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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第420号

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ISASメールマガジン   第420号       【 発行日− 12.10.09 】
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★こんにちは、山本です。

 台風が去って、やっと秋らしくなってきました。

駐車場のアメリカハナミズキが紅葉しているように見えたは、夏の暑さに痛めつけられて、葉が茶色に変色しているからでした。

今週の記事でも紹介している【ERG衛星】を打ち上げるのは、新開発の固体燃料ロケット【イプシロン】です。

イプシロンロケットの担当者も、2013年度の1号機(SPRINT-A)打上げを目指して大忙しです。

 今週は、太陽系科学研究系の浅村和史(あさむら・かずし)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:ERG衛星計画が進んでいます
☆02:宇宙学校・東京【東京大学駒場キャンパス】(11月3日(土・祝))
☆03:宇宙学校・とよやま【豊山町社会教育センター】(10月20日)
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★01:ERG衛星計画が進んでいます


 地球を出発して空高くへ進んでゆくと、空気が薄くなってゆきます。地上では1ccの空気中で1000京個(10の19乗個)もの粒子が飛び回っていますが、オーロラが光るような高度110km付近では地上の1000万分の1に、国際宇宙ステーションが飛んでいる高度400km付近では1兆分の1に減ってしまいます。


 さらに遠く、高度3万kmまで行くと、密度は1ccあたり約100個と言われており、地上に比べ10京分の1にもなってしまいます。ただしこの値は中性粒子の密度です。地上では大気のほとんどを中性粒子が占めていますが、高度3万kmではイオンや電子といった電気を帯びた粒子も多く存在します。その密度は1ccあたり0.1個ー1000個ほどです。


 みなさんは原子のサイズはどれほどかご存知でしょうか。地球周辺の宇宙空間に多く存在する水素や水素イオンのサイズは1000万分の1mm程度です。地上の大気では1ccに1000京個もの粒子があるため、いかに粒子のサイズが小さくても、すぐ別の粒子に衝突してしまいます。

うちわであおぐと風がおきますが、これはうちわに押された粒子が近くの粒子に衝突し、その粒子がまた近くの粒子に衝突...という衝突の連鎖によって空気全体が動いています。


 一方、高度3万kmでは密度が低く、粒子どうしの衝突はほとんど起きません。計算上は1個の粒子が地球−太陽間くらいの距離を飛行すると1回衝突するくらいの割合です。ところが、地球の赤道上空、高度1万−3万kmくらいにはとてもエネルギーの高い(つまり、高速な)電子、イオンが多量に存在する領域、放射線帯があります。これは実は不思議なことなのです。


 地球には太陽からの粒子の流れ、太陽風が吹き付けています。太陽風の速度は毎秒400km程度です。これもかなり高速ですが、放射線帯電子の速度は太陽風の数百倍にもなっています。

また、地球大気にも放射線帯電子のような高速電子はほとんど存在しません。衝突がほとんど起きない宇宙空間でどうやって放射線帯電子は加速され、高速になってゆくのでしょうか?


 この加速には電磁場が関係していると考えられています。電子やイオンは電気を帯びた粒子です。このため、例えば電子ばかり、またはイオンばかりが集まるとそこにはお互いに反発する力が働き、散らばろうとします。

ただの粒子衝突の場合、粒子のサイズが小さいためなかなか衝突が起きませんが、電磁場はちがいます。電磁場はとても密度の低い宇宙空間であっても一つ一つの粒子に対してちゃんと力が働きます。そして、電磁場は電子やイオンの集団の振る舞いによって作られます。地球自身が磁場を持つため、地球の周りには磁場がありますが、それに重なる形でこの電磁場が存在しています。


 というものの、放射線帯電子がどのような道筋を経て高速化してゆくのか、また密度が減ったり増えたりするのはなぜなのか、などについては分かっていません。

この謎を解き明かすため、私たちは地球周辺の宇宙空間では最もエネルギーの高い粒子が存在する領域、放射線帯を探査する衛星計画「ERG」プロジェクトを進めています。


 ERG衛星は放射線帯に飛び込んでゆき、電子が加速または減速される現場を直接捉えようとする衛星です。高エネルギー(高速)電子が生成されるメカニズムを調べるためには、まず、加速された結果である高エネルギー(高速)電子と加速前の段階の低エネルギー(低速)電子の両方を観測する必要があります。

また、加速には電磁場が関係している可能性が高いことから、電場、磁場観測器も必要です。さらに、イオンの分布も電磁場に影響するため、イオンの観測も重要です。


 こうしてERG衛星には電子観測器、イオン観測器、磁場観測器、電場観測器が搭載され、加速に関わっていると考えられる要素を取りこぼさないようにしています。また、一口に電子観測器、イオン観測器といっても電子やイオンの持つエネルギーによって使える観測手段が異なり、放射線帯では一つの観測器で低エネルギーから高エネルギーまでカバーすることはできません。

ERG衛星は5種類もの電子観測器、2種類のイオン観測器を搭載します。


 ERG衛星の観測器製作・試験が今後本格化してゆきます。ERG衛星の成功はもちろんですが、自分の担当する観測器をちゃんと動作させられるか、という消えない不安が続きます。


(浅村和史、あさむら・かずし)


ジオスペース探査衛星(ERG)
http://www.isas.jaxa.jp/j/enterp/missions/erg/index.shtml

内部磁気圏探査ミッション(ISAS 宇宙プラズマグループ)
新しいウィンドウが開きます http://sprg.isas.jaxa.jp/researchTeam/spacePlasma/mission/ERG/ERG.html

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※