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特集

塵に埋もれた活動的な超巨大ブラックホール

今西昌俊 国立天文台 光赤外研究部

図19 超巨大ブラックホール
右下:超巨大ブラックホールに物質が落ち込み、エネルギー放射される概念図。ブラックホール(中心の黒い丸)は、光さえも放出しない暗黒の天体なので、直接見ることはできない。物質が超巨大ブラックホールの重力によって引き寄せられ、渦を巻いて円盤状(降着円盤と呼ばれる)に高速に落ち込んでいくとき、ガス同士の激しい衝突/摩擦によってガスは非常に高温になり、紫外線から可視光線にかけて極めて強い放射が放たれる。物質を飲み込むことによって、超巨大ブラックホールは質量をさらに増加させて成長し、より重力が強くなる。その結果、より多くの物質を引き付け、より明るく輝くことができるようになる。
(C)NASA/CXC/SAO
左上:塵に埋もれた活動的な超巨大ブラックホールは赤外線で明るく輝く。

 宇宙には数多くの銀河が存在します。これらの銀河が輝いているのは、銀河に分布する星々の内部の核融合反応によってエネルギーがつくり出され、それが放射に変換されているからです。宇宙には星と並んで重要なエネルギー生成活動が存在します。それは、太陽の100万倍以上の質量を持つ超巨大ブラックホールに物質が落ち込む際の重力(位置)エネルギーを解放して、明るい放射がつくり出される活動です(図19)。超巨大ブラックホールは、銀河の中心部に一般に存在します。我々の天の川銀河のように、中心に超巨大ブラックホールを持ち、かつ広がった銀河全体にガス(気体)や塵(固体)を持つような銀河同士の衝突/合体は、宇宙では頻繁に生じています。その際、ガス同士が衝突することによって新たに大量の星が100万年程度の短期間で生成されると同時に、ガスや塵が銀河の中心部に輸送されることによって存在していた超巨大ブラックホールにさらに大量の物質が落ち込んで活動的になり、強い放射を出すと考えられます。しかし、その強い放射の大部分は周囲の塵に吸収され、我々のところに直接届きません。代わりに、暖められた塵が強い放射を行い、赤外線で明るく輝く赤外線銀河として観測されるようになります。つまり、合体赤外線銀河は、塵の向こう側で超巨大ブラックホールが物質を激しくのみ込んで明るく輝いていると同時に、質量を増加させ、成長している現場である可能性が高い天体です。
 このような塵に埋もれて存在する活動的な超巨大ブラックホールの存在を確認し、その性質を明らかにする目的には、塵による吸収の影響を受けにくい赤外線で、光を波長ごとに分ける分光観測を行うことが非常に有効です。「あかり」は、赤外線の波長2.5〜5マイクロメートルを一度に分光観測できる機能を有しており、分光スペクトルの形から、合体赤外線銀河において活動的な超巨大ブラックホールと星生成活動が、それぞれどのような割合でエネルギーをつくり出しているかを区別することができます(図20)。地上の「すばる」望遠鏡などを用いた観測では、特定の赤外線の波長しか地球大気を十分透過できないため、限られた天体しか観測できませんでした。我々は、地球大気に邪魔されることのない宇宙にある「あかり」を用いて、地球から約30億光年までの距離にある合体赤外線銀河を系統的に観測することにより、以下のことを明らかにしました。
(1)合体赤外線銀河では、塵に埋もれた活動的な超巨大ブラックホールは期待通り数多く存在し、超巨大ブラックホールの質量成長において重要な役割を担っている。
(2)現在赤外線でより明るく、より多くの星をつくりつつあり、したがって将来より星質量の大きな銀河に進化するであろう天体ほど、銀河のエネルギー発生に対して活動的な超巨大ブラックホールが果たす役割が大きくなっている。この結果は逆にいえば、現在星質量の大きな銀河ほど、かつて活動的な超巨大ブラックホールの影響を強く受け、より昔に星生成が終了した(銀河のダウンサイジング現象)という、従来からいわれていた理論仮説を観測的に支持するものである。

図20  「あかり」によって得られた、合体赤外線銀河の赤外線分光スペクトルの例
左の天体は、連続線に対して正の超過を示す輝線が強く、星生成活動が支配的と判断される。右の天体は、輝線は弱く、連続線に対してへこんだ吸収線が支配的で、塵に埋もれた活動的な超巨大ブラックホールが放射エネルギーの大部分を担っている場合に観測される特徴を示す。

(いまにし・まさとし)