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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第392号

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ISASメールマガジン   第392号       【 発行日− 12.03.27 】
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★こんにちは、山本です。

 春の彼岸も過ぎて、これからは暖かくなるのでしょうか?

 去年の今頃は、東北大震災で 停電対応に追われ、『花見』をする余裕も無かったのですが、今年は、2年ぶりの『花見』をしたいものです。

 先日、読者からのメールで、ISASメールマガジンのバックナンバーのウェブページがあることを知らない方が居ることが分かりました。

 もうすぐ400号を迎えるISASメールマガジンを、第1号から振り返ることができます。以下のアドレスからお楽しみください。
http://www.isas.jaxa.jp/j/mailmaga/
http://www.isas.jaxa.jp/j/mailmaga/backnumber/

 もう1つ!
3月30日から 愛知県刈谷市総合文化センターで、「はやぶさ」の帰還カプセルが公開されます。その際、地元のNPO法人「刈谷おもちゃ病院」のメンバーが制作した「はやぶさ」の動きをゲーム感覚で体験できる操縦装置「サンプルリターンシミュレーター」で「はやぶさ」を操縦できるそうです。

 【はやぶさ操縦】【ゲーム感覚で体験】で検索してみてください。装置の写真付きで記事を読むことができます。

 今週は、月・惑星探査プログラムグループの松本甲太郎(まつもと・こうたろう)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:宇宙探査と国際協力とISECG(国際宇宙探査協働グループ)
☆02:小型ソーラー電力セイル実証機「IKAROS」後期運用報告
☆03:「はやぶさ」カプセル等の展示スケジュール
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★01:宇宙探査と国際協力とISECG(国際宇宙探査協働グループ)

以下のメルマガでは、宇宙探査関連学界でも最近少しずつ知られ始めたISECG(International Space Exploration Coodination Group: 国際宇宙探査協働グループ)について、その発足から関わってきたものとして、その経緯、役割などを紹介する。


1.VSEの衝撃からJSPECへ

 2004年1月14日の米国ブッシュ大統領による有人月探査再開を中心とした新宇宙政策(VSE:Vision of Space Exploration)の発表とその 中での国際協力の呼びかけは、世界の宇宙開発機関に大きなインパクトを与えた。有人月探査を当面の中心課題とし、将来的には有人火星探査へもつなげる壮大な国際協力宇宙探査計画を世界に呼びかけた。


 同年6月には、大統領からの指示を受けたオルドリッジ委員会がその計画の概要といくつかの勧告からなる報告をまとめた。NASAはそれを元に、世界に国際協力を呼びかける宇宙機関会議を11月にワシントンDCで開催した。同会議には、招待された世界の主要な16宇宙機関が集まり、国際有人月探査計画が行われる場合の各機関の参加の意向が確認された。


 その際の質疑の中でも記憶に残る“迷”やりとりは、ESA責任者からの
「探査目標はどこか?」
に対して、NASA局長の回答は
「行き先はまだはっきりとはしていない、だが(国際協力)列車の出発ベルは鳴っており、まもなく出発する。乗るか乗らないかは皆さん(各機関)の自由です」


 ESAは1月の大統領演説直後に対応策を検討する政策検討チームSEPAGを立ち上げ、宇宙ステーション計画への影響評価を中心とした報告書を夏頃までにまとめた。


 JAXAもオルドリッジ委員会報告を受け、旧3機関の有人、月探査関係者を集めた非公式WGを立ち上げJAXAとしてどのように対応していくかの議論を毎週のように進めた。このWGはその後2006年4月には理事長達による正式な月・惑星探査推進チームへ発展し、翌年4月のJSPEC発足につながった。


 JSPECは、その過半はISAS教職員であったが、旧NASDAからは事業推進部隊と有人チームが、三鷹総研からも若手3人を含めて5人の研究部隊がJSPEC本務で集まり、有人宇宙探査へ向けてJAXA旧3機関が実質としても結集した。


