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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第393号

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ISASメールマガジン   第393号       【 発行日− 12.04.03 】
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★こんにちは、山本です。

 週末の雨と南風で、春が一気に進み、管理棟前の桜もやっと開花しました。

 JAXA相模原チャンネルで、4月3日(火)19時30分から
宇宙研速報:「超広角コンプトンカメラ」による放射性物質の可視化に向けた実証試験について
が 放送されます。解説は、ミッション機器系グループの武田伸一郎研究員です。

 今週は、宇宙機応用工学研究系の牧 謙一郎(まき・けんいちろう)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:太陽発電衛星の研究 <宇宙に浮かぶ巨大な発電所のお話>
☆02:「超広角コンプトンカメラ」による放射性物質の可視化に向けた実証試験について
☆03:「はやぶさ」カプセル等の展示スケジュール
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★01:太陽発電衛星の研究 <宇宙に浮かぶ巨大な発電所のお話>


 こんにちは。
JAXAの宇宙科学研究所(ISAS)で研究員を務めている牧といいます。

 今日は私たちJAXAで行っている太陽発電衛星(たいようはつでんえいせい)の研究について紹介したいと思います。
英語で書くとSolar Power Satelliteとなり、これらの頭文字を取ってSPS(エスピーエス)と呼んでいます。これは、私たちが将来の実現に向けて研究している夢の発電所についてのお話です。


★☆★ 太陽発電衛星(SPS)ってなに?? ★☆★

 皆さんがお家や学校、職場で使っている電気が、発電所で作られているのはご存じかと思います。発電所には火力、水力、原子力など様々な種類があり、中でも最近注目され始めたのが太陽光発電です。太陽光発電では、太陽光を太陽電池パネルに当たることで電気エネルギーが作られます。最近では、お家の屋根やビルの屋上でこの太陽電池パネルがよく見られるようになりましたね。

 私たちが研究している太陽発電衛星も、この太陽光発電の一つです。では今までと何が違うかというと、皆さんがよく見かけるのは、地球上で太陽の光を浴びて電気を作るのに対して、太陽発電衛星では、宇宙空間で電気を作ります。つまり、人工衛星が回っているところに、太陽電池パネルを広げて、太陽光を浴びせます。

 もしこれを読んでいただいている方が、人工衛星などの宇宙技術が好きだったら、こう思うかもしれません。
「今までの人工衛星にだって太陽電池がついてるよ!」
「何が違うの??」

 ではお答えしましょう。通常の人工衛星では、太陽電池で作った電気を、その人工衛星の中にある様々な装置を動かすために使っています。これに対して太陽発電衛星では、作った電気を地球上のみなさんの生活で使っていただくのです。

 さらに、一番の違いは太陽電池パネルの大きさです。有名な国際宇宙ステーション(ISS)の太陽電池パネルは70メートルぐらいですが、将来建設を目指している太陽発電衛星のパネルの大きさはなんと、2.5キロメートルです!
縦2.5キロメートル、横2.5キロメートルの巨大なパネルを宇宙空間に作ることを考えています。これは、サッカー場の900倍の広さに相当します。まさに「宇宙に浮かぶ巨大な発電所」です。


★☆★ どんな良いことがあるの? ★☆★

 太陽光発電を行うとき、太陽の光が強いほど、作られる電気エネルギーが大きくなります。しかし、地球上で太陽光発電を行う場合、曇りや雨など、天気が悪いときは光が弱くなり、さらには夜にはまったく発電されないので、使える電気が少なくなってしまいます。

 これに対して、太陽発電衛星の場合は、太陽電池パネルが宇宙空間に浮かんでおり、宇宙では曇りや雨は無く、ほとんど夜がないので、たくさんの電気を作ることができます。

 また、太陽電池パネルが広ければ広いほど、作られる電気の量も大きくなります。宇宙はとても広いので、巨大なパネルを浮かべる充分なスペースがあり、とても大きな発電量を安定して得ることが期待できるのです。


★☆★ どうやって電気を街に送るの? ★☆★

 では、宇宙で作った電気をどのようにして皆さんのいる街に送るのでしょうか?

