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「あかり」の赤外線撮像観測が赤ちゃん星の年齢を決める

佐藤八重子 国立天文台 光赤外研究部 総合研究大学院大学 天文科学専攻

 星は、分子雲と呼ばれる密度の高い星間雲が収縮して誕生します。生まれたての星が多く存在する領域を、星形成領域と呼びます。星形成領域には若い星や星間ガス、星間塵などが存在しており、若い星から放たれる光は、地球(観測者)に届くまでにガスや塵に吸収・散乱されてしまい、直接見ることは困難です。若い星の姿を観測するためには、吸収・散乱されにくい赤外線で観測する必要があります。
 生まれたての星(原始星)は、大きく4つの進化段階に分けられます。太陽のような一人前の星(主系列星)は自ら核融合反応を行うことでエネルギーを生み出しますが、原始星では重力収縮によりエネルギーをつくり出しています。初め(Class 0)は、分子雲の収縮に伴い星に向かって物質が激しく落ち込み、一方でアウトフローと呼ばれる原始星から物質が吹き出す現象も起きます。周囲にガスや塵が多いため、遠赤外線で明るく輝きます。次(Class T)に、活発なアウトフローに加え、星を取り巻く降着円盤やエンベロープと呼ばれる構造が整ってきます。その後、アウトフローが弱まり降着円盤のみを伴うようになると、Tタウリ型星と呼ばれます。その中でも、比較的長い波長でも明るい古典的Tタウリ型星(Class U)と、近赤外線で最も明るい弱輝線Tタウリ型星(Class V)に分類されます。
 「あかり」の、2〜180マイクロメートルという広い波長域での観測が可能であるという特徴は、これら原始星を含むような星形成領域の観測に大きな威力を発揮します。

図5 星形成領域GGD12-15
左:IRSF/SIRPOLによる1.65マイクロメートルの画像に偏光ベクトルマップを重ねたもの。個々の線の向きが偏光の向き、長さが偏光度を示している。
中:「あかり」/IRCによる7.0マイクロメートルの画像
+ アウトフローを伴う原始星の中心位置、× 左下の星の中心位置、■ 電波源、▲ 水メーザー源(×、■、▲は位置合わせのために使用)
右:アウトフローを伴う原始星の波長ごとの明るさ(1.6〜20マイクロメートル、20マイクロメートルの値は参考文献より)。中間赤外線で最も明るくなっているのが分かる。色別に各装置の観測可能波長域を示している。

 冬の代表的な星座、オリオン座のすぐそばに、いっかくじゅう座があります。この領域には、さまざまな星形成領域が存在しています。我々はその中の一つ、GGD12-15と呼ばれる領域から、アウトフローを持つ原始星を直接観測することに成功しました。星形成領域GGD12-15には、多くの若い星や星間ガス・塵などが存在しており、星形成が活発であることが知られています。今回、この領域に対して、「あかり」の近・中間赤外線カメラ(IRC)と、南アフリカにあるIRSF 1.4m望遠鏡の近赤外線偏光装置SIRPOL(名古屋大学・国立天文台)を用いての観測を行いました。「あかり」/IRCでは、近・中間赤外線(3、4、7、11マイクロメートル)による撮像観測を、IRSF/SIRPOLでは、近赤外線(1.25、1.65、2.14マイクロメートル)による偏光観測を行いました。偏光観測とは、星から出される無偏光な光が、星周辺の環境(塵の存在、磁場の方向)によってどのように偏光するかをとらえるものです。つまり、偏光観測を行うことで、その星に伴う塵の存在や、星から放出された光が通過する領域に卓越する磁場の方向を知ることができます。IRSFによる偏光観測から、原始星に伴うアウトフローの形状に塵が分布していることが分かりました。一方、「あかり」では、塵の奥深く埋もれた原始星そのものを検出し、この天体が中間赤外線で最も明るく輝いていることを見いだしました。両者の結果から、この星はとても若いClass 0/T天体であることが初めて明らかになりました。
 このようにして、広い波長域での観測の解析結果から、どの波長で明るく光っているのかが分かり、それぞれの星の進化段階を知ることができます。ある星形成領域にどのような星が存在しているのかを知ることで、星が生まれた環境・星形成領域の環境を知る手掛かりになっていきます。こうした「あかり」ならではの特性を生かした研究から、今後も新たな興味深い結果が出てくることが大いに期待されます。

(さとう・やえこ)