宇宙航空研究開発機構 サイトマップ

TOP > レポート&コラム > ISASメールマガジン > 2012年 > 第394号

ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第394号

★★☆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ISASメールマガジン   第394号       【 発行日− 12.04.10 】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

★こんにちは、山本です。

 この一週間で ISASのサクラも満開になりました。
6日の金曜日には、2年ぶりの生協の花見も行われ、やっと本格的な春の到来です。

 明日、予報が出されている雨が 『花散らしの雨』にならないといいのですが……

 いよいよ今週末に迫った「宇宙科学講演と映画の会」ですが、今年の会場は、例年と変わって【新宿区四谷区民ホール】です。

地下鉄・東京メトロ丸ノ内線、【新宿御苑前】と【四谷三丁目】の中間辺りで、新宿通り・四谷四丁目の交差点の所にあります。
間違えないように お出かけください。

 今週は、学際科学研究系の篠原 育(しのはら・いく)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:20歳は老人?
☆02:もう一つの旅が終了〜「はやぶさ」帰還カプセル巡回展示〜
☆03:相模原キャンパス展示室、一部リニューアル
☆04:宇宙科学講演と映画の会【新宿区四谷区民ホール】4月14日(土)
───────────────────────────────────

★01:20歳は老人?

 日本初の人工衛星「おおすみ」が打ち上げられてから42年が経ちましたが、その約半分にあたる20年間にわたって、宇宙空間で観測を続けている日本の科学衛星があることをご存じでしょうか?
その衛星の名前は「GEOTAIL」といいます。今も現役で世界第一線の観測データを提供し続けています。(※)


 この衛星は、日米共同プロジェクトとして1992年7月24日に米国フロリダ州ケープカナベラルからデルタIIロケットで打ち上げられました。和名がついていないことや、打ち上げが日本でなかったことで、あまりなじみがないかもしれませが、衛星システムは日本が開発した日本の衛星です。今年の7月で満20歳の誕生日を迎えます。


 GEOTAILの科学目的は、地球の夜側にのびる地球磁気圏の尾部における“高温プラズマの起源と加熱・加速過程を明らかにすること”でした。なんだか難しい言葉が続きましたが、なじみのある現象でいうと、激しいオーロラを光らせるオーロラ粒子の源をつきとめる、というと少しはわかり易いでしょうか。打ち上げ当初の約2年間は、月軌道より遠い磁気圏尾部の観測を観測ターゲットとして、ほとんどの時間を地球の夜側に滞在するような特殊な軌道がとられたため、和名として「磁尾停留」という漢字の当て字を振ろうか、という話もあったようです。


 20年間も観測運用を続けると、よく
「いつまで観測続けるの?」
とか
「そんなに古い衛星で観測を続けて意味があるの?」
といった質問をされます。しかし、果たして20年間の観測は本当に長いもので、20年前の衛星を古い、と言ってしまってよいのでしょうか? この問いが出てくる理由の1つには、宇宙開発は最先端テクノロジーという印象が強すぎて、「古い」ことに否定的な雰囲気があるのかもしれません。


 科学観測の興味から言うと、長く続けることの意義は2つあります。

1つは、観測機会の極めて少ない現象を捉えること、
もう1つは、長期間の変動を捉えることです。

例えば、前者については、実際にこの20年間で数回しか観測できなかった重要な現象の発見があり、その解析がようやく最近になって進んでいたりします。

後者については、太陽活動の11年周期とか22年周期に連動して、地磁気活動が変動することが知られていますが、その連動が地球磁気圏を通してどのようにおこっているのか、については不明なことが多く、GEOTAILによってはじめて磁気圏尾部の長期変動の様相が明らかになることが期待されています。


 以前は観測対象となる現象の時間スケールは(長くともせいぜい数日程度の)短いものでしたが、私たちは、太陽活動との対応のように数十年とか、もっと長い時間スケールの変動に興味を持ちだしています。
(はじめは明日の天気予報しか興味がなかったけれど、地球温暖化のような長期間の気候変動にも興味が広がった、ということと似ています。)

こうして考えると、地球や宇宙を相手にする場合、数十年という時間スケールは決して長いものではなく、むしろ、どうやって長期間の観測を維持するのか、ということも大事な問題だということがわかります。これは、そもそも10年スケールのミッション期間を要する惑星探査ではもっと切実です。

ボイジャー1、2が35年以上かけて人類史上はじめて太陽圏(太陽風の勢力範囲)を脱して、恒星間空間へ到達しそうな観測データを送り続けていることを見るにつけ、20年という時間は決して長くないと思います。


 幸い、GEOTAILは観測を継続することに対して問題となるような故障は何一つなく、元気に20歳の誕生日を迎えられそうです。むしろ、衛星 を追跡したり、管制したりする地上設備の方の問題がありそうだったのですが、こちらも古い計算機設備を新しいものに更新する作業を淡々と進めて、問題を乗り越えようとしています。
(現状では、20年前のワークステーション計算機がいまだに稼働していて、運用に使われていますから、ご覧になったら懐かしく思われる方もおられるでしょう。)


 私たちは、これからもGEOTAILを大切に、研究を進めたり、観測データを世界の研究者らに提供し続けたりすることで、宇宙科学に貢献したいと考えています。新しい衛星のような派手さはありませんが、黙々と日々の観測データを送り続けている、こんな現役の日本の衛星もあるのだ、ということを読者の皆さんにご記憶いただき、応援いただければ嬉しい限りです。

(GEOTAILはこれまで数多くの科学的成果を生み出していて、沢山ご紹介したいことはあるのですが、その紹介は別の記事やプロジェクトのホームページに譲ります。)

(※)GEOTAILより年上で1989年打ち上げの「あけぼの」衛星も現役で頑張っています。


(篠原 育、しのはら・いく)

‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※