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特集

X線で暴き出す宇宙に潜む巨大ブラックホール

寺島雄一 愛媛大学大学院 理工学研究科

 宇宙には数多くの銀河があります。そのほとんどは中心に、質量が太陽の100万倍から1億倍という巨大ブラックホールがあると考えられています。ブラックホールがまわりにある物質を吸い込むと、物質は明るく輝き、「活動銀河核」と呼ばれる明るい銀河中心核として観測されます。巨大ブラックホールは銀河がつくられる過程とも密接に関係しているらしく、宇宙全体の進化にも重要な役割を果たしているようです。では、巨大ブラックホールはいったい宇宙にいくつあるのでしょうか。
 ブラックホールに迫る強力な方法が、X線による観測です。ブラックホールの周辺につくられた超高温のガスは、X線を大量に放射します。X線を観測することで、ブラックホールのまわりの物質や強力な重力の様子をとらえることができます。また、銀河の中心部は大量の塵などで隠されていることも多いのですが、エネルギーが高く物質を透過しやすい硬X線というX線を使うと、中心核を見通すことができます。X線は、隠されたブラックホールを暴き出すことができるのです。

図17 「すざく」で得られた銀河ESO 005-G004のX線スペクトル

図18 銀河ESO 005-G004の中心核にある巨大ブラックホールの想像図

 「すざく」と米国のスウィフト衛星との協力によって、私たちは硬X線で明るく輝く新種の銀河中心核ブラックホールを発見することに成功しました。スウィフト衛星は、硬X線で全天を観測して未知の硬X線天体のカタログをつくることが得意です。「すざく」衛星は、エネルギーの低いX線から高いX線までのX線スペクトルを精密にとらえることができます。これらの特長を組み合わせることで、濃い塵の奥深くに埋もれたブラックホールを見つけ出しました。図17は、「すざく」で得られた、銀河ESO 005-G004の中心にあるそのようなブラックホールのX線スペクトルです。低いエネルギーではX線が吸収されやすいために暗くなっていますが、高いエネルギーでは透過したX線が明るく見えています。これまでに知られていた隠されたブラックホールのまわりには「トーラス」と呼ばれるドーナツ型の塵が取り巻いていて、ドーナツの穴の部分から漏れた光も一部が観測者の方へ散乱されて見えていました。今回発見した天体は、ドーナツの穴がとても小さく、漏れ出たX線がほとんど見えません。ブラックホール周囲の大部分が塵に覆われていたのです。その想像図を、図18に示します。さらにスペクトルの形を詳しく調べてみると、この天体は相当に厚い塵に覆われてはいるものの、たまたま塵が薄めの方向から私たちが見ていることも分かりました。もしドーナツの横方向から観測していたとしたら硬X線をもってしても見つけることができなかったでしょう。
 宇宙には発見されていない巨大ブラックホールが想像以上にたくさん潜んでいることは、間違いありません。これからの「すざく」の観測によって次々に新たな巨大ブラックホールが見つかってくることでしょう。

(てらしま・ゆういち)