,3 に関しては、Nature が出典であることを付記して下さい。

関係論文

本論文中の「すざく」による観測結果の詳しい解析は以下の論文にあります。

本論文中の「チャンドラ」による2000年の観測結果の詳しい解析は以下の論文にあります。

  • Uchiyama, Y., Aharonian, F. A., and Takahashi, T. Astron. Astrophys. 400, 567(2003)

本論文中の超高エネルギーガンマ線観測は以下の論文で発表されています。

  • Aharonian, F. A. et al. Nature, 432, 75(2004)
  • Aharonian, F. A. et al. Astron. Astrophys, 464, 235(2007)

2007年10月4日

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