 地上の発電所からは、皆さんがよく目にするように、鉄塔の上に付いている電線で送られています。しかし、太陽発電衛星の場合、電線を使って電気を送るのはとても大変です。なぜなら、太陽発電衛星から地上までは距離が3万6000キロメートルもあり、とても遠く離れているからです。さらに、その間は鉄塔で電線を支えることもできません。

 そこで、私たちが考えているのは、電線の代わりに「電波」を使ってエネルギーを伝える方法です。電波は目に見えないものですが、皆さんの生活の中でよく使われています。その一つが携帯電話です。皆さんが話した音声や、書いたメールの文字は、電波にのせられて、他の携帯電話に伝わります。最近始まった地デジでも、テレビの映像と音声を電波でお家に送っています。

 この電波をうまく使えば、音声や文字ではなく電気エネルギーとして送り、送り先でそのエネルギーを使うことができます。太陽発電衛星で作られた電気は、電波に変えられた後、送信アンテナを地上に向けて送電されます。

 これを聞いたとき、
「そんな電波を体に浴びたら病気になりませんか?」
と心配される方もいるかもしれません。

 安心してください。電波は、皆さんが住んでいる街に直接当てるのではなく、そこから充分離れた受信施設へ一度集めます。その後、電気エネルギーに戻して、電線を通じて街へ配る、という方法をとる予定です。

 また、電波の代わりにレーザーを使う方法についても研究しています。レーザーは電波よりもエネルギーをより狭い範囲に集中して送ることができるという特長があります。


★☆★ どうやって建設するの? ★☆★ 

 では、どうやってこのような巨大な人工衛星を建設するのでしょうか?
縦2.5キロメートル、横2.5キロメートルの巨大な太陽電池パネルを、一度に作ることは難しいです。そこで、このパネルを100メートルぐらいの大きさに分けて、ロケットで少しずつ宇宙に打ち上げることを考えています。そして、それらを宇宙空間で並べてつなげ、巨大なパネルを完成させる予定です。このとき、それぞれのパネルはロケットの中で折りたたんで収納し、宇宙空間で自動的に広げる構造にします。


★☆★ どんな研究をしているの? ★☆★

 私たちJAXAでは、太陽発電衛星の実現を目指して、それに必要な基本技術の研究開発を進めています。この衛星を含む発電システムには、太陽電池、電波やレーザーの送電技術、大型衛星の建設技術に至るまで、様々な分野が関わっており、それぞれの専門家が結集して技術開発に勤めています。

 ちなみに私は、電波による送電技術についての研究を担当しており、送電装置のモデルを製作して実験を行っています。ものづくりが大好きで、複雑な装置を自分の手で組み立て、苦労して徹夜で完成させた後、実験がうまくいったときには、「やったぜ!」と叫びたくなるような喜びを感じます。

 現在の私たちの目標は、数メートルぐらいの小さな太陽発電衛星を開発してロケットで打ち上げ、宇宙からの送電実験を実施することです。


★☆★ 太陽発電衛星に関する情報源 ★☆★

 夢の宇宙発電所である太陽発電衛星についてさらに詳しく知りたい方は、以下のホームページや本を参考にしてください。
 また、毎年夏に開催されるJAXA相模原キャンパス特別公開でも、太陽発電衛星のモデルを展示しているので、興味がある方はぜひお越しください!

JAXA 宇宙科学研究所(ISAS)太陽発電衛星
http://www.isas.jaxa.jp/j/enterp/tech/st/14.shtml
YouTube JAXAチャンネル「宇宙太陽光発電」
新しいウィンドウが開きます http://www.youtube.com/watch?v=dxr0a_b6w_A

JAXA高度ミッション研究グループ
新しいウィンドウが開きます http://www.ard.jaxa.jp/research/hmission/hmi-index.html

「エネルギーの未来 宇宙太陽光発電 宇宙の電気を家庭まで」
 高野 忠 著(ISAS/JAXA名誉教授)、アスキー新書

「宇宙太陽光発電に挑む(NHKサイエンスZERO)」
 佐々木 進 著(ISAS/JAXA名誉教授)、NHK出版


(牧 謙一郎、まき・けんいちろう)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※