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特集

凍てつく寒さから望遠鏡を守るサーマルシールド

古澤彰浩 名古屋大学大学院 理学研究科

図39 「すざく」X線望遠鏡(XRT)の入射側に取り付けられたサーマルシールド

「すざく」のX線望遠鏡(XRT)に使われている反射鏡は、温度にとても敏感です。温度が変わると変形して望遠鏡の性能が低下してしまうので、反射鏡の温度は20℃前後に保たなくてはなりません。しかし、衛星は極寒の宇宙空間を飛んでおり、さらに望遠鏡は太陽の光が当たらない日陰に置かれているので、赤外線の放射によって熱がどんどん宇宙空間に捨てられて温度が下がってしまいます。それを防ぐために望遠鏡をヒータで温め、さらに断熱シートで覆って熱が捨てられにくくしています。
 ところが、X線を遮ってしまうようなシートで、X線が入ってくる側(入射側)を覆うわけにはいきません。外国の巨大な衛星では入射側から捨てられる熱の分をヒータで温めて補っていますが、日本の衛星ではとても電力が足りません。
 そこで、入射側には「サーマルシールド」と呼ばれる特別に薄い断熱フィルムを取り付けています(図39)。このフィルムは、ペットボトルでおなじみのポリエチレンテレフタレート(PET)でできており、直径40cmという大きさで、X線を透過させるためにできるだけ薄く、なおかつロケット打上げ時の激烈な振動と音響に耐える、という数々の厳しい要求に対して東レ(株)が特別に開発した、厚み0.2μmという世界最薄のPETフィルムです。
 サーマルシールドは、今も極寒の宇宙にさらされながら望遠鏡を守り続けています。

(ふるざわ ・あきひろ)