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特集

大気球特集 高度50km以上を目指す気球の研究 宇宙科学研究本部 山上隆正
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気球製作用接着機の開発

1991年度は熱接着機の開発から研究を始めることとした。従来の日本における大気球製作は,長さ2mの電磁石圧着型熱接着機で行っていた。この接着方式は取り扱いが簡単で,メートル単位の接着方式のため,限られた空間での接着には適しているが,散発的な接着方式であるため気球製作に時間を要し,長さ100mを超す大容積の気球製作に適した接着装置とはいえなかった。そこで,連続接着が可能で接着中でも任意の位置で停止・開始の機能を持ち,製作場所の広狭によらず,大きな気球を能率良く高い品質管理下で製作できる自走式新型ベルトシーラ接着機を開発した。開発した接着機は,接着温度を92〜250℃に設定でき,温度精度は比例制御方式を用い,±1℃以下とした。接着圧力は0〜2kg/cm2の範囲で設定でき,フィルム膜厚20〜3μmまで幅広い接着が可能である。この接着機は0〜6m/分の速度で連続熱接着が可能である。図1の新型ベルトシーラは特許も取得した気球製作用接着機で,高い品質管理下で気球製作が行えるようになった。 図1 新型ベルトシーラ
図1 新型ベルトシーラ



薄膜型気球保持装置の開発


気球容積が大きくなると総浮力も大きくなり,人の手による気球頭部保持は不可能になる。そのため,人間の手のひらを想定した気球頭部保持装置の開発が不可欠で,エアーバッグを用いた気球保持装置を開発した。装置は図2に示す通り,気球保持用エアーバッグ,エアーバッグ固定保持円筒板,円筒板の解放用電磁石などで構成される。エアーバッグに空気を注入し,総浮力に見合う圧力を加えることで気球を保持する。開発した装置は,フィルム厚3.4μmの気球でも皮膜に損傷を与えずに保持することができる。
図2 気球保持装置
図2 気球保持装置



大型放球装置の開発


開発した大型放球装置は,直径6mの回転テーブル上に固定され,回転により地上風の風向に合わせた放球ができる。観測器を置く4m×3mの台は昇降機により5mの高さまで観測器を持ち上げることで,5m/sまでの風速下でも放球ができる。図3に示す大型放球装置の完成によって,気球を完全に伸展した状態で放球することが可能となった。ダイナミック放球方式とほぼ同じ方式であるが,観測器を放球するランチャーが固定されており,飛揚場が狭い日本独特の放球方式が完成した。われわれは,この放球方式を「セミダイナミック放球方式」と呼んでいる。 図3 大型放球装置
図3 大型放球装置



基本搭載機器の軽量化


テレメータについてはシリアル出力型ADCを用いたPCMエンコーダ回路の開発,コマンドは符号の複数回一致方式を用いたPCMエンコーダおよびデコーダの開発,バラスト弁はソレノイドによる永久磁石の移動方式の開発などを行うことにより,基本搭載機器重量を1kg以下にすることに成功した。



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