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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第457号

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ISASメールマガジン   第457号       【 発行日− 13.06.25 】
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★こんにちは、山本です。

 23日(日)夜の「スーパームーン」は観測できました?
反対に、満月が今年もっとも小さく見えるのは、12月17日(火)です。

 因に、次回の「スーパームーン」は、2014年8月11日(月)です。

 観測ロケット実験、イプシロンロケット打ち上げ と 今年は、内之浦宇宙空間観測所への出張者が多くいます。

A棟の廊下ですれ違ったMさんに
「あれっ 内之浦じゃなかった?」と声をかけたら、
「相模原は 今日だけ!」と 忙しそうに台車に積んだ荷物とともに去っていきました。……

 今週は、電子部品・デバイス・電源グループの高橋 優(たかはし・ゆう)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:準新人として
☆02:Think the Earth『宙(そら)のがっこう ー 深海編 ー』
☆03:相模原キャンパス特別公開に伴う臨時休館について
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★01:準新人として

 メールマガジンの原稿依頼を受けてから、何を書いたら良いかのヒントを探すため、必死でバックナンバーを読み返しました。

私が今までお話ししたことのない職場の方々が、どのような仕事をしているのか知ることができてとても勉強になったのと同時に、今の私には先人の方々の記事のような立派な宇宙の話は書けないと気づいてしまいました。

今回は、準新人(2012年入社)らしく宇宙研で1年2ヶ月働いての感想・学んだことを思いのままに書きたいと思います。


 私は電子部品・デバイス・電源グループに所属して、科学衛星の電源系の開発を任されています。とても長い名前です。実際には電源だけに関する業務を行っているので、よく電源Gと勝手に略しています。

電源Gに配属されるまで、私にとっての電源とは、
コンセント(商用電源)、
乾電池(1次電池)、
携帯電話やPCに使われている充電池(2次電池)
がほぼ全てでした。

掃除機をかける時には掃除機のプラグを壁の穴(コンセント)に挿します。時には、挿しが甘くて、遠くまで掃除に行くと、プラグがコンセントから抜けてしまうこともしばしばです。TVのリモコンの動作が悪くなったら迷わず乾電池を交換します。家に帰れば、取りあえずスマートフォンに壁の穴につながれた充電器を挿して常に2次電池を充電状態で使用しています。


 一方、宇宙での電源はそれほど単純ではありません。地上との大きな違いは、宇宙にはプラグを挿せる穴が空いていません。そこで数平方メートルくらいの大きさの太陽電池(SAP)で太陽光を電気に変えます。

衛星はこのSAPでみなさんのご家庭と同じくらいの電力を賄う、自給自足の生活をします。そしてSAPで発生した電力をレギュレータやPCUと呼ばれる電力制御器で制御し、2次電池(BAT)の充電、衛星の各機器へ電気を供給します。電源系といっても意外に広い守備範囲なのです。

レギュレータやPCUと違って2次電池は入社前から知っていたので身近に感じていましたが、宇宙ならではの難しさがありました。携帯の電池が、1年程で残量が無くなるのが早くなるのに気付かれる方も多いのではないでしょうか。私の携帯はまさにその通りで、1年程したら電池交換サービスを利用して新しい電池に交換しています。

最近、入手したiPhoneのwebサイトを見ると、
「正しく整備されたiPhoneのバッテリーは、フル充電/放電サイクルを400回繰り返すと、完全に充電しても元の容量の80%までしか充電できなくなります。」
としっかり書かれてあります。しかも2次電池の寿命は、充電状態や充放電回数で変わるのです。だから宇宙用の2次電池の取り扱いの難しさは、その特殊な使い方からきます。

衛星の軌道や姿勢あるいはどんな観測をするかによって2次電池の使い方は決まるのですが、iPhoneでの使い方より厳しいこともあり、寿命が短くなるのです。

たとえ寿命が尽きても、1年に1回の電池交換サービスを利用することだってできません。ミッションを成功させるために、2次電池の寿命をいかにミッションの要求どおりに確保できるかが、今まさに私の頭を悩ませる大きなテーマです。


 技術的な面で学んだことは、多くありすぎて何を書いたらよいかわかりませんが、宇宙研で学んだ一番のことは「頭を使って必ずなんとかする」ということでしょうか。

入社してから、相模原での業務はもちろんのこと、内之浦・能代・大樹町と現場で宇宙開発の最前線の仕事に携わらせて頂きました。どの実験・プロジェクトでも大なり小なりトラブルに遭遇しましたが、そこで前に進むことをあきらめる場面を見たことはありません。

入社当時、
「大丈夫かな?しばらく延期かな?」
と思ってしまうこともしばしばあったのですが、きっと私以外の誰もそんなことは思っていなかったでしょう。いかにトラブルのインパクトを小さくし、確実な方法で解決するか、仲間で頭を寄せ合って考えぬく宇宙研の仕事の進め方を肌で感じました。


 新人研修中の理事の講話で、「時間を掛ければ誰でもプロになれる。3ヶ月でプロにならなきゃいけない。」と一人の理事が新人の私たちに話してくれたのがとても印象的で今でも覚えています。ですが、それから3ヶ月後、いや1年2ヶ月後の今でも、プロになれたと胸を張れる状態ではないのです(人事、理事には大きな声で言えませんが)。

でもやっぱり、そんなことは言ってられません。万が一、再びこの記事を書く機会に巡り会ったら、もっと宇宙ついて読者をわくわくさせられる文章が書けるように、早くプロになれるように今日も頑張ります。

(高橋 優、たかはし・ゆう)


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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※