概要: これまでの日本の宇宙科学ミッションは、アイデアは全国から募るが、実現可能な計画にまとめあげる ミッションデザインは、宇宙研がもっぱら 担ってきた。 ミッション目的を実現し、宇宙機システムの成立性 を確保するため、ミッション設計するうえでの根幹となすものの1つに軌道計画がある。ミッションデザイン の真髄は、その軌道計画だけでなく、数値化しづらい条件も含めた上で最適案を生み出す事である。 その際、科学成果に直結する「プロジェクトのニーズ」と工学研究としての「未来のミッションに備えたシーズ」と いう二つの側面のせめぎ合いになることがしばしば起きる。同じミッション計画を検討しても、観察力、分析力、 コミュニケーション力等の違いにより、そのアウトプットはデザイナーごとに異なり得る。 私がこれまで携わったミッションデザインの例として、「はやぶさ2」では、「はやぶさ」運用の経験から、 ヒューマンエラーを防ぐために、小惑星滞在時間を 6倍に増やした。「SOLAR-C」(ポスト「ひので」)の 初期検討案には、軌道を黄道面に対して垂直に立て、太陽を極域から観察する計画が あったが、「ひので」の ような地球周回衛星に比べて、目的の軌道に投入するには打ち上げ後何年も長くかかるため、 太陽研究コミュニティーを維持できるか という議論も あった。  私は、これらの具体的なプロジェクトへの関わりの中で、サイエンスニーズに最大限対応しつつ、 工学研究者として未来のミッションに備えた シーズを生み出す 努力をしてきた。具体例として、 私がAEP(Artificial EquilibriumPoints)と名付けた概念を紹介する。 AEPとは、ラグランジュ点(天然の平衡点)に 限らない場所に、電気推進に代表される推進機の連続加速によって“人工的”に作り出した平衡点である。 一般 にラグランジュ点は L1-L5の5箇所あり、地球公転軌道の外側にあるラグランジュ点L2ではすでに宇宙望遠鏡 などがいくつか実現している。他方で、スペース重力波アンテナ のように、日心距離 1AUの地球公転軌道上で 地球から少し離れた場所に宇宙機を停留させたい要望もある。地球公転軌道上には、L3〜L5の三つのラグランジュ点 があるが、そ れらは地球から遠い。私は、地球公転軌道上の他の位置でも僅かな連続加速度でAEP を構築できること を示した。AEPを応用したミッションの実現にはまだ課題が残っているが、実現できれば様々な分野のニーズに応えら れる柔軟性の高いミッ ションデザインを可能にする。 本講演では、宇宙科学におけるミッションデザインの考え方、 ニーズに対応した過去のミッションデザインの実例、新しいミッションを可能にするシーズの研究と今後の展望に ついて紹介する。