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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第440号

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ISASメールマガジン   第440号       【 発行日− 13.02.26 】
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★こんにちは、山本です。

 もうすぐ 東日本大震災から2年になります。
南関東に位置する相模原では、以前と同じ(ような)生活に戻っていて、震災のことは日常ではあまり考えずに生活しています。

 「町田市・相模原市ライトダウンキャンペーン」を「地球環境のことを考える」「復興を祈念する」一過性のイベントとしないで、日常生活の一部になるようにしたいものです。

 今週は、学際科学研究系の稲富裕光(いなとみ・ゆうこう)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:観測ロケットS-520-28号機の打上げ成功
☆02:町田市・相模原市ライトダウンキャンペーン(3月11日)
   「まちだ・さがみはら 絆・創・光(ばん・そう・こう)」
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★01:観測ロケットS-520-28号機の打上げ成功

 微小重力環境利用実験を目的とした観測ロケットS-520-28号機が2012年12月17日16時に内之浦宇宙空間観測所(USC)から打ち上げられました。ロケットの飛翔および搭載機器の動作は正常で、283秒に最高高度312kmに達した後、内之浦南東海上に落下して実験が計画通り終了しました。


 観測ロケットの飛翔中に微小重力環境を作り出すためには、空気が極めて希薄な高度で放物線運動を達成するだけでは不十分で、ロケット自身のスピンによる遠心力をも低減させなければなりません。そのために、推進剤の燃焼が終わった後、ヨーヨー展開やサイドジェット噴射によりスピンレートを目標値まで落とすよう設計されました。このような工夫の結果、今回のフライトでは約7分間の微小重力環境が得られました。


 本実験では、微小重力環境を利用して結晶化の最初の段階である核形成に関する以下の二つの実験を実施しました。

(1)宇宙ダストの核形成再現実験(略称:DUST、研究責任者[PI]:東北大学 木村勇気助教)
宇宙空間を模した3つの小型チャンバー内でそれぞれ鉄と酸化タングステンの蒸気を通電加熱により噴出し、そこからナノサイズの固体微粒子が形成される過程を2波長干渉計、圧力計、放射温度計により測定しました。核生成理論を用いて宇宙ダストの種類、数密度、サイズを推定する際に最も 大きな不定性を与えている吸着係数と表面自由エネルギーの二つの物理定数を精度よく決定することを目指します。

(2)炭酸カルシウム結晶の均質核形成メカニズムの研究(略称:CAL、PI:東北大学 塚本勝男教授)
炭酸イオンとカルシウムイオンを含む11種類の異なる濃度の水溶液から生成した結晶核による光散乱強度と溶液インピーダンスの連続測定を行いました。これらのデータを元に、広範囲な濃度範囲での核形成メカニズムを決定します。この実験は空気中の二酸化炭素を削減するために地中に炭酸カルシウム結晶として効率よく固定・貯留する技術に関する研究につながります。

今回実施されたこれらの実験は、ISASの宇宙環境利用科学委員会が支援するワーキンググループ(WG)・研究チーム(RT)の活動の一環として計画、推進され、研究メンバーは東北大学、JAXA、そしてほかの研究機関や大学から参加しました。

(*注:“PI”というのはPrincipal Investigator(主研究者)の略で、どのような科学観測をするかを検討することから始まって、実際の機器の開発、地上系システムの開発、データの校正・処理の実施、解析研究といった機器に関わるすべてのことについて責任を負う立場の人を指します。)


 噛合せ試験は11月12日から22日まで相模原キャンパスにおいて行われました。

噛合せ試験は装置・機材の構造機能試験棟への搬入に始まり、搭載装置の机上噛合せおよびロケット頭胴部への組み込み、動作チェックを経た後に、飛翔体環境試験棟にて頭胴部のダイナミックバランス調整、振動・衝撃試験がスケジュール通りに進められました。

以降、頭胴部、モータ、尾翼部などのフライト品がUSCまで運ばれてフライトオペレーションを迎えました。

USCでは装置・機材の開梱に始まり、各部分毎の組み立て、導通・動作チェックの後、全段結合、全機導通チェック、電波テストが進められました。

微小重力実験では飛翔体打上げ直前の作業が必要となる場合があります。

CAL実験では、水溶液の長期保存による劣化や蒸発を避けるために、頭胴部組み立て直前に水溶液を調製してCAL装置内に組み込みました。

DUST実験では、長期保存による小型チャンバー内雰囲気の悪化が実験条件を変化させてしまうので、頭胴部組み立て作業後に小型チャンバーの真空 引きおよびアルゴンガス導入等の作業を行いました。


 実はフライトオペに思わぬ伏兵がいました。それは打上げ当日の天候でした。全体打ち合わせ時点の天気予報では、打上げ前日16日までは天候が悪く、一方で18日以降は風が強くなるとのことだったので、まさに17日がピンポイントの打上げ候補日だったのです。

そのような天候不順に加えてフライトオペ中に大きな問題が発生すれば、打上げの大幅な延期は避けられません。そのため、作業が1日たりとも遅 れることなく順調に進むように、また17日の天候に恵まれるように、PI班と共にUSC近くに祀られている長坪観音様へお参りに行き、地元の焼酎をお供えしました。


 関係者各位の普段の良き心掛けと神仏にすがったことが功を奏したのでしょうか、12月17日は天候に恵まれて打上げ実施となりました。

搭載装置からのテレメータデータは、飛翔中にリアルタイムでテレメータセンターに伝送されてPC画面上にクイックルックとして表示されます。PI班が作業していたテレメータセンターと私がいたコントロールセンターは建物が離れているので、打上げ時のPI班の様子を直に感じ取ることは出来ませんでしたが、実験終了直後に彼らからの電話で
「成功、大成功でした!」
との声を聞いて、大きく胸を撫で下ろしました。


 最後に、本ロケット実験の成功にあたり関係各位に深く感謝します。

(稲富裕光、いなとみ・ゆうこう)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※