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特集

「ひので」可視光磁場望遠鏡(SOT)の製作・試験

勝川行雄 国立天文台 ひので科学プロジェクト 助教

 可視光磁場望遠鏡(SOT)は口径50cmの回折限界性能をもつ世界最大・最高性能の太陽観測用可視光宇宙望遠鏡です。大気の影響のない宇宙空間から、0.2秒角という高い解像度で、太陽大気の微細構造を観測することが可能です。
 望遠鏡部(OTA)の開発は、国立天文台と宇宙研が中心となって行われました。この望遠鏡には、さまざまな最先端の宇宙光学技術が集約されています。鏡面精度が極めて高くかつ軽量化された主鏡・副鏡、それらをゆがみなく支持するための支持機構、軽量かつ低熱膨張なCFRP望遠鏡構体、可視光全域で無収差・無偏光なレンズ、衛星の揺れを取り除くための可動鏡、モーメンタムホイールやジャイロによる微小擾乱の評価と低減化、光学系を汚染から守るためのコンタミネーション管理などが挙げられます。さらに、過酷な打上げ時の振動・衝撃、地上実験室と大きく異なる軌道上での温度分布や真空環境においても光学性能が維持されることを、地上試験で確実に検証する必要があり、その試験方法の開発自体が最先端の研究でした。ここでは語り尽くせないノウハウが、SOTには集約されているのです。
 私がまだ博士課程1年のとき、ちょうどOTAの構造モデルの製作が始まり、SOLAR-Bの開発に本格的に参加することになりました。それまで、望遠鏡のこともSOLAR-Bのことも、まだろくに知らない時期でした。毎日のように宇宙研の大クリーンルームに通い、国立天文台の先生方、メーカーの方々に鍛えられ、実験や光学測定のやり方、衛星開発の大変さを身をもって経験することができました。その後、フライトモデルの製作や試験、NASAで開発された焦点面パッケージと組み合わせて行った実太陽光試験などが国立天文台で行われ、SOTは完成しました。私を育ててくれた望遠鏡なので、非常に思い入れがあります。2006年10月25日、望遠鏡のふたを開けたときに目の当たりにした、視野一面にわたる粒状斑の画像は、今でも忘れられません。
 日本においても今後、宇宙空間からの光学観測がますます本格化すると思われますが、「ひので」のSOTで培われた高精度望遠鏡技術は、次世代に継承発展させていくべき貴重な財産です。

(かつかわ・ゆきお)

図37 可視光磁場望遠鏡(SOT)の望遠鏡部(OTA) の完成