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特集

可視光磁場望遠鏡がとらえた黒点の微細構造

一本 潔 国立天文台 ひので科学プロジェクト 准教授

 太陽黒点には、強い磁場とカップルしたプラズマの複雑で興味深い現象を見ることができる。黒点の暗部を取り囲む半暗部は、明暗の放射状の細い筋(フィラメント)からなっており、そこには顕著な外向きのガスの流れ(エバーシェッド流)が存在することが古くから知られている。この流れが半暗部の微細構造と深くかかわっていることは間違いないが、筋構造の起源や流れの原因はいまだ謎に包まれている。
「ひので」の可視光磁場望遠鏡(SOT)は、明暗の筋が太陽面に対して異なる磁場の傾きをもっていること、エバーシェッド流は内側の明るいフィラメントの先端から出発し、太陽面にほぼ水平な磁場をもつフィラメントに沿って流れていることを明らかにした。さらに、個々の流れの湧き出しと沈み込みをスペクトルで同定し、エバーシェッド流の構造を初めて空間的に分解した(図5)。高温ガスが内部から強い磁束管とともに上昇し、水平な磁力線に沿って勢いよく流れ出しているようである。

図5 エバーシェッド流の微細構造
上は連続光画像、下は磁場の傾き分布の上に視線方向速度の等高線を重ねたもの。青がガスの上昇運動、赤が下降運動を示す。比較的水平な磁場の半暗部フィラメントに沿って、上下運動が並んでいるのが分かる

さらに黒点をカルシウム線のフィルターで撮像すると、半暗部上空の希薄なガスをとらえることができ、そこには頻発する短命な(1分より短い)微細ジェット現象が発見された(図6)。半暗部筋構造の傾きの異なる磁力線が隣り合うところで磁気リコネクションが発生し、エネルギーが解放されていると考えられる。彩層・コロナ加熱に寄与している可能性も高い。

図6 黒点半暗部の彩層に発見された微細ジェット現象
左はカルシウム線のフィルターによる画像、右は平均画像を引いてコントラストを強調したもの。1Mm=1000km。

 今後、スペクトルの詳細な解析や時間発展のより詳しい観測により、これらの現象に対する理解はさらに深まるものと期待できる。そして、umbral dotsやlight bridgeと呼ばれる黒点内部の明るい微細構造や黒点のまわりを移動する磁気要素の研究も「ひので」のこれまでにない安定した高分解能データにより進行中であり、黒点の3次元的な構造や生成・消滅メカニズムの解明に少しずつ近づいていくことが期待される。

(いちもと・きよし)