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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第508号

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ISASメールマガジン   第508号       【 発行日− 14.06.17 】
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★こんにちは、あいかわらず今回も編集を担当している阪本です。

「はやぶさ」の帰還から4年目を迎え、ここ相模原でも地元の計らいでさまざまなイベントが行われています。6月14日の始発からはJR淵野 辺駅の発車メロディが『銀河鉄道999』に変わりました。
 今週は、宇宙飛翔工学研究系の山田和彦(やまだ・かずひこ)さんです。
── INDEX──────────────────────────────
★01:地球へ帰ってくるということ
☆02:臨時休館のお知らせ
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★01:地球へ帰ってくるということ
 宇宙飛翔工学研究系の山田和彦です。ISASメールマガジンは、2回目の登場になります。よろしくお願いします。

 サッカーのW杯が盛り上がってきていますが、前回のW杯のときは、「はやぶさ」の帰還&回収のためにオーストラリアに行っていたなぁと思い出して、もう4年も経ったのかと懐かしく思っています。

 私は4年前と相変わらず、新しい大気圏再突入機の研究開発にいそしんでいます。

 ところで、先日、若田さんが宇宙ステーションでの船長としての仕事を全うして、無事に地球へ帰ってくるというニュースがありました。

 このニュースは、“日本人宇宙飛行士が宇宙で大活躍”という観点で大きな注目を浴びていましたが、大気圏突入について研究している立場から みると、宇宙へ行って、そして、帰ってくるということを当たり前のように実現しているアメリカやロシアの地球帰還の技術に、あらためて感心さ せられています。

 今回は、私の仕事である地球帰還、大気圏突入の技術について、少し紹介させていただきたいと思います。

 これまで、国内ではあまり注目されることのない再突入帰還の技術ですが、それもそのはず、これまで日本の技術で、宇宙から地球に帰ってきて、計画どおりに回収された乗り物は2つしかないのです。

 2002年に打ち上げられて2003年に帰還した宇宙実験室 USERSのリエントリーモジュールと、2003年に打ち上げられて 2010年に帰還した「はやぶさ」の再突入カプセルです。

 参考(URL)
 USERS:
 ⇒ http://www.jspacesystems.or.jp/project/past/users/index.html
「はやぶさ」:
 ⇒ http://hayabusa.jaxa.jp/

 ただ、「はやぶさ」カプセルの帰還&回収は、技術的にも世界的に誇れ る成果です。

 「はやぶさ」本体がばらばらになって散っていった感動的なシーンの裏 側で、過酷な環境を耐えぬいた再突入カプセルや、広大な砂漠から素早く カプセルを見つけた回収隊が頑張っていました。

 興味のある方は、上記URLの「関係者のメッセージ」に回収隊のメン バーを含めたいろいろな方のエピソードが載っていますので、4年前の感 動を思い出しながら読み返してみてはいかがでしょうか?

 さて、地球への帰還、大気圏突入は、なぜ技術的に難しいのでしょうか?

 まず、宇宙へ行くということは、地球の重力に負けない速度で大気圏外 へ飛び出すということです。

 その速度は、最低でも秒速8km(時速約3万km!!)が必要です。 そのため打ち上げ用のロケットは、その速度を生み出すためにあれだけの 大きなエネルギーが必要なのです。

 逆に宇宙から帰ってくるということは、この速度を0まで下げるという ことです。

 単純に考えると、打ち上げに要したのと同等のロケットが必要というこ とになりますが、地球に帰還するために巨大なロケットを、さらに巨大な ロケットで打ち上げるというのは現実的ではありません。

 つまり、巨大なロケットで生み出された莫大なエネルギーを空気抵抗に よってすべて捨てるということです。


 一旦、速度となったエネルギーを空気抵抗で捨てるということは、それ を熱に変えるということですので、スペースシャトルや「はやぶさ」のカ プセルが火の玉になりながら帰ってくるということもなんとなく理解して いただけるでしょうか?

 我々、大気圏突入機の研究者は、そのような過酷な環境でも無事帰還で きる乗り物を作るというのが仕事です。

 この仕事の一番難しいところは、考えたアイデアが本当にそのような過 酷な環境で使えるのかを証明することです。

 なぜかというと、必要なエネルギーが大きすぎて、そのような過酷な環 境を再現する装置をつくること自体が大変なのです。

 最近、機会があって、米国(NASA−AMES)とイタリア (CIRA)の最先端の再突入環境を再現する装置を実際に見る機会があ りました。

 そこでは、そのひとつの装置を動かすために、いくつも専用の建屋があ るという想像を超えた規模のものでした。

 実験装置本体がある建屋の周りに、専用の発電所、冷却棟などが配置さ れ、まるでプラントのようでした。

 興味ある方は、下記のウェブサイトを参考にしてください。

 NASA AMES ARC JET COMPLEX:
 ⇒
 http://www.nasa.gov/centers/ames/research/technology-onepagers/arcjetcomplex.html
 CIRA SCIROCCO:
 ⇒ http://www.cira.it/en/impianti-en/pwt-plasma-wind-tunnel

 この原稿は、ちょうどこのNASA−AMESの設備を使って、とある 試験を実施して、帰国する飛行機の中で書いているのですが、この大規模 な装置が実際に動いているところを見ることができて、そのエネルギーの 強大さに驚愕してきたところです。

 今、宇宙研は、「はやぶさ2」の打ち上げにむけて大忙しです。

 「はやぶさ2」は帰還カプセルをもっており、2020年には小惑星の サンプルをもって帰ってきてくれるでしょう。

 その傍ら、次の惑星探査の一つとして、トロヤ群からのサンプル リターンも検討しています。

 「はやぶさ」や「はやぶさ2」が目指す小惑星は地球近傍小惑星でした が、トロヤ群ともなると、このような大規模な装置でも再現できない、 もっと莫大なエネルギーから再突入カプセルは耐えなければなりません。

 いやはや、大変な仕事だと改めて実感しております。

 また、地球への再突入帰還の研究開発に関しては、ISSの輸送船 HTVに帰還機能をつけ、国内技術での往復輸送を実現しようという検討 も始まっています。

 また、大学等で盛んに開発されている小型衛星に地球帰還の能力をつけ られたら、さまざまな応用が広がると思い、その帰還システムを考えたり もしています。

 宇宙へ行くことが、だいぶ身近になった時代、次は、宇宙から帰ってく ることをもっと身近にすれば、新しい世界が拓けるかもしれません。

 今決まっている次の具体的な再突入帰還ミッションは、「はやぶさ2」 の帰還ですが、それまで随分時間があります。

 その間に、新しい地球帰還システムを考えて(できれば、使えるように して!!)おきたいと思っています。

(山田和彦、やまだ・かずひこ) ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※