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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第490号

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ISASメールマガジン   第490号       【 発行日− 14.02.11 】
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★こんにちは、山本です。

 週末、東京は45年ぶりの大雪でした。
相模原キャンパスでも積雪量が多く、守衛さんたちはメインの歩道を確保するだけでも大変だったようです。

 駐車場内の道路は、日曜日に解けた雪がアイスバーン状態となったり、駐車スペースに積もった雪で、ノーマルタイヤで出勤してきた車が制御不能になったりしていました。

 今週は気温の低い日が続く予報です。
相模原キャンパスは 逃げたりしないので、見学予定を変更したほうが良いと思います。

 今週は、宇宙物理学研究系の前田良知(まえだ・よしとも)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:天の川銀河の中心核ブラックホールにガス雲急接近中です。
☆02:特別企画展「はやぶさ? アポロ! ちきゅう?! 宇宙の石大集合!」
      【はまぎんこども宇宙科学館】(〜2月23日(日))
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★01:天の川銀河の中心核ブラックホールにガス雲急接近中です。


 我々太陽系の属する天の川銀河、この中心には太陽の約400万倍の重さを持つ大質量ブラックホール(BH)が存在すると考えられています。また、天の川銀河だけでなく、どの銀河にもこのような大質量BHが中心に存在するのではないかとも言われています。質量は大きいもので太陽の100億倍にも達していますが、なぜそんなに重くなれるのかはわかっておらず、天文学の未解明課題になっています。


 太陽の数億倍もの大質量BHを、ぼん!といきなり作るのは理論的に難しいです。そこで現在有力なのが、大昔に作った種BHにどんどん質量を供給し、大きく太らせる考え方です。BHが周りのガスを食べて太る時には、BHの重力場でガスが加速され、BHに吸い込まれる前に強い光を出します。このような現象は観測にも捉えられていて、活動的銀河核と呼ばれています。


 活動銀河核を良く調べてみると、確かにBHの近傍に高速回転するガス円盤が存在しています。この回転ガスの内側の一部がBHに取り込まれているのは間違いないようです。高速回転するガス円盤は、食卓に並べられた食事に例えると理解がしやすいかもしれません。その食事を何でも吸い込むBHが食べるわけです。BHは太りそうですね。


 でも、一つ重大なことを忘れています。それは、この食卓にどうやって食事を運ぶかです。BHの差し出すスプーンやフォークの届かないところに質量があっても、BHの口には入りません。巨大BHの食卓の外にガスが近づいても、楕円軌道を描いて回っているだけで、一見食卓には載らないようにも思いますが、本当でしょうか。


 この答えですが、今は誰も正解を知りません。なら、実験です。BHの近くに行って、ガスを放りこんでみたくなりますよね。落としたガスがテーブルに載るのか、どんな風に載るのか、載る割合は、などいろいろわかりそうです。

でも一番近い天の川銀河の大質量BHでも、到着するまで光速で進んでも約2万6千年かかります。STAPやiPS細胞を駆使すればたどり着けるかもしれませんが、少なくとも私の次の世代までその実現を待たねばなりません。自己中心的な私はやっぱり今実験したいです。


 2012年、この私の都合の良い空想を満たしてくれるガス雲が現れました。その名は“G2”と言います。ドイツの地上赤外線観測グループのGillessen氏らの長年の根気強い観測により発見され、天の川銀河の中心の巨大ブラックホール(BH)に向かって、移動している姿が撮影されたのです。

その後の軌道が精度良く求められ、なんと来月ぐらいにBHに130天文単位(1天文単位は太陽と地球の平均距離に相当)まで近づくことがわかりました。

この距離は太陽の約400万倍の重さを持つ大質量BHの半径のたった2000倍程度で、ガスは潮汐力を受け、一部のガスの軌道がBH側に引き寄せられるかもしれません。BHに向けて落下し、加速され、X線で明るく輝くとも考えられます。


 BHにこんなにも接近するガス雲を捉えたのは、人類史上はじめてのことです。したがって、この時期には世界中の天文台が、天の川中心へと望遠鏡を向けると思われています。私も仲間と一緒にX線天文衛星「すざく」を用いて、この現象を追います。

何が検出されるかは自然のみが知りますが、BHの食卓に載ったり、BHに吸い込まれそうになった時にガスから放出されるX線を「すざく」が捉えるのを楽しみにしています。

(前田良知、まえだ・よしとも)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※