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特集

太陽観測衛星「ひので」

清水敏文 JAXA宇宙科学研究本部 宇宙科学共通基礎研究系 准教授

最新鋭の望遠鏡を搭載した「ひので」

図1 太陽観測衛星「ひので」

 「ひので」(図1)は、太陽表面で起きるさまざまな磁気活動現象を詳細に観測し、太陽大気で起きる物理プロセスの理解を目指している。これは、宇宙に広く存在するプラズマと磁力線が引き起こす物理素過程を、私たちに最も近い恒星である「太陽」という「宇宙プラズマ実験室」を用いて解明しようというものである。とりわけ、以下の重要な研究課題について、私たちの理解を大きく進展させるものと期待されている。
(1)光球面の磁場的な活動と、それに対応するコロナ活動との関係を詳細に調べることで、光球=コロナを一つのシステムとした太陽大気中の電磁流体的諸現象を総合的に理解する。
(2)6000度の光球面の上空に100万度以上のコロナが定常的に存在する、いわゆる「コロナ加熱問題」の謎を探る。
(3)磁気リコネクション(磁場のつなぎかえ)に代表される、プラズマ諸現象の詳細な物理過程を明らかにする。
 さらには、太陽活動が地球周辺の宇宙空間や地球磁気圏にどのような影響を及ぼしているのかをシステムとして理解しようという試み、いわゆる「宇宙天気」研究においても、発生源側の観測的研究により「ひので」は大きな貢献を果たすと期待されている。
  「はじめに」で述べられているように、これらの諸問題に観測的に取り組むために、いまだかつて実現されたことがない観測を可能とする最新鋭の望遠鏡が「ひので」に搭載された(図2)。可視光磁場望遠鏡(Solar Optical Telescope:SOT)、X線望遠鏡(X-Ray Telescope:XRT)、および極端紫外線撮像分光装置(EUV Imaging Spectrometer:EIS)である。各望遠鏡は、日本・米国・英国間の国際協力で開発された。日本は、高精度3軸姿勢制御を備え、熱構造変形を最少に抑えた衛星本体の他に、技術的に最も難しい可視光望遠鏡の望遠鏡部や可動鏡制御部、X線望遠鏡のカメラ部、観測制御やデータ処理を行う部分などを他国にはない先端技術を駆使して製作し、また最終的に各望遠鏡を取り付けた衛星全体をシステムとして完成させた。もちろん、軌道に予定通りに衛星を運んでくれたM-Xロケットの打上げも日本の役割である。
 これらの結果として関係者の想像を大きく超えた素晴らしい科学データ(図3)が取得され、この「ひので」特集号で紹介する話題をはじめとしたさまざまな観測成果が学術論文として発表され始めている。

図2 「ひので」に搭載された観測望遠鏡

図3 可視光磁場望遠鏡の高解像度観測でとらえた太陽表面の微細構造

軌道上太陽観測天文台「ひので」

図4 毎日行われる観測計画の調整のための運用会議の様子

 「ひので」は現在、世界中の研究者に開かれた軌道上の太陽観測天文台として運用されている。2007年5月に、全観測データが観測後すぐ世界に公開されるようになってからは、開発に関与しなかった多くの国々でも「ひので」データへの関心が高まり、世界中でデータ解析が始まっている。同時に、新しい観測を可能とする「ひので」の望遠鏡を使った観測提案が、世界中から随時舞い込んでいる。一時は「ひので」チーム提案の観測テーマの実施時間を圧迫するほどの提案があったこともある。
 各望遠鏡が行う観測の計画立案は、望遠鏡開発に参加した日米英の研究機関の研究者などが参加して、JAXA相模原キャンパスにおいて行われている。各望遠鏡の観測計画立案作業のために入れ代わり立ち代わり海外研究者が相模原を訪問している他、現在3名の研究者が宇宙研に長期駐在して衛星運用や研究活動を進めている。日曜日を除いて毎日開催される運用会議(図4)において、太陽面の活動状況や観測提案の実施スケジュールに基づき、観測目標や観測運用内容の調整が行われる。海外研究者も参加する運用会議で使われる言語は、もちろん英語である。今までの科学衛星にはなかったほど国際色豊かに衛星運用が行われている。

(しみず・としふみ)