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特集

極端紫外輝線でとらえた活動領域コロナの温度構造

David H. Brooks 米国海軍研究所・ジョージメイソン大学 アシスタントプロフェッサー
※宇宙科学研究本部に長期駐在

 太陽の高層大気である「コロナ」の温度は、表面(光球)よりも200倍以上も高い。この急激な温度上昇をつくり出す物理過程の解明は、宇宙物理学において最も重要な課題の一つである。「ひので」は、コロナの性質をかつてないほど詳細に診断し、温度の謎を解くことを可能にする観測を行っている。
 極端紫外線撮像分光装置(EIS)は、狭いスリットで太陽面をスキャンして画像をつくる。その画像の各画素について、コロナの高温ガスを診断するのに有用なスペクトルが取得されている。図18は、EISが取得した活動領域の画像例で、電離状態にあるヘリウム、シリコンと鉄が放射する、異なる波長の輝線の強度マップである。約10万度から200万度まで、非常に広い温度域をカバーし、左から右、そして上から下に行くほど輝線をつくるプラズマ温度は高くなっている。異なる温度で見た活動領域の構造は非常に違っていることが分かる。He II画像ではこの活動領域はかなりコンパクトに見えるが、Si VII画像では長いループが多数見られ、オリヅルランのような形状にも見える。この長いループ構造は、高い温度に行くほど徐々にぼやけてきて、温度が最も高いFe XV画像では構造がぼやっとなる。

図18 極端紫外線撮像分光装置(EIS)が取得した、電離状態にあるヘリウム(He)、シリコン(Si)と鉄(Fe)が放射する、異なる波長の輝線の強度マップ
約10万度から200万度まで非常に広い温度域をカバーし、左から右、そして上から下に行くほど輝線をつくるプラズマ温度は高い。

 観測された活動領域コロナの温度構造を最新の計算モデルによるシミュレーション結果と比較することが、さまざまなコロナ加熱理論からの予測をテストするのに非常に有効な手段となりつつある。現在の計算機シミュレーションでは、各温度で見た画像を再現することができつつあるが、あらゆる温度での画像を再現することはまだ難しい。EISによる観測によってコロナループの基礎的な物理量(長さ、太さ、密度、温度、視線方向速度)が高精度に測定され、その結果は加熱理論の優劣を決めることや、理論を改良するのに重要な役割を果たすだろう。EISの観測によって、太陽コロナを加熱する物理過程を私たち研究者が明確に特定することができるかもしれない。

(ブルックス・デービッド)
(清水敏文 訳)