宇宙航空研究開発機構 サイトマップ

TOP > レポート&コラム > ISASメールマガジン > 2014年 > 第485号

ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第485号

★★☆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ISASメールマガジン   第485号       【 発行日− 14.01.07 】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

★明けましておめでとうございます。山本です。

 例年より長い正月休みでしたが、皆さんは無事仕事復帰されていますか?

 年明けの相模原は、いつもの年のように冷えきって寒く、万全の準備?と考えて暖かい格好をしてきたのに、足許が寒くて震えています。

 来年こそは 周到な準備で臨む!と決意を新たにしているところです。

 そんなことより、先ずは、
今年も、ISASとISASメールマガジンの応援ヨロシクお願いします。

 例年どおり 新年の一番手は、ISASの先輩・中部博雄(なかべ・ひろお)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:イプシロン打ち上げ
☆02:報告資料:イプシロンロケット試験機による
     惑星分光観測衛星「ひさき」の打上げ結果について
☆03:宇宙学校・ふくしま【こむこむ】2014年1月26日(日)
───────────────────────────────────

★01:イプシロン打ち上げ

 7年ぶりにM-Vロケットクラスのイプシロンが内之浦から打ち上げられ大いに盛り上がりました。そこで、イプシロンの射場が内之浦に決まってから打ち上げまでの2年9ヶ月間を振り返ってみたいと思います。イプシロン輸送関係は宇宙研職員「ロケット班」の吉田裕二さんに、「ロケットまつり」の発端は、この会のプロデューサー斉藤友里子さんにお聞きしました。また一部の情報は南日本新聞を参考にしました。


■2011年01月12日:イプシロン内之浦打ち上げ決定

 峯杉内之浦宇宙空間観測所(観測所)所長から
「イプシロン打ち上げ射場が内之浦に決まりました。」
と町役場に吉報が入りました。内之浦(肝付)町民の悲願が叶いました。
最後のM-V-7号機が打ち上がってから5年、どんより曇った雲の隙間に光が差した瞬間でした。

 早速、内之浦総合支所には「イプシロン打ち上げ内之浦に決定」の大きな垂れ幕が出され、その10日後には、町役場、商工会、観測所協力会による打ち上げ決定を知らせる新聞広告が載りました。

 M-V亡き後はロケットに頼らない町づくりの話も聞かれましたが、写真店を営む元南日本新聞通信員の牧工さんと元婦人会長の橋本雅子さんは、
「イプシロン打ち上げ決定は本当に嬉しい」、
「これを機会に内之浦が活気づくことを切に願っています」
とお逢いした時に嬉しそうに話して下さいました。


■2011年04月23日: FOX映画「はやぶさ」内之浦ロケ

 撮影の1ヶ月ほど前に20世紀FOX映画から地元のエキストラ募集が町役場から通知がありました。募集要項は以下の通りです。

  場  所:宮原一般見学場
  撮影内容:打ち上げを見学する様子
  募集人員:150名
  条  件:肝付町内居住者に限る
  報  酬:出演料、交通費の支給はありません。
  服  装:普段着
 持 ち 物:2003年当時の携帯、カメラお持ちの方は持参して下さい。

募集要項の一部を見ないことにして、女房は内之浦の従姉妹と一緒に参加しました。午前9時から午後4時過ぎまで何回も同じシーンの撮影に飽きもせず撮影風景に興奮していました。その後、M管制室での撮影です。
主なスタッフは、
実験主任:大石吾朗(俳優)、保安主任:林紀幸(元宇宙研)、カウント:餅原義孝(宇宙研)です。

その他実験班は役場職員が担当しM-V-5号機の打ち上げ管制の再現です。本物の打ち上げを彷彿させる一時で、しばし思い出に酔っていました。撮影が終わったのは午後11時を過ぎていました。また、東映の「はやぶさ(遙かなる帰還)」撮影が7月に予定されていますので、久しぶりに内之浦は盛り上がりそうです。


■2012年06月27日:豪雨被害

 史上最多の24時間雨量371.5ミリの豪雨に襲われ、観測所のロケット桜付近(受付から約50m先)で土砂崩れがあり、鉄塔は倒壊しデータ通信ケーブルなどが切断され、資料館1階に土砂は流れ込みました。観測所始まって以来の被害でした。その為7月10日に予定していたS-310-41号機の打ち上げは延期になりました。また国道448号線で4カ所、津代の2カ所で大きな土砂崩れがあり、道路は寸断され3集落144人が孤立しました。


■ 2012年11月10〜11日:観測所50周年記念行事

 10日、観測所50周年式典(施設一般公開)が内之浦銀河アリーナで開かれました。町民を含む関係者400名以上が当時のご苦労や喜びを思い出しながら、この半世紀を祝いました。1962年2月2日の起工式から現在までに観測所から396機が打ち上げられ、27機の衛星、探査機が誕生しました。

