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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第491号

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ISASメールマガジン   第491号       【 発行日− 14.02.18 】
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★こんにちは、山本です。

 週末、関東地方は またまた大雪でした。
週明けの相模原キャンパスは【雪国】でした。

 相模原市の交通機関は、電車は動いていますが、バスの運行は大幅に乱れていて、通行できない道路があるため 目的地に行くことができないこともあるようです。

 週末に、甲府で講演の予定だったS先生は、甲府の手前で中央線が立ち往生して、講演も中止となり、月曜日の段階で山梨県から“脱出?!”できていません。

電車も道路も“不通”で、帰り着けるのはいつになるのでしょう……

 今週は、宇宙飛翔工学研究系の後藤 健(ごとう・けん)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:月ペネトレータ技術実証ミッション
☆02:宇宙学校・さくらい 【2月22日(土)】
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★01:月ペネトレータ技術実証ミッション

 現在、私たちは宇宙科学研究所で公募されているイプシロン搭載宇宙科学ミッションへ2010年に技術完成を宣言した月ペネトレータを用いた月探査ミッションの提案準備を進めています。

科学探査機器として高精度震度計、熱流量計を搭載しており、隕石衝突による月震を感知することと熱流量の測定による地殻付近の熱的構造を知ることにより月の最外層にある地殻の構造を明らかにしようとしています。

月ペネトレータをご存知の方も多いと思いますが、改めて簡単に紹介します。


 月ペネトレータはこれまで、2007年のルナーA計画中止後に完成を目指して開発を続けて来たものです。

月周回衛星から切り離された後に、小型の固体ロケットで減速し、姿勢制御装置で月表面に垂直になるように誘導した後にキャリアから分離、そのまま月の表面に槍のように突き刺さり、1mほど地下に設置されます。

衝突の際の速度は300m/sといわゆる着陸とはほど遠い早い速度で貫入します。その分機器は衝突の際の衝撃力(8000G)に耐える必要があります。震度計の設置は擾乱の少ない地下がよいので、こういう方式が優れている訳です。

もう一つの利点はシステムが簡単で、軽量であるため、小型のロケットでも月まで運んでゆけるのです。

軟着陸するためには大きな着陸機が必要となり、残念ながらイプシロンロケットではとても打ち上げることはできません。先日月着陸に成功した中国の月探査機は着陸機が1200キロもあります。

これに対して、ペネトレータはキャリアを含めて、1基40キロ程度と軽量であり、複数基の搭載により、ネットワーク観測によるより大きな科学成果が期待できるのです。


 ルナーA計画では当初3基(最終的に2基)、ロシアと検討した共同ミッション、ルナーグローブでは4基のペネトレータによる多地点ネットワーク観測を予定していました。多地点ネットワーク観測により、月の内部構造が明らかとなり月の生い立ちと太陽系、地球の誕生の経緯が明らかとなることが期待されていました。

しかし、今回の提案で搭載するペネトレータは残念ながら1基となりそうです。その分期待できる科学成果は上記の2つのミッションより後退しますが、これまでにない精度で地殻の構造データが明らかになると期待しています。

さらに、我々研究チームはこれまで世界のどこの国でもなし得なかった新しい観測機器の設置手法であるペネトレータを全世界に向けてデモンストレーションするまたとない機会ととらえています。


 最後に構造・材料技術の観点から月ペネトレータの難しいところを紹介します。

第1は、貫入時の8000Gの衝撃に耐えること、
第2は、熱流量センサーの精度の高い測定のため本体の表面素材の熱伝導率が月のレゴリス(砂)と似たような熱伝導率であること。
第3は、貫入後に−20℃にまで冷えることです。

まず、第2の月レゴリスの熱伝導率に近いものでなければならないことから、外部構体の素材が限られます。軽量な構造材料であるアルミ、チタンは使えず、炭素繊維強化複合材で強度、剛性と熱伝導率要求を満足するものを材料設計してつくります。

次に8000Gに耐える内部の基板実装方法です。通常の電子基板はハンダ付けですが、そのままではICの足がとれて破壊されてしまいます。そこで、耐衝撃性を持たせるためにはヘルメットのように、全体を包んで荷重を分散する必要があります。

さあこれで、科学観測ができ、貫入衝撃に耐える構造ができました。しかし最後の−20℃まで冷やすと、構体の複合材の熱膨張係数が小さいので、電子基板を柔らかく包んでいるポッティング材に大きな引張り力が作用してしまいます。

開発完了までに、何度もペネトレータはこの冷却時に生じるポッティング材の破壊により、電子基板上の電子回路が破壊されました。最終的には破壊を押さえ込むのではなく、必要なところは壊さないコントロールされた破壊を起こす設計にすることで、2010年のアメリカのニューメキシコ州での貫入試験、その後の低温試験に2基中2基成功することができました。


 2月末の公募締め切りに向けてロケットの能力と衛星システムの検討をしています。ここでは、ルナーAの周回衛星で検討されてきたものが大いに役立っています。世界初の探査技術を実現すべくよりよい提案にしたいと日夜研究チームのみんなで検討を重ねています。


(後藤 健、ごとう・けん)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※