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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第462号

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ISASメールマガジン   第462号       【 発行日− 13.07.30 】
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★こんにちは、山本です。

 今年の特別公開も 無事終了しました。
心配していた雨も、土曜日の終了後 撤収作業時にポツポツ降った程度でした。

 私はいつも通りで、スタンプラリーの終点にいましたが、あるお母さんから質問がありました。
「あのぉ〜、スタンプラリーの終点に所長さんはいないのですか?」
 そうです!今年のスタンプラリーの台紙には、常田宇宙研所長が
「おめでとう」
と言っている似顔絵が印刷されているのです。

 広報のYさん作の似顔絵はとてもよく似ているとスタッフの間でも評判でしたが、子供たちには
【宇宙研所長 = 相模原キャンパスの一番偉い人】
から 誉めてもらえると、期待させてしまったのでしょうか……

 今週は、太陽系科学研究系の松岡彩子(まつおか・あやこ)さんです。
特別公開・第1会場の「リレーミニ講演」で 磁石の話 を聞かれた方もいらっしゃるでしょうか

── INDEX──────────────────────────────
★01:磁石が嫌い
☆02:相模原キャンパス特別公開2013、終了
☆03:星の王子さまに会いにいきませんか ミリオンキャンペーン2
   【募集期間を延長・8月9日(金)17:00まで】
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★01:磁石が嫌い

 私は、地球や惑星の磁気圏や周辺のプラズマ環境を、人工衛星を使って観測する研究をしています。

磁石の周りにできる力の場を磁場と言い、この磁場は宇宙のプラズマの運動を支配する重要な物理量です。磁場を測る機器を人工衛星に載せて、磁場とプラズマとの相互作用などを調べています。現在打ち上げ準備中のプロジェクトでは、BepiColombo MMO やジオスペース探査衛星ERGの磁場計測器を担当しています。磁場を測ることが仕事なのですが、タイトルの通り、磁石が嫌いです。磁石にくっつく物も嫌いです。


 宇宙における磁場は、強さが場所によってずいぶん違います。太陽系で一番強い磁石は太陽ですが、太陽の黒点では地球表面の磁場の一万倍にも及ぶ強い磁場があります。

しかし太陽の表面に人工衛星を送りこむことは難しく、これほど強い磁場を宇宙で直接測った人工衛星はありません。人類が直接測った一番強い宇宙の磁場は木星の周辺の磁場で、地球表面の磁場の2〜3倍程度です。

宇宙の大半の場所は、磁場がとても弱いのです。例えば、太陽からはプラズマの風(太陽風)とともに磁場が放出されていますが、地球の近くに来ると薄まってしまって、地球表面の磁場の一万分の一くらいの強さしかありません。このように弱い磁場を詳しく調べないと、宇宙のプラズマの研究になりません。

地球の磁場の百万分の一の精度で磁場を測らなくてはならないのです。
私の磁石嫌いの原因はここにあります。


 人工衛星で宇宙の磁場を詳しく調べる時に一番邪魔になるのは、実は人工衛星自体です。人工衛星に使っている部品が磁場を出すと、宇宙の自然の磁場と区別がつかなくなるからです。

対策としては大きく2つあって、一つは磁場を測るセンサーを人工衛星本体からなるべく遠ざけることです。磁場を精密に測る人工衛星では普通、数メートルの腕を伸ばしてその先端にセンサーをつけます。

もう一つは磁場を出さない衛星を作ることです。一番良いのは、磁石も磁石にくっつく物(磁性体)も一切使わないで人工衛星を作ることなのですが、人工衛星も電子・電気部品の集合体なので、全く使わないというわけにはいきません。そこでいろいろな方法を駆使して、磁石や磁性体を使っても磁場を外に出さないように衛星を作っています。

嫌いな磁石に衛星に載ってもおとなしくしていてもらうために、人工衛星や部品の設計段階から担当の方々と一緒に検討をします。特に強い磁石を使う機器は、何度も試験品を測定して対策を練ることもあります。


 このようにしてめでたく磁場を出さない人工衛星が出来ても、まだ終わりではありません。今度は磁石から衛星を守らないとなりません。強い磁場を出すものが人工衛星に近づくと、おとなしくしていた部品が磁場を出すようになってしまうことがあるからです。

私は怪獣ものは詳しくはないのですが、50代以上の方ならご存知のキャプテンウルトラに、磁石怪獣ガルバンという強い磁場を出す怪獣が出てくるそうです。この怪獣がどのくらいの磁場を出すのかは、残念ながら調べてもわかりませんでしたが(何なら私が測ってあげるのですが)もしも人工衛星がこういう怪獣に襲われたら、これまでの苦労が水の泡です。

たぶん怪獣は滅多にあらわれませんが、日常の作業の中で強い磁場が人工衛星にあたらないように気をつけるのは、とても大事なことです。

宇宙科学研究所のクリーンルームに入る時には、防塵衣を着てエアシャワーを浴びますが、現在そこに「磁気管理中」の貼り紙と、名札とか携帯電話、腕時計などを預ける台があります。磁場を出すこれらのものを身に付けて衛星の近くで作業すると、衛星の部品が磁場を出すようになってしまうかもしれないからです。

クリーンルームで作業される方には、出入りするたびに名札やら腕時計やらを外して頂いているので、とても御面倒をおかけしています。この場を借りて、ご協力に感謝致します。

(松岡彩子、まつおか・あやこ)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※