 11日、観測所一般公開に、糸川英夫生誕100周年記念として町役場の働きかけで身長1.7mの立像が「おおすみ」記念碑の横に建てられました。
銅像の制作は東京芸術大学の本郷寛教授、除幕式には秋葉名誉教授(宇宙研元所長)、林名誉教授(元観測所所長)、小野田教授(宇宙研所長)、峯杉教授(観測所所長)、永野和行町長、当時を知る元婦人会の方や町民が参加しました。

 ブロンズ像は帽子にメガネをかけ袖をまくり、腕を組み南の水平線を眺めています。それは宇宙の彼方、宇宙開発の将来を見据えているようでした。

 この像はちょっと厳しい顔ですが、私の知っている先生は怖い存在ではありましたが、面接の時にお逢いした穏やかな顔が忘れられません。


■2013年06月02日:イプシロン立ち往生

 1日、内之浦港に到着したイプシロンロケットの1段目は、2日深夜に観測所に向け輸送を開始しました。そのスピードは人がゆっくり歩く位のノロノロ運転です。午前2時頃、観測所から300m手前の登りカーブで大型輸送車両(トランスポータ)は油圧系故障で動けなくなりました。輸送中に何日も立ち往生するトラブルは観測所史上初めてのことです。

 道路は片道通行となり、ロケットの警備は24時間、輸送会社と警備会社で行われました。

 修理は、4日05時より開始し、22時に完了しました。
輸送再開は00時(5日)に始まり、40分後にM組み立て室に無事搬入することが出来ました。


■2013年06月18日:講演会

 内之浦銀河アリーナでイプシロンプロジェクトマネージャー森田教授の講演会がありました。町民が100人ほど集まり、世界初の革新的なロケットの話に聞き入っていました。

 小学生から質問を受けた時は、「良い質問ですね」と発言者の緊張をほぐす気配りが、次の質問を生み盛り上がった講演会となりました。


■2013年07月02日:宇宙教室

 内之浦小学5年生が18名、イプシロンについて学ぶため観測所で宇宙教室を受講しました。講師は荒川開発員でイプシロンには人工知能による点検機能があり、パソコン2台で打ち上げの管制をするなど、打ち上げ時の動画を紹介しました。

 また、生徒達は事前に学習してつくったイプシロンのリーフレットを荒川さんに添削してもらっていました。


■2013年08月05日:「イプシロンの里」弁当試食会

 肝付町観光協会が4月から試作を重ね、黒豚のショウガ焼きや夏野菜のてんぷらなど7品目が完成しました。食材は全て町内産にこだわり、潮騒荘、ハローランチ鹿屋店、おとめ工房(岸良)など6店舗がつくりました。

 文化センターで試食会が行われ、峯杉所長は
「とても美味しくてわくわくする。疲れた体に活が入る」
と気に入っていました。


■2013年08月06日:イプシロン焼酎

 大海酒造から「はやぶさ」につぐ第2弾として焼酎「イプシロン」が発売されました。原酒を温泉水で割り、スッキリした味わいに仕上げたそうです。1000本限定で肝付町のみの販売になります。


■2013年08月08日:イプシロン地上系不具合で延期

 1日に電気系統の点検中に地上とロケットの間で通信が出来なくなりました。地上系の信号中継装置の誤配線が原因でした。他にも不具合がないか再点検を実施しました。最終的に問題ないと判断されましたので、打ち上げ日の延期を27日にすることを発表しました。


■2013年08月20日:成功祈願の千羽鶴贈呈

 元婦人会長と肝付町地域女性団体連絡協議会がそれぞれ1ヶ月かけて作った千羽鶴を「成功祈願」の気持ちを込め、糸川英夫教授(銅像)に見守られながらイプシロン打ち上げ実験班に贈呈しました。地元の熱い思いが伝わってきます。


■2013年08月26日:第59回 ロケットまつり IN 内之浦

 宇宙作家クラブ主催の「ロケットまつり IN 内之浦」、テーマは「ロケット打ち上げを支えた人たち」と題してパネルディスカッションが開かれました。
出演者は牧工、橋本雅子、林紀幸(元ロケット班)、松浦晋也(ノンフィクションライター)、あさりよしとお(漫画家)、今村勇輔(編集者)と私(元タイマ・点火管制班)です。

 糸川英夫教授の内之浦訪問からL-4Sの苦しい時代を経て50年、婦人会や町民の惜しまない協力や実験班が元気づけられたこと、エマストや握力でロケットに点火等、今だから言える秘話、炊き出しや道路づくり、そして「おおすみ」成功の感激などの話が出ました。

 この会の発端は2002年(H14年)2月に、樋口真嗣(映画監督)、あさりよしとお(漫画家)、松浦晋也、笹本祐一(作家)、の4人が種子島でH-IIA-2号機の打ち上げを見学した時に、打ち上げ自体は上手くいったのに搭載した衛星の一つDASHの分離が失敗し、マスコミ(特に全国紙)には四捨五入され、まとめて「失敗」とかき立てられたことにあります。

