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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第452号

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ISASメールマガジン   第452号       【 発行日− 13.05.21 】
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★こんにちは、山本です。

 このところ、雨がよく降ります。
沖縄は「梅雨入り」したようですが、関東はまだ先ですよね

 「まだ先」と思っていると、忘れてしまうことが多いので…
「はやぶさ2」キャンペーンへの応募はお済みですか?

締め切りは7月16日(火)ですが、早めに応募することをお勧めします。
新しいウィンドウが開きます http://www.jspec.jaxa.jp/hottopics/20130329.html

 今週は、元 月・惑星探査プログラムグループの森本睦子(もりもと・むつこ)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:信頼
☆02:2013年度第一次気球実験BS13-02、BS13-03終了
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★01:信頼

2013年5月9日で、はやぶさ打ち上げ10周年を迎えました。
JAXA統合前の宇宙研最後の内之浦からの打ち上げでした。

その2003年、総研大宇宙科学専攻(※1)の1期生として宇宙研で学生生活を始めた私は、はやぶさが打ちあがって2か月後、親友を研究室の教授に紹介する機会がありました。

「大学時代の応援団の仲間です。寝食を共にし、親友というよりは家族のような存在です。」

私の親世代のその教授は大きくうなずきました。

※1 総合研究大学院大学
   ⇒ 新しいウィンドウが開きます http://www.isas.jaxa.jp/sokendai/index.html

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大学の学部時代、私は応援団でチアリーダーをしていました。
私の大学の応援団には、前に出て応援を指揮しリードするリーダー部と、チアリーダー部と、音楽を担当する吹奏部がありました。練習の時だけでなく、普段からよく一緒に過ごしていました。合宿では寝食を共にし、本当に家族のように過ごしてきました。

チアリーダーの演技の中に、「スタンツ」と呼ばれる組体操のようなものがあります(※2)。

※2 参考:日本チアリーディング協会
   ⇒ 新しいウィンドウが開きます http://www.fjca.jp/

人の上に人が乗っていたり、人が宙を舞っているのを見たことがある人も多いでしょう。
スタンツには役割(ポジション)が大きく3つあります。

(1)一番上に乗る「トップ」
(2)トップの真下にいて土台になる「ベース」
(3)そして、トップとベースを主に後方から支える「スポット」

ベースの上にトップが乗る2段のスタンツもあれば、下段のベースの上に中段のベースが乗り、その上にトップが乗る3段のスタンツもあります。
入部して数か月がたった時のこと、授業で練習に遅れて行ったら、「やっときた〜。」と先輩たちに言われました。どうやら、私がいなかったので、大がかりなスタンツの練習ができなかったとのこと。
新入生当時の私の役割はスポットでした。どの役割でも1つでも欠けるとそのスタンツが組めなくなります。

おそらく、チアリーダーを経験していない観客はトップばかりを見ているでしょう。一方、スポットは後方にいるため、ほとんど観客から見えませんが、スタンツを組むにはなくてはならない存在なのです。

スタンツを組むのに一番重要なこと、それは、お互いの「信頼」です。ケガの多い競技ですから、スタンツが成功する事だけでなく、失敗した時は トップが地面にたたきつけられないように、トップを受け止めて守らなければなりません。

新人の時スポット役だった私も、上級生の時は3段組みのスタンツの中段のベース役になりました。最下段のベース役の親友二人の上に私が立ち、そして、私の肩の上にさらにトップである親友が立ちます。中段で前に後ろにぐらぐらする私の体が腰のところで曲がらないように、スポット役の後輩が私の体にしがみついて、添え木のように支えてくれます。緊張の瞬間ですが、これほどお互いを信頼する場面はありません。

応援の時は、リーダー部の指示で応援内容が決まり、吹奏部が音楽を奏で、チアリーダー部のスタンツはその一部分として行われます。また、応援以外にもステージ上で演技をする事もあります。

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話は変わって、教授に親友を紹介した3年後、2006年9月、私は内之浦に行きました。M-V最後の打ち上げに立会って、宇宙研のロケット打ち上げにまつわる「文化」を見ておいてほしい、覚えておいてほしい、とある大先輩から誘われたのでした。

宇宙研のロケット打ち上げ時の「文化」は、話には聞いていました。いくつかの宿に分かれて準備期間はそこで寝泊まりし、メーカー、宇宙研、大学等所属に関わらず生活を共にしていると。

打ち上げの前日にしか行けませんでしたが、話で聞くよりも、実際に立会ってみて、様々な事を感じれました。

ふと、「応援団と似ているな・・・」と感じました。
多段式ロケットそのものがスタンツと似ているかも。
すると、M-Vの上に乗っている衛星はトップで、ロケット各段はベースか・・
地上系など縁の下の力持ちはスポットかな・・・。

コントロールセンターはリーダー部みたいなものかな。
吹奏部に相当する人たちもいたな。。
それ以外にも、もっとたくさんの人でロケットの打ち上げは成り立っているな。


教授がうなずいた意味が分かったような気がしました。家族のように寝食を共にし、お互いに信頼しあってこそロケットが打ち上げられる。宇宙研のロケット打ち上げはそうだったのですね。

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さて、スタンツは組んだあとは、安全に崩さないといけません。
先ほどの3段スタンツでは、「ワン、ツー、スリー」と3秒で崩します。

崩す時は中段の私が邪魔になります(笑)。
「ワン」で私はトップの親友を肩の上に乗せたまま少し足をまげ、「ツー」で前に飛び出します。スポットの後輩が、ありったけの愛情を込めて、思いっきり私を突き飛ばしてくれます。「スリー」で上からトップが落ちてきたのを、最下段のベースとスポットが受けとめます。

突き飛ばされた私は、自力で着地します。後ろを振り返ってケガもなく無事にトップが受けとめられているのを確認して、ようやく安堵します。


ロケット班も衛星が所定の軌道に入った事を確認してようやく安堵できます。


あれから7年、今年の夏、内之浦から多段式ロケットが再び打ちあがります。


(森本睦子、もりもと・むつこ)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※