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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第429号

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ISASメールマガジン   第429号       【 発行日− 12.12.11 】
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★こんにちは、山本です。

 真冬並みの寒気が居座っています。大雪の日本海側は 多くの被害が出ているようです。
 週末の宇宙学校は、金沢市のベッドタウンである野々市市で、市制1周年記念行事の一環として開催されます。
果たして講師達は無事到着できるのでしょうか?そして多くのこども達に集まってもらえるのでしょうか?

 今週は、宇宙機応用工学研究系の水野貴秀(みずの・たかひで)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:10年後の再挑戦
☆02:最遠のX線ジェットの発見
☆03:「ひので」が撮影したオーストラリア皆既日食の際の太陽画像
☆04:宇宙学校・ふくい(2013年1月12日(土))/宇宙学校・ののいち(12月15日(土))
☆05:2013年度「宇宙学校」共催団体募集(締切:2013年2月28日)
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★01:10年後の再挑戦

 あれからもう10年がたったのかと思うと、時の流れのはやさを感じます。


 2002年12月、「はやぶさ」に搭載するため、レーザ高度計(LIDAR:「ライダ」と読みます)の試験をしていました。打上げは翌年5月に予定されていて、1月には「はやぶさ」本体が打ち上げのために内之浦へ輸送されることになっており、探査機として最終的な調整が行われている状況でした。


 LIDARはその流れから完全に取り残されていました。


 「はやぶさ」は地球を出発してからイトカワへ到達するまでイオンエンジンを使って加速し続けるために、太陽電池パネルで発生される電力のできるだけ多くをイオンエンジンに供給する必要があります。そのため、機器の保温などにかける電力を節約しなければならず、冷えてもよい機材は冷えたままで運ぶことになっていました。

LIDARはレーザを使って「はやぶさ」とイトカワの距離を測るための距離計ですから、使用しない往路では−30℃という冷温での保管が要求されていました。


 宇宙の環境で代表的なものの1つに真空環境があることはご存じと思います。この真空の状態で温度を変化させて行う試験を熱真空試験といいますが、LIDARのトラブルは熱真空試験で温度を低くした際に発生しました。

「はやぶさ」巡航中の冷温保管状態を模擬して、真空中で0℃以下に一旦冷やした後、常温にしてもレーザが出ない!
何が起きたかを調べようと真空を大気圧にもどすと何事もなかったようにレーザが出る!

真空環境で冷温にしたときにだけ発生するやっかいな現象との闘いが始まりました。


 LIDARはレーザで距離を測りますから、レーザが出なければ「はやぶさ」に載せる意味がありません。全体の流れから大きく遅れた上に致命的なトラブルを発生しているLIDAR。その担当には、たいへんきびしいお叱りとともに、多くの支援をいただきました。X線グループの方々、レーザを専門とする先生、数社のメーカのエンジニアからの支援は貴重かつ、心の支えになりました。


 冷やすとレーザが出ないというトラブルの原因としては、レーザを発生させる部分に真空環境での温度変化による歪みがたまっているのではないかと推定されました。レーザ、機械設計、材料、熱設計といったの多くの分野の技術者が集まり、議論をした対策を、技能者が製作し、試験担当者が試験して結果を見て、そして、次の対策を考えて・・・。

昼夜を分かたず、議論→対策→製作→試験の繰り返しが残り時間をにらみながら続けられました。

通常の機器開発では、フライトモデルを製作する前の段階でプロトタイプモデルを作るのですが、LIDARはこのトラブル解析でプロトタイプモデルも試験に使ったため、今はありません。


 3月中旬までそうした努力が続けられた結果、レーザのスイッチに使われている結晶に問題があるということがわかるなど、状況に多少の改善が見られ、冷温になった後にある操作(秘密です!)をすると出力が最低限使える程度に回復することがわかりました。しかし、ここで時間切れになりました。3月17日に川口プロジェクトマネージャから

「LIDARは20℃以上で保温して運ぶので、すぐにフライトモデルとしての組立と試験に入れ」

という指示が来ました。ぎりぎりの努力を続けてくれている現場にいる私には容易に受け入れられない指示でしたし、「はやぶさ」に負担をかけるような機器を出したくないという強い思いもありました。

しかし、神様が開いてくれる、地球からイトカワへの打ち上げウィンドウ(時期)は待ってはくれません。翌日からフライトモデル仕上げへ向けた作業に取りかかり、内之浦へ向けて4月12日に出荷、期限ぎりぎりでとりつけられました。


 こうして、「はやぶさ」に温存してもらって2年後にイトカワに到着したLIDARの動作は完璧で、2度の着陸では航法センサとして働き、さらに、イトカワの重力推定といった科学成果も出し、工学理学両面でプロジェクトに貢献することができました。


 しかし、「はやぶさ」は日本の小惑星探査の始まりですから、次のLIDARはプロジェクト要求に耐えるものでなければなりません。内之浦からM-V-5号機で打ち上げられる「はやぶさ」を見送った後も、レーザ部をどうするのか? 考え続けていました。

翌年、メーカの協力によってレーザ部の構造を別の形式にして、−30℃の冷温保管を達成してこの問題を解決し、次のLIDARへの備えとしました。


 2012年12月、「はやぶさ2」は2014年の打上げをめざして準備が進められています。搭載されるLIDARは新たな機能を追加して、10年後の再挑戦に向けてフライトモデルが製造されています。

(水野貴秀、みずの・たかひで)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※