Abstract:デブリ衝突により発光色が変調する希土類化合物の開発への挑戦と現状 光は「道しるべ」として古くから私たちの身近な存在であり、暗い夜道を照らして安全と安心に貢献してきた。 化学分野では、現在においても水溶液中の微小な生物や生物体内の代謝機能の理解など、多岐にわたる応用を 指向した発光性分子の設計や合成が行われている。このような分子レベルでの発光体は、種々の化学材料との 混合や複合あるいは溶解や塗布などの作業が容易であり、例えば、現代の紙幣やパスポートにはセキュリティ インクが使用され、紫外線照射による励起により、赤色や緑色の文字や模様が浮かび上がる。 すなわち、発光物質そのものの用途や技術開発は、時代の要求に合わせて革新・発展し続けている。 私どものグループは、一貫して希土類化合物を対象とした発光現象の付加価値付与およびその原理解明に取り組んできた。 今回、東北大学の槙原幹十朗グループと共同で、新たな視点で設計した希土類化合物の開発に挑戦しているので その最先端の現状を報告する。すなわち、デブリ衝突により、発光する材料の開発を目的とし、種々混合比で 複数種の希土類酸化物を混合させ、アルミ製バンパーに塗布し、衝突実験を行った。衝突前後で紫外線照射下で 発光色変化を記録したところ、プロジェクタイルが作用した付近で発光色が変化したことが目視で確認できた。 これは、複数種の希土類酸化物を従来700℃付近で焼成して得られる物質の発光色と類似していることから、 衝突によりいわゆる焼成と同じ効果が与えられ化合物形成を促した。これらを求められる環境下で用いることで、 例えば飛行体表面のバードストライクによるダメージ部位診断や、有人宇宙機内部でデブリ衝突による破損部位の 早期発見用発光塗料など、宇宙航空分野の新しい発光性化学材料としての展開が期待される。 本研究の試料は、ネモトルミマテリアルス竹内信義博士に重要な議論をしていただくとともに、 貴重な試料をご提供いただきました。衝突実験は宇宙航空研究開発機構(JAXA)長谷川直博士および 東北大学大学院 大谷清信先生にご助力いただきました。この場をお借りして感謝申し上げます。 本研究の一部は、文科省科研費挑戦的萌芽研究(No. 23656544)により支援を受けている。