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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第405号

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ISASメールマガジン   第405号       【 発行日− 12.06.26 】
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★こんにちは、山本です。

 前号で 今年の特別公開の日程が INDEXと本文で違い、読者の方を混乱させてしまい、申し訳ありません。
日程は、INDEXどおりの7月27日と28日です。

 台風5号が熱帯低気圧になり梅雨前線を刺激して九州地方に大雨を降らせています。

ISASでは、今週から内之浦へ出張するグループが2組。
来週からは観測ロケット実験で大勢が内之浦へ向かいます。

 これ以上大雨による被害が広がらないといいのですが……

 今週は、宇宙機応用工学研究系の小林大輔(こばやし・だいすけ)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:理系男子の妄想、そして現実
☆02:相模原チャンネル:宇宙研速報(6月26日:Ustream)
☆03:宇宙と音楽の夕べ【桜美林大学PFCエントランスホール】(7月1日)
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★01:理系男子の妄想、そして現実

 2012年5月号のISASニュースに「びっくりするコンピュータ」というタイトルで研究紹介記事を書いた[1]。二ヶ月記事を連投できるほど研究がスムーズに進めば、こんなにうれしい事はないが、そんなこと滅多に なく今回も無理だ。何を書いたら良いのだろうと頭を抱えていたら随分と先乗りな台風がやってきた。


 僕が出張すると何かとトラブルに見舞われる。同僚も認める所だ。

フロリダに行った時には経由地のダラスで「機体の準備ができない」と言われ、「次は行ける」「この次こそ行ける」と散々期待を持たされたあげく、とうとう空港を閉める時間になって「やっぱり無理」と想定外の宿泊を余儀なくされた。そこからホテルを探すのもまた一苦労だった訳だがそこは割愛。

ハワイから帰ってきた時は、やっと家でゆっくりできると思ったら成田着が遅れて電車がなくなり、成田で一泊するはめに。ベルギーから帰る時は異例の大雪に見舞われて空港に閉じ込められた。

日本だって負けていない。雷やら大雨やらなんやかんやで電車が良く止まる。その中でも台風の存在は一際だ。

北海道に行けば台風直撃で飛行機のスケジュールが乱れた。学会で徳島に行けば僕が徳島に入った途端に台風がやってきて瀬戸大橋が運休。多くの研究者が徳島入りできなかった。心よりお詫びを申し上げたい気持ちにすらなってしまう。

高崎に行った時などひどいものだ。僕が相模原を出る頃に台風直撃。当日遅れてはいけないと荒れる前日夜に、遅れがちな電車を乗り継ぎノリツギようやく現地入りした。ところが同僚は会議当日晴天のなか快適に到着した。かしこい彼はこれまでの僕の話を聞いて学んだそうで、僕とは違う日程で出張すると言って、その日もそうした...

なんだか泣けてくる。先週も例外ではない。そう、僕は出張していた。


 ひょっとしたら僕には嵐を呼ぶ力があるのかもしれない。人類を超越した新しい力に目覚めてしまったのかもしれない。そんな自分がナンダカコワイ。
そんな妄想の一つもしたくなる。

僕も科学者の端くれ、ここは一つそんな自分のアタラシイチカラとやらの可能性を科学的に検証し、あわよくば立証してビジネス展開なぞ目論んでみようじゃないか。


 そもそも台風はどの位の頻度で来ているのだろう。気象庁のウェブサイトを調べてみた[2]

それによると一年あたり平均11個の台風が接近するらしい。また、台風の寿命は平均で5.3日だそうだ。

僕は工学系出身で、そこでは
「細かい事はさておいて、まずはざっくりとした計算で大筋を理解する」
という能力を身に付けることがヨシとされる。その教えに従って、台風の寿命をざっくり一週間として計算しよう。そのざっくり加減が気にいらないという人は、「台風の爪痕」というやつを考慮した思慮深い仮定だと思ってほしい。

さて台風の寿命を1週間とし、それが一年に11個来るのだから、一年(52週)のうち11週が台風の影響を受けている計算になる。一年の5分の1が台風と言われると意外に多く感じられる。もっともこの計算は複数の台風が一度にやってこないという前提に基づいているので、一年に占める台風ウィークの実際の割合はもっと少ないのかもしれない。

この「複数台風同時到来確率」を考え出すとややこしくてしょうがないので、ここでは無視。まとめると、一年の内のある1週間を選んだとして、その週が台風である確率は11/52=0.21、つまり20%と言って良いだろう。なお、あくまで平均値ベースの議論であることを付け加えておく。


 次は「僕」に注目する。自分で自分に注目するのも変な感じで何だかコソバユイ。年によってバラツキはあるが、一週間程度の出張が年に5回程ある。ある年は丸一年出張していたが、そいつは例外としよう。一年(52週)の内から、ある週を選んだとする。その週「僕」が出張している確率は平均で5/52=0.096、つまり10%だ。


 いよいよ本題である。解くべき問はこれだ。

問1. 主人公である「僕」が出張すると台風がやってくる確率を求めよ。

 これを計算するには「条件つき確率」というものを計算すれば良い。計算すれば良いとは言ってもそれができるかどうかは別だ。条件つき確率の計算は結構神経を使うもので高校の時に確率を勉強し始めてチンプンカンプンになる鬼門でもある。実際このままでは解けない。という訳で、少し問題設定を変えて簡単に解けるようにしよう。


問1’. 主人公である「僕」が出張した時に「偶然」台風が来ている確率を求めよ。

 二つの出来事が「偶然」同時に起きる確率を求める問題に書き換えた。
つまり、お互いに何ら因果関係がない場合だ。この場合、同時に起きる確率はそれぞれが起きる確率のかけ算で良い。それぞれの確率は既に計算してあって、一年のある週を選んだ時に、

僕が出張している確率は0.1
台風が来ている確率は0.21である。

よって、両者が「偶然」同時に成立する確率、すなわち、ある週に僕が出張して、偶然、台風が来ている確率は0.1×0.21=0.021。
つまり2%だ。

小さいようだけれど、50週(つまりほぼ一年)の間に平均1回は起きる計算になる。年5回の出張で1、2回台風が直撃する程度じゃあ偶然の域を出ないようだ。アタラシイチカラはなかったか...

ちょっとあきらめきれない。

どなたか、計算間違いがあればぜひ修正して、できれば僕のアタラシイチカラを立証してほしい。


[1] ISASニュース2012年5月号(374号、1.8MB)
新しいウィンドウが開きます http://www.isas.jaxa.jp/ISASnews/No.374/ISASnews374.pdf

[2] 気象庁HP「台風の発生数、接近数、上陸数、経路」
新しいウィンドウが開きます http://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/typhoon/1-4.html

(小林大輔、こばやし・だいすけ)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※