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もっと光を!世界で最も軽く安いX線望遠鏡

岡島 崇 NASAゴダード宇宙飛行センター ジョンズ・ホプキンス大学

 天体望遠鏡は、天体からの光を曲げて(集光して)検出器面上に天体の画像をつくるための道具です。しかし、X線といえば「レントゲン」。人体を貫いて真っすぐ突き進むことができるほど透過力の強い光。そんなX線をいったいどうやって曲げるのでしょうか?
 実はX線は非常に滑らかな金属鏡面(凹凸の高低差がわずか数千万分の1cm)に、鏡面すれすれ(鏡面から1度程度)に入射したときのみ、効率よく反射できます。川や湖の水面に石を投げて何度もジャンプさせる遊びに似ています。この性質を利用してX線の進行方向を曲げます。そのため望遠鏡内部の反射鏡は、鏡面を入射X線に向けているというよりも、むしろ横を向いています(図37)。また、バウムクーヘンのように鏡を同心円状に配置して、より多くのX線を集めています。各反射鏡は、すでに書いたような滑らかな鏡面を持ち、かつ、シャープな画像を撮るために精密な形状を持っていなければいけません。このような反射鏡は通常、数cm厚の反射鏡基板を磨いてつくります。しかし、重量が増え、コストも大幅に増加します。それだけではなく、基板の厚み部分ではX線を反射できないため(図37)、集光能力が低下します。人工衛星に搭載する観測装置は、小さく、軽く、できるだけ低予算でつくり上げることが必要不可欠です。その限られた条件の中で十分な観測性能を達成したい。反射鏡基板の厚さをできるだけ薄くし、それこそペラペラの反射鏡にしたいと考えました。

図37 X線望遠鏡の仕組み

 そこで、NASAのゴダード研究所のセレミトソス博士らが考えた出したのが「レプリカ法」です。この方法では、鏡面が十分滑らかで円柱状のガラスの「型」を用意し、その表面に金の薄膜(0.02μm)を成膜し、さらにエポキシ接着剤をスプレーして、その上に厚さわずか150μm厚のアルミ板を貼り付けます。接着剤硬化後、アルミ板をはがすと、金の薄膜がアルミ板上に写し取られます。つまり、滑らかなガラスの表面がザラザラだったアルミ板上に写し取られる(レプリカされる)わけです。この方法によって「ペラペラのX線反射鏡」をつくることに成功しました。「すざく」のX線望遠鏡(XRT)は、直径40cm、その重量わずか20kg。米国のチャンドラ衛星の望遠鏡と比較すると、直径3分の1、重量80分の1、数百分の1という低予算です。さらに、ペラペラの反射鏡であるため画像解像度は劣ってしまうものの、チャンドラとほぼ同じ集光能力を達成しています。  天体からの光は非常に微弱であるため、多くの光を集めることがサイエンスを引き出すために必要不可欠です。「すざく」のXRTは「少しでも多くの光を集める!」ことを目指して、限られた条件の中で開発された、まさに最高のアイデア望遠鏡なのです。

(おかじま・たかし)