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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第397号

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ISASメールマガジン   第397号       【 発行日− 12.05.01 】
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★こんにちは、山本です。

 ゴールデンウィーク中の相模原キャンパスは、やっぱりいつもと変わりありません。

Mさんに連休の予定を尋ねたところ、
「子どもが小学生になって遠出も出来ないから、カレンダーどおりに出勤します。」
という返事が返ってきました。

 読者の皆さんの連休計画はお決まりですか?
改装成ったISAS展示ホールの見学へ足を運ぶのはどうでしょうか?
但し、休日は グッズを扱っている生協も休みなので、買い物が出来ないのが残念なところです。

 今週は、太陽系科学研究系の長谷川 洋(はせがわ・ひろし)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:衝撃波で爆発?
☆02:未知の赤外線天体を発見:赤色巨星からの突発的質量放出の瞬間か?
☆03:「SOIデバイスの研究開発」文部科学大臣表彰受賞
☆04:プラネットふちのべフェスタ【桜美林大学プラネット淵野辺キャンパス】(5日)
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★01:衝撃波で爆発?

 ホワイトデー、そして円周率π(3.14…)の日でもある3月14日の翌日、国際的に権威ある学術雑誌「ネイチャー」に、とても短い記事ながらも、ある論文がハイライトとして紹介されました。


その論文は、アメリカ地球物理学連合という学会が出版しているJGR(Journal of Geophysical Research)という専門誌に掲載されたもので、2012年3月からJAXAインターナショナル・トップヤングフェローとして、宇宙科学研究所で研究を開始したアダム・マスターズ(Adam Masters)が共著者の一人です。


その内容は、

金星の太陽側、高度3000kmぐらいのところにある宇宙空間衝撃波「バウショック」で、プラズマの爆発現象が発見された、

というもの。ヨーロッパ宇宙機関(ESA)が打ち上げた金星探査衛星、「ビーナス・エクスプレス(Venus Express)」の観測によってもたらされた研究成果です。


 ところで、「衝撃波で爆発が発生する」というのは、衝撃波がどのように発生するのかについて、いくらか知識を持っている人にとっては、ちょっと不思議なことかもしれません。というのは、衝撃波はむしろ爆発が起きた時にしばしば発生する構造だからです。


例えば宇宙空間における衝撃波は、超新星爆発や、太陽の表面近くで発生する太陽系で最大の爆発現象「太陽フレア」が起きた時などに発生します。他には、2011年3月の福島第一原子力発電所の事故で、水素爆発が起きた時に衝撃波が発生したと言われています。この場合の衝撃波は、プラズマやガスが爆発地点から超音速で周りの空間に吹き飛ばされていく際にできるもので、ものすごいスピードで周りに伝搬していきます。


 一方で先に述べた、金星や地球のすぐ太陽側にある衝撃波「バウショック」は、宇宙空間中にとどまって、大体いつでも存在しています。このような衝撃波は、超音速で流れる太陽風のプラズマの中に、金星や地球という障害物があるせいで形成されます。このときにプラズマの流れをさえぎる障害物の役目を担っているのは、金星の場合には電離層であり、地球の場合には電離層よりもさらに上空の宇宙空間にまで広がっている地球の磁場です。


これと似たような衝撃波は、超音速で飛ぶジェット機やロケットなどの飛翔体の前方にも形成されます。これは飛翔体から見て周囲の空気やガスが超音速で飛翔体の方へと向かってきているからで、飛翔体そのものが障害物となっています。


 さて、先の論文で報告された「宇宙空間衝撃波での爆発」は、いつでも起こるわけではありません。金星や地球にぶつかってくる太陽風の中に、ある特殊な不均質性、「磁場の不均質性」がある時にだけ起こります。私たちが生活している大気中でも風向きがいきなり変化することがあるように、太陽風中でも磁場の向きが急激に変わることがあります。この磁場の急変が衝撃波にぶつかったときに、いくらか専門的に言うと、太陽風中の磁場の不均質構造と衝撃波とが相互作用したときに、爆発現象が発生するのです。


この宇宙空間衝撃波での爆発が起きるとどういうことになるのか、については、かなり込み入った話になるのでここでは述べません。以下で紹介するのは、衝撃波と不均質構造との衝突というのは、かなり昔から研究されてきた現象だということです。


それは第二次世界大戦中のこと。爆弾の爆発に伴って発生する衝撃波が建物や地面などの固体にぶつかった時に、どのような影響が現れるか、ということを調査・解析する科学者がいました。その一人が天才科学者、ジョン・フォン・ノイマンです。彼はハンガリー出身のユダヤ人で、大戦前にナチス政権を逃れ、アメリカに移住しています。


彼は、

「大きな爆弾がもたらす被害は、爆弾が地上に落ちる前に、つまり空中で爆発したときの方が大きくなる」

ことを明らかにしました。また彼らは、衝撃波と不均質構造との相互作用の概念を、爆縮方式の原子爆弾を実現させるためにも利用しています。つまり衝撃波をうまく利用することによって、原子爆弾の爆発を効果的に起こし、さらにその威力を大きくする方法を開発したのです。ちなみに、長崎に落とされた原子爆弾(通称「ファットマン」)に、衝撃波を利用した爆縮方式が採用されています。


フォン・ノイマンはその後、おそらく放射線を浴びたことが原因でガンを発症し、53歳でその生涯を終えています。これは、彼が1946年に太平洋ビキニ環礁で行われた原子爆弾の実験を観測したせいか、その後のロス・アラモス国立研究所での核爆弾開発に参加したせいであると言われています。

(ここに書いたことは、フォン・ノイマンの業績や生涯のほんの一側面にすぎません。関心のある方はぜひ関連書籍、例えば「フォン・ノイマンの生涯」をご参照ください。)


 余談ですが、同じくハンガリー出身のユダヤ人科学者に、水素爆弾の父とも呼ばれるエドワード・テラーがいます。一方、宇宙空間プラズマ中の衝撃波や磁場構造を解析する際にときどき使われる座標系として、ドホフマン・テラー系というものがあります。私はこの座標系を使って、ジオテイル衛星やその他の磁気圏探査衛星によって得られたプラズマや磁場観測のデータをすでに10年以上も解析してきました。にもかかわらず、ここで出てくる「テラー」が実はエドワード・テラーに由来することに気づいたのは、恥ずかしながらごく最近です。


私たちの研究分野と過去の著名な科学者たちとの思いもよらないつながり、そして人間社会や歴史において科学者がどのような存在であったのかについて、自分なりに認識することになった、この一年でした。


(長谷川 洋、はせがわ・ひろし)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※