2.VSEの衝撃からGES(Global Exploration Strategy:国際探査戦略)へ

 ワシントンDCでの宇宙機関会議を受けて、翌年5月にはイタリアのスピネトで最初の国際有人月探査計画会合が開催された。スピネト会議場は町まで車で15分はかかる人里離れた修道院跡研修センターで、各国宇宙機関からの参加者は3日間缶詰状態になって論議を行った。第1回会合には、IACのジンマーマン会長やジョージワシントン大学のログストン教授など、宇宙開発に一家言をもつ関係者があつまって議論を盛り上げた。スピネト会議はその後2007年5月のGES文書とISECG発足とその基本文書の合意まで、連続3回毎年開催された。


 スピネト会議の第2回から第3回の1年間では、現在のISECG活動の基本文書となっているGESが9月のローマ会議を皮切りに数回の国際会合と頻繁な電話会議(テレコン)を経て、3月京都国際会合までの約半年でまとめられた。


 スピネト会議で、各国の探査担当者とツーカーの知り合いになったこと、おいしい鹿肉ステーキとマーマレード、最終日の地下レストランでの生ハム大ビュッフェ・パーティなどは楽しい想い出である。


3.GESからISECGへ

 ISECGは、有人月探査へ向けて14の宇宙機関からなる国際グループで合意したGESをどのように実現していくかを検討する国際調整グループとして第3回スピネトで発足が合意された。


 ISECGのような国際調整会合ではTOR(Terms Of Reference)と呼ばれる活動チャータの制定が各機関の思惑を含めた国際交渉の手始めとなる。ISECGでは検討結果への各機関の関与と責任、事務局及びISECG議長をどのように設置するかの議論が行われ、ISECGはNonBinding(拘束されない)組織とし、事務局は秘書レベルに、議長は持ち回りとすることで決着した。NonBinding組織であるため、ISECG結論への各機関の承認も非公式であり、政策的裏付けの無い比較的自由な国際調整議論を進めるグループとすることになった。


 国際有人宇宙探査はその性格と規模からISSに続く国際宇宙活動であることとはGES議論とその後のISECGに参加した各宇宙機関共通の認識である。ISECG発足の2007年にはISSは2015まで運用されることになっており、その延長も議論に上りつつあった。このため、ISECG作業を非公式と位置づけたことの背景にはISS参加パートナーのISS運用延長の思惑があったのかも知れない。


4.ISECGによる有人月探査構想検討とオバマ演説

 ISECG活動が戦略や方針などの原則議論から、アーキテクチュアなどシステム技術議論にシフトしたのは2008年夏の第2回ISECG会合でのNASAからのISWG(International Standard WG)設置提案からである。9月にはESAの探査WS開催に連動してISWGの第1回会合が開かれ、有人月探査システムのアーキテクチュア議論が始まった。2009年3月第3回ISECGを横浜で開催するまでに、数回のWGレベル会合をILEWG(月探査国際科学会合)などの機会を活用して行い、横浜ISECGで探査基地(Outpost)を含む3つの有人月探査シナリオを今後検討していくことで合意した。また、この検討を進めるため探査アーキテクチュア検討のIAWG(International Archiutecture WG)と複数の技術チームをおき、更に“探査目的:有人月探査で何をするのか”をもっぱら検討するWGとしてIOWG(International Objective WG:JAXA提案)を設置した。


 ISECG活動が有人月探査構想を技術的にも実現可能な構想提案としてまとめることにフォーカスしていった2009年が、米国オバマ新大統領の宇宙探査政策見直しのオーガスティン委員会及びその後の米国宇宙政策レベル議論、及び同委員会のまとめとも言うべき有人月着陸機などからなるコンステレーション計画中止勧告時期と重なっていることは大変面白いと言わざるを得ない。


 有人月探査構想は、各技術チームとIAWG、IOWGによる毎週約2時間のテレコンをベースに2ヶ月に1度位の頻度で行われたほぼ1週間のWS会合で検討が進められた。NASAからはラングレーとJSCのシステム技術者多数が技術検討チームに参加し技術検討をリードした。NASA以外からは、ESA、CSA、DLR、CNESからも技術検討チームに参加し、JAXAも筑波、三鷹、相模原の3拠点から関係研究者が参加し、有人月探査システム構想の熱い議論を戦わせた。何度も開かれたWSではこれらの技術陣だけでも毎回20〜30人が世界各地から集まったことは各機関の有人月探査への熱意をよく示していたのであろう。


