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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第421号

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ISASメールマガジン   第421号       【 発行日− 12.10.16 】
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★こんにちは、山本です。

 先週も書きましたが、急に秋になりました。
秋と言えば、『芸術の秋』でしょうか

18日(木)から、相模原市・アートラボはしもと で『ギャラクシーラブ』なる催しが始まります。(11月25日(日)まで)

 小惑星イトカワの観測データをもとに、地球の鉱物を使ってイトカワの成分に近い顔料や隕石の顔料を使って描いた絵や、高校生が衛星をアートの視点でデザインした模型の展示などがあります。

宇宙研のパネル類や池下さんのイラスト展示もあります。

小学生以上が対象の 関連イベントもあります。詳しくは、
新しいウィンドウが開きます http://www.city.sagamihara.kanagawa.jp/event/boshu/024774.html

 今週は、宇宙飛翔工学研究系の徳留真一郎(とくどめ・しんいちろう)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:化学ロケット推進の研究を世界のトップに 〜あきる野実験施設〜
☆02:2012年度 第2次観測ロケット実験の実施について
☆03:宇宙学校・とよやま【豊山町社会教育センター】(10月20日)
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★01:化学ロケット推進の研究を世界のトップに 〜あきる野実験施設〜


 研究のやる気を高めるには、思いついたことを自由に試せる環境を整えることが大切です。さらに、成果を上げるには、こだわりをもって研究を根気よく続けることが重要です。むずかしい言葉でいうと、自律的に挑戦を持続することがとても大事なのです。

世の中では、発見とか、発明とか、それまで誰もやったことがない新しいことを成し遂げるための源は、持続する内発的なやる気だといいます。


 さて、宇宙研には、本格的な化学ロケット推進の研究を自律的に行なうための二つの重要な活動拠点があります。「能代ロケット実験場」と「あきる野実験施設」です。ロケット推進の分野において、思いついたことを本格的な規模で自由に試すことができるという点では、これらの組合せに匹敵する活動インフラを持つ機関は世界的にも稀でしょう。

今年開設50周年の能代ロケット実験場に対して、来年で15周年を迎えるあきる野実験施設は、1998年、M-V-1号機打上げ成功の翌年に東京都あきる野市菅生地区の山あいに開設されました。


 宇宙研が駒場キャンパスにあった時代は、東京世田谷区の住宅密集地から50mほどの距離の敷地に、「耐爆実験室」と呼ばれるなにやらヤバそうな実験室がありました。固体モータやら推力方向制御装置やら姿勢制御用の液体スラスタやら、いろんな研究実験が職員、学生の別なく連日行われていたものです。

世界トップクラスと言われた固体推進薬をはじめとするM-V推進系のユニークな要素技術は、M-3SII型ロケットキックモータの開発に関連する基礎研究の成果として、そこで生みだされています。耐爆実験室で基礎研究の段階をパスした新しい技術が実機への適用を視野に入れた開発研究の段階に進むと、能代ロケット実験場で本格的規模の実証実験が行われるという流れができあがっていました。


 ところが、1989年に相模原キャンパスへの全面移転が行われた際、耐爆実験室は敷地問題によって行き場がなくなってしまったのです。折しもM-Vの開発構想が実行に移されたころに重なり、以降M-V-1号機開発完了までの10年間、駒場の残留拠点として活用されることになります。

第3段モータの燃焼試験方法の研究や上段固体モータの設計信頼度を向上させる研究などが継続して行われました。そしてM-Vの開発が山場を越えると、数値計算の分野を強化するとの方針の下、開発の陰で実験研究者の立場が相対的に弱まり、耐爆実験室そのものの存続が危ぶまれるようになります。

しかしながら当時、推進系分野の実験研究者の自律性を保つために耐爆実験室の機能移転を主導されていた高野雅弘教授の熱意が通じて、細谷火工(株)殿のご厚意により東京あきる野市の山あいに適切な敷地を借りることができました。そして次世代の化学ロケット推進系の研究拠点として、耐爆実験室の機能をしのぐあきる野実験施設ができあがったのです。


 あきる野実験施設では、薬量20kg程度で、推力1トンほどの固体モータや、それと同じくらいの規模の様々なロケットエンジンの実験などを安全に行うことができます。


 施設を守るのは、絶妙のタイミングでダジャレ(オヤジギャグとも言う)を連発して雰囲気を明るく盛り上げてくれる藤原さん。山あいの静かな実験施設はいつも笑いがたえません。

主な利用者と施設の管理メンバーは、施設長の堀恵一教授以下、駒場キャンパスの時代から固体ロケットの実験研究にたずさわってきた職員、そして推進系の研究にとりくんでいる学生です。ほぼ毎日精力的に研究活動を行なっています。

安全の面では、作業安全と火薬類の保安については元気で賑やかな鈴木さんが、また高圧ガスの保安については沈着冷静な八木下さんが、それぞれの分野の守護神として目を光らせています。

駒場のむかしは利用者のほぼ全員が固体ロケットの専門家でしたが、今は液体ロケットの仕事にも利用されています。施設がコンパクトで使いやすいこともあって、H-IIAの二段エンジンを高機能化するための研究や、次世代高速旅客機の開発へ向けた航空エンジンの研究にも利用されているのです。


 当初から関係者の間では「あきる野宇宙推進研究センター(ARC)」として、小さいながらも世界をリードする推進系研究の活動拠点とすることを目指してきました。その志を常に忘れず、世界に冠たる化学ロケット推進系の技術成果を生み出し続けるのが我々の楽しみでもあります。

ときどき宿泊施設と間違えてお問合せを頂くのですが、あきる野実験施設は立派な実験研究のための施設なんですよ。そろそろ名称を何とかしたい。

不況、大震災と、お金のかかる化学ロケット推進系の研究にとっては逆風続きですが、今後も世界有数の自律的な研究活動の拠点として持続的に発展させていきたいと思います。

(徳留真一郎、とくどめ・しんいちろう)


あきる野実験施設
新しいウィンドウが開きます http://www.isas.jaxa.jp/home/propellant/arc/arc_top.htm
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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※