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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第401号

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ISASメールマガジン   第401号       【 発行日− 12.05.29 】
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★こんにちは、山本です。

 今年の相模原キャンパス特別公開の日程が発表されました。
7月27日(金)、28日(土)の2日間です。
詳細は、順次発表しますので お待ちください。

 21日に金環日食は終了しましたが、6月6日には金星の太陽面通過があります。午前7時頃から午後2時前までの長時間にわたって観察できますので、日食用に入手した【日食グラス】がまた活躍します。

 次回の金星の太陽面通過は105年後ですので、【21世紀最後】となります。

 今週は、学際科学研究系の石岡憲昭(いしおか・のりあき)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:宇宙生命科学へのいざない
☆02:「ひので」衛星から見た日食を即時公開
☆03:2012年度第一次気球実験
☆04:きみっしょん参加者 募集締切 迫る(締切:6月4日・必着)
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★01:宇宙生命科学へのいざない

宇宙が始まってから今も多くの星々が誕生し、死んでいます。星の死はまた新たな星の誕生を促すのです。こうした過程の中で地球を含む8つの惑星からなる太陽系もできました。そして地球に生命が誕生したのは、今から約40億年前と考えられていますが、いったいどのようにして誕生したかは未だに謎がいっぱいです。

宇宙空間に存在する星間物質からいろいろな有機化合物が見つかっていますし、隕石からも核酸分子やアミノ酸が見つかっています。既に存在していた生命の基となる物質が、原始地球の海で高分子化し、タンパク質、RNAあるいはDNAとなり相互作用をしていく過程で生命が誕生したのでしょうか。最初の生物は単細胞のバクテリアと考えられていますが、どうやって生物として誕生したのかその過程も未だに解っていません。


1996年、生物の痕跡が火星由来の隕石から発見されたとのNASAからのニュースは、ことの真意はともかく地球外生命の存在に対する期待を高めました。火星は地球に良く似た惑星であり、その太古の環境も似ていたことを示すデータが増えています。さらにNASAは2001年に、同じ隕石から走磁性細菌によってつくり出されたような数珠状の磁鉄鉱の結晶を発見したと報告しました。地球に存在する走磁性細菌は酸素を必要としますが、もし、結晶をつくった細菌が地球型と似ているとしたら36億年以上前の火星には空気が存在したということになります。

火星には、主成分は二酸化炭素ですが、確かに非常に薄いながらも大気が今でも存在しているようです。また、2002年になってから、火星の地表面からほんのわずかの下に火星の全土を覆うくらいの大量の水が氷として貯えられていると発表しました。もし、氷の下に液体の水が存在すれば、その生命が地球型と似ているかどうかは別にして、過去に生命が存在しただけでなく今現在も生命が存在している可能性を否定できません。

ひょっとしたら火星を起源とする生命体が隕石や氷塊に乗って原始地球に飛来し、地球環境の中で重力に対応しながら生殖という個体複製の手段を獲得しながら進化を続け、そして今、我々人類が生命の故郷火星を目指し、さらに火星に眠っている水を利用して火星を地球のように緑豊かな星にしようというテラフォーミング計画をもって火星再生と宇宙環境への適応、そして居住を成し遂げようとしているのでしようか。


一方、2010年にNASAは宇宙生物学の常識を根底から覆すとして記者発表しました。すわっ、宇宙生物の発見かと思いきや、地球の塩湖の湖底深くから地球上に存在する他のどの生命体とも違い、ヒ素を使ってDNAやRNA、タンパク質、細胞膜まで作ることができるバクテリア(デュナリエラ)を発見したというのです。

地球上の生命体はすべて6つの構成要素(リン、炭素、水素、窒素、酸素、硫黄)でできています。生きとし生けるものは全てこの同じ生命の構成要素を共有しています。ところがNASAの科学者Felisa Wolfe Simon女史率いるチームは、カリフォルニア州モノレイクで見つかったデュナリエラは、リンの代わりに、毒性の高いヒ素を使っていると報告しました。
(Science. 2011 Jun 3;332 (6034):1163-6. Epub 2010 Dec 2.)

これは生命の解釈そのものを変える発見であり、地球と違う環境を持つ星からでも生命が発見される可能性を示唆しているとして、

「生命の定義が今まさに拡大された」

とNASAのEd Wiler氏は語りました。さらにSimon女史は、重要なのは、これで我々の生命の創成・成長に対する理解が根底から覆されたことだと語り、これからは科学者もヒ素のみならず他の元素を使う新しいタイプの有機 体やメタボリズムを探すようになるだろう、と指摘しました。

女史自身もさっそくいくつかの可能性を研究中だということを明らかにしました。しかしながら、この鳴り物入りでの記者発表は、宇宙人を期待した世界中を落胆させ、記者発表や研究の分析手法等とその結果に多くの批判がなされています。ただ嘘か誠かはともかく、地球外生命を探す手法に一石を投じたことは確かです。


宇宙生命科学研究について、
地球以外の生命の研究ですか?
宇宙人はいますか?
との質問を受けることがあります。そんな時、僕は決まって何時も、宇宙人はいます、もし他の星に宇宙人がいて地球を見たとしたら彼らにとってはまさに僕たちが宇宙人なのですからと、地球に住んでいるから地球人なのですと答えることにしています。

では宇宙生命科学研究とは何でしょう?
宇宙がビックバンにより始まって、早くも?137億年ほどが過ぎ、太陽系ができてようやく46億年、その第三惑星地球に生命が誕生し進化を続けて40億年。未だ進化の途上にあるとはいえ、そのトップランナー?である私たち人類は、今、知的好奇心と思索の中で生命を科学という道具で解き明かそうとしています。

脳が脳をどこまで解明できるのだろうというパラドックス的問いに明確な解答を出し得ないまま、生命が生命をどこまで解明できるのかに挑戦しているのです。


生命とは何か?
生命の多様性とは?
普遍性とは?
これら大きな課題へのチヤレンジは既に始まって久しいのですが、多くの知見が得られたと同時にまた多くの謎が新たに生まれ、未だ明確な答えを出すには至ってはいません。

宇宙生命科学研究は重力をパラメーターとする新しい視点からその大きな課題に挑戦しようというものです。そして宇宙での生物実験の目的のーつがそこにあります。

確かに宇宙生命科学には、宇宙に新しい生命を探索する研究も含まれますし、生物が重力を感知する分子メカニズムやそれに応答する分子メカニズムを明らかにすることも重要な基礎生物学の研究課題です。

さらに、宇宙飛行士が宇宙で起こす宇宙酔いや骨量の減少、筋肉の萎縮などもそれ自体が地上の医学に貢献できる重要な研究対象であることには間違いありません。

しかしながら、僕は、生命の本質に関わる新しい概念の創造を目指すことを宇宙生命科学研究の目的の第一として位置付けたいと思います。今まで地球上の生命の存在と進化に影響を与えてきた重力という環境から逃れる術がなく、それ故に重力なしには地球上の生命とその進化を語ることができなかった我々人類が、地球上で創り出せない唯一の環境であった長期間微小重力という環境の場と重力をパラメーターとして生命現象を解析することのできる技術と方法を、今、まさに手にしているのですから。


(本文は、ISASメルマガ執筆にあたり、
 「宇宙環境利用と人類の将来(I)−生き物の星・地球−」宇宙航空研究開発機構特別資料JAXA-SP-05-26に執筆収録された著者の拙文を加筆修正したものである)

(石岡憲昭、いしおか・のりあき)
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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※