 オーガスティン委員会報告ではフレキシブル・パスとして探査目標が曖昧であったが、2010年4月米国では2030半ばの有人火星周回探査を目指し、その手始めに有人小惑星探査を2025年以降に行うべしとの大統領演説が行われた。この大統領演説は、有人月探査への国際構想検討が進む中、国際有人月探査とISECG活動への強い逆風ともなった。この演説以来、日本では国内的には国際有人月探査は中止されたと言う誤解・批判も起きていた。


5.国際宇宙探査ロードマップ(GER:Global Exploration Roadmap)へ

 2010年6月、ISECGは有人小惑星探査を指示する大統領演説が行われた中で、それまで検討した有人月探査構想を審議するISECGの局長級会合(SAM:Senior Agency Manager)をワシントンで開催し、同構想の評価を受け、更にISECG活動を継続して国際宇宙探査ロードマップを作成すべしとの勧告をまとめた。


 GER作成に向けた活動は、ロードマップの戦略を検討するERWG(Exploration Roadmap WG)、その技術的課題と実現性を検討するIAWG、そして探査意義(目標と目的)を検討するIOWGの、3WGを中心に進められた。ロードマップ初版は2011年8月京都で開催された第2回SAM会合で了承され、一般公開された。(日本語版は現在印刷中)


 この期間での特筆事項は、それまで渉外担当程度の出席であったロシアが2011年1月ヒューストン会合にシステム技術、要素技術などの担当者複数をロスコスモスだけでなくツニマシュ研究所とエネルギアから連れて出席してきたことである。ロシアは第2回SAMにも中堅・若手総勢8人の陣容で参加してきた。


GER検討で徐々に明らかになりつつある主要なことは2点ある。

(1)探査目標:米国が大統領指示から有人小惑星探査を次の国際目標として追求しているのに対して、それ以外の大多数は技術的に妥当で科学としても有意義な探査目標として「月」を主張している。

(2)国際協働:昨今の国際的経済事情悪化も一因ではあるが、各機関ともに予算が逼迫しつつあり、機関単独での宇宙探査が困難となりつつある。このため、GER検討の主要課題の一つは近々の国際協働無人探査の機会整理・抽出である。


 GER検討は京都SAM会合を受けて、現在第2版の検討に入っている。第2版の主要改訂部分は、第1版への宇宙探査関係者(ステークホルダ)からのフィードバックを取り込むことになる。


 このため、米国では既に2011年11月にサンディエゴで宇宙探査関係者を集めたWSを開催し、欧州も4月に同様のWSをウィーンで開催する。また、世界に学界レベルで呼びかけるWSとしては5月22日〜24日にワシントンDCでIAF/AIAAの共催でGLEXが開催される。日本でも、夏頃に同様のWS開催を検討している。これらと並行してISECG内部作業で、ロードマップの技術フィージビリティ検討、宇宙探査によるベネフィット(社会的利益)の検討などが進められており、今年暮れ頃までに第2版をまとめる。


6.これから

 各国の宇宙探査活動は徐々にではあるがISECG活動を通じた国際協力の機会を重要視しつつあるようだ。国際科学界も、COSPARの2010探査パネル報告や、IAAの2010年10月にまとめた50周年報告などに見られるように、宇宙探査・太陽系探査を進める際に、ISECG活動と無関係ではいられないと認識しつつある。


 超大型予算を要する有人宇宙探査が国際協働を大前提として検討されているように、科学的意義と数百億の予算が不可分な無人惑星探査でも、本格的な国際協働が不可欠となりつつある。有人宇宙探査に先駆ける無人プリカーサ探査での国際協働機会をISECGが議論しまとめつつあることは、今後のJAXAの太陽系探査計画にも多大な影響を及ぼすものと思われる。ISECG及びそこで描かれる探査ロードマップGERを注視していくことは月のみならず小惑星、火星等の今後の太陽系探査計画に必須となるであろう。

(松本甲太郎、まつもと・こうたろう)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※