この理不尽さが気になり、小林伸光(イラストレーター)を加えたメンバー達は本当のところを実務者から聞く「ロケットまつり」の開催を決めました。そして、2003年9月24日に東京新宿のロフトプラスワンという会場でスタートしたそうです。


■2013年08月27日:イプシロン緊急停止

 ロケット大好き少年の元気君(12歳)母子は、山口県から打ち上げやイベントのたびに大きな車でやって来られます。今回は宮原の一般見学場(見学場)の抽選に外れたというので、私の車で女房と4人で一緒に行くことにしました。

 27倍の難関を勝ち取り見学場に朝早くから車が集結、良い場所取りです。しかし、すでにベンチはシートで埋め尽くされていました。数日前に用意したそうです。あとは空いている周りの草むらに陣地を確保するだけです。三脚の設置場所も重要です。炎天下のテントはうらやましい限り、夏休みとあって家族づれで見学場はあっと言う間に満員になりました。

 元気君のお母さんは活発で明るくて素敵な方です。見学場の常連さんで、前回撮った写真を沢山もって、多くの友達と再会を楽しんでおられました。一方、元気君は知り合いになったお兄さん達を見つけ、早速質問攻めです。

 携帯電話の中継車が3社、コンビニ移動車とグッズ売り場もあり、まさに縁日の賑わいでした。「イプシロンの里」弁当もあっと言う間に売り切れました。他の見学場所の分も入れて1000食つくり完売したそうです。

 私は点火管制班として42年間、管制室から打ち上げの振動は300回以上経験していますが、見学場から直接打ち上げを見るのは初めてです。

 じっと外で待つのは暑さに耐えられませんので、5時間以上エンジンをかけた車の中で過ごしました。たまに外に出るとインタビューを受けたと思えば、懐かしい実験班の仲間と再会、ミニOB会の雰囲気がありました。

 いつの間にか打ち上げが近づいてきました。その時トラブルの発生です。私のデジカメが急におかしくなり画面のブレが止まりません。悔しい思いをしながらX-70秒のカウントダウンを迎えました。見学者から10秒前から1秒おきのカウントダウンの合唱が始まりました。

 「・・3,2,1,0、秒読みを終了します。」
冷静な放送、しばらく沈黙が続き、その後ため息や落胆の声が聞こえてきました。

 X-19秒、自動的に緊急停止したことが判りました。つまりエマストです。原因は地上とロケット側のやりとりが上手くいかなかったようです。

 これは失敗ではありません。打ち上がる前の不具合は出来るだけ出し切った方が良いのです。その分成功の確率が上がるのですから。

 各見学場から合計2500台以上の車が次回に期待しながら一斉に移動が始まりました。私は助かった気持ちを抑えて、内之浦では経験したことのない大渋滞に巻き込まれながら帰途につきました。


■ 2013年09月14日:イプシロン打ち上げ

 元気君母子は今回も打ち上げ成功を願って車で内之浦入りです。2回目の見学となれば、何が必要でどうすればいいか学習するもので、準備は万全です。

夏休みも終わり見学者も少ないだろうと思っていましたが、打ち上げが土曜日なので、見学場(宮原)、叶岳は2カ所、内之浦漁港、内之浦小学校校庭、岸良海岸の6カ所で前回より約5000人多い2万人が全国から見学に来たそうです。そのうち漁港では伊勢エビ味噌汁1000人分が振り舞われると聞きましたが、こちらの見学場にはそれが無いのが寂しい。

 予定通りランチャー出し、イプシロンが現れました。定期的にM台地から風観測用の気球が放されています。風は少し強いようで心配です。新しいカメラは連続撮影に切り替えました。総員待避の放送、もうすぐです。

最後の放球を見ると、何と頭上に気球が・・
「M台地からここまで飛んできましたよ、風が強いですね」
と近くにいた中島先生(前観測所所長)に興奮気味で話すと、
「そこから(宮原から)放球しているよ」
とつれない返事。静かな時間が過ぎていきます。

秒読み開始直前に打ち上げ時間は15分延期され、14時00分に設定変更されました。「中止」の文字が脳裏に浮かびましたが、危険水域に船が進入しそうだったので延期したことが判り一安心です。

 いよいよ点火モードに入りました。緊張の瞬間です。だんだんカウントダウンの合唱が大きくなり、イプシロンに点火です。煙が出てゆっくり上昇、雲の隙間をぬって長い時間飛翔を見届けることが出来ました。拍手が一斉に起こり、涙ぐむ見学者、打ち上げ成功です。皆さんの笑みがイプシロンの将来を予言させます。冷静沈着な新聞記者(Y新聞のNさん)が涙\を浮かべながら取材されている姿を見て、さらなる感動を受けました。

 希望の光は確実に点灯したのです。宇宙科学の最先端。「宇宙の浦」にふさわしい内之浦に、陸つづきで行けるロケットを打ち上げている場所は内之浦だけです。これは何処にもない最高の立地条件です。是非それを生かした町づくりに期待しています。

(中部博雄、なかべ・ひろお)

‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※