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特集

超新星爆発 残骸から探る爆発の様子

勝田 哲 大阪大学大学院 理学研究科
常深 博 大阪大学大学院 理学研究科

 星が突然明るく輝き始める現象は、古くから知られています。昼でも見えるくらい明るくなる場合もあり、歴史上も多くの記録が残されています。この現象の起源は星の進化の最終段階で起こる大爆発(超新星爆発)ですが、その爆発機構はまだよく分かっていません。超新星爆発の研究にブレークスルーをもたらしたのは、1987年に大マゼラン雲で起きた超新星爆発です。望遠鏡が発明された後、最も近い距離に出現した超新星であったため、人類にさまざまな新しい知見を与えてくれました。
 その中の一つに、爆発の非等方性があります。つまり、爆発による星の破片は等方的に広がっていなかったのです。これまでの理論的研究では、第ゼロ近似として星の破片は等方的に飛び散ると仮定し計算されてきたので、それでは単純過ぎるということになります。今では、観測的には破片の広がる様子を詳しく調べること、理論的には星の破片の広がる様子を再現することが、爆発機構の解明の鍵と考えられています。
 超新星爆発による爆風は、周囲に大きく広がります。爆風によって生じる衝撃波のために、星の破片と周囲の物質が数百万度から数千万度の高温に熱せられます。この高温ガスは爆発後1万年以上にわたってX線で輝き続け、超新星残骸として観測できます。年老いた(爆発後1万年程度たつ)超新星残骸としては、はくちょう座ループが有名です(図12)。はくちょう座ループは月の視直径の6倍程度に大きく広がっていて、これまでの観測から、その中心部分には星の破片の痕跡が見つかっています。

図12 超新星残骸はくちょう座ループ
左:X線写真(欧州のROSAT衛星による)。爆発中心を黄色の点で示した。
右:「すざく」によって得たケイ素の破片の分布(カラー部分)。白、黄、赤、青と順にケイ素の量が多いことを示す。左と同じX線写真を白黒で示した。

 我々は今回「すざく」によって、はくちょう座ループの北東端から南西端にかけて観測を行いました。「すざく」は、さまざまな元素からの特性X線を分離する能力が非常に高いと同時に、撮像能力も兼ね備えています。そのため、各元素の分布を明らかにできます。図12右は、「すざく」が明らかにしたはくちょう座ループ内部に広がるケイ素の破片の分布を示しています。この図から、ケイ素の破片は爆発中心に対して南側に、よりたくさん分布していることが分かります。また、硫黄や鉄も似たような分布をしていることが分かりました。私たちは、この破片の非対称な分布は、爆発の非対称性を反映していると考えました。
 はくちょう座ループは、太陽質量の8倍以上の重い星が爆発した残骸と考えられています。このような重い星の爆発の後には、中心に中性子星やブラックホールといった高密度星が残されます。しかし、はくちょう座ループの中心部では、いまだにそれらしい天体は見つかっていません。ここで「すざく」が明らかにした星の破片の分布の偏り(南部に偏った分布)を思い起こすと、高密度星は爆発によって破片とは反対の北側にけり飛ばされた(結果、爆発中心にはもういない)と考えるのが自然です。私たちは、今後のはくちょう座ループの北側の観測で、高密度星を発見できるのではないかと期待しています。

(かつだ・さとる、つねみ・ひろし)