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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第390号

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ISASメールマガジン   第390号       【 発行日− 12.03.13 】
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★こんにちは、山本です。

 東日本大震災から1年、11日は地震発生時刻の午後2時46分に各地で黙祷が捧げられました。

 1年前のことだと風化させてはいけない。
 いつまでも被災地のことに関心を持っていかなければ
と改めて考えさせられました。

 話は変わりますが、10日(土)から、松竹版の「はやぶさ」映画の上映が始まりました。
ネットで 初日の舞台挨拶の記事を読んでいると、並んだ出演者の横に写っているのは H-IIBロケットの模型ではありませんか!??

 「はやぶさ」を打ち上げたのは、M-Vロケット5号機です。
なんでなんだろう 謎だ???

 今週は、月惑星探査プログラムグループの矢田 達(やだ・とおる)さんです。
先週号に載った【イトカワの微粒子に微小クレーター】の論文で、JAXAの関係者としては最初に名前を連ねていました。

── INDEX──────────────────────────────
★01:宇宙塵 〜宇宙と私たちをつなぐもの〜
☆02:「ひので」太陽黒点半暗部形成の前駆構造を初めてとらえた
☆03:「はやぶさ」カプセル等の展示スケジュール
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★01:宇宙塵〜宇宙と私たちをつなぐもの〜


 皆さんは、一年に地球上に数万トンもの宇宙から来た塵、宇宙塵が降り注いでいるのをご存じだろうか?

都市などの人口密集地はもちろん、地球起源の塵が多い 中低緯度の陸地でそれを見つけることは容易にはかなわないが、地球起源の物質の少ない場所、陸地から遠く離れた大洋の真ん中の深海底に降り積もった堆積物、南極やグリーンランドなどの極地の氷、大気上層約20kmの成層圏などで、サンプルを採集して調べると、それらを見つけることが出来る。


 その量から言えば、私たちが最も身近に手にすることの出来る宇宙物質と言える。私は大学4年生の研究テーマとして、深海底堆積物中の宇宙塵を扱 ったが、初めて堆積物中から宇宙塵を見つけたときの感動は忘れられない。

顕微鏡の視野に中に入ってきた、黒くて真ん丸な粒子。今から140年ほど前にイギリスの海洋調査船H.M.S.チャレンジャー号が深海底堆積物を採取し、その中から見いだした黒や茶色の球状粒子を海洋学者ジョン・マーレー博士が流星塵、地球外物質だと直感したのも肯ける説得力を持つ。


 私たちが、星の綺麗に見える場所に行くと、日没後の西の空にうっすらと明るい光の帯を見ることが出来る。これは黄道光と言い、太陽の光が惑星間 空間に存在する塵に反射し、光っているものである。これら惑星間空間に存在する惑星間塵が、推定年間数万トンもの量地球に降り注いでいる。

あるものは大気との摩擦で加熱されて流れ星となり、溶け、冷え固まって深海底堆積物などから見つかる球状粒子(コスミック・スフェルール)となる。

加熱し、溶けるには至らなかった宇宙塵は、その発見の経緯から、

成層圏で採集されたものは惑星間塵
(Interplanetary Dust Particle:IDP、大きさ100分の1mm前後)、

極地氷床から採集されるものは微隕石
(micrometeorite、大きさ10分の1mm前後)

と呼ばれる。その起源を調べる上では、溶けていないだけに元の情報を多く残している。この惑星間塵や微隕石が現在、宇宙塵研究の対象の中心になっ ている。


 ここでそれらの宇宙塵がどのように採集されているかを紹介する。

成層圏で宇宙塵を採集するためには、現在主に成層圏を飛行可能な特殊な飛行機が使われている。これらの飛行機の翼の下にシリコンオイルを塗った板 を設置しておき、飛行機で上層に到達したら、エンジンを切って滑空しながらこの板を上層大気にさらす。高度が低くなったら暴露をやめ、再び上昇し、同じ作業を繰り返す。

こうやって成層圏大気に暴露したシリコンオイルを塗った板を地上に持ち帰り、付着している粒子を回収すると、かなり高い確率で惑星間塵を見つける ことが出来る。現在この採集を行っているのは、米国のみである。


 極地の微隕石が最初に大量に採集されたのは、グリーンランドの青氷上にある池の堆積物の中からだった。この成果により、極地の氷床・雪には微隕 石が高い濃度で存在しているのが認識され、フランス・デンマークの合同調査隊によって発見されたこの微隕石の発見の数年後、同じフランス隊が同国 の南極基地の一つ、デュモン・デュルビル基地の近くの沿岸青氷を溶かして、フィルターで濾過し、大量の微隕石を採集することに成功した。

その後、日本隊、アメリカ隊でそれぞれ南極内陸の基地、ドーム富士基地、アムンゼン・スコット基地の飲料水用のタンクや井戸の堆積物から微隕石の 採集を行った。日本隊では1998−1999年と内陸やまと山脈青氷地帯と昭和基地近くの沿岸青氷にて、2000年には昭和基地近くの沿岸青氷にて、青氷を溶かして濾過することによる大規模な微隕石採集を行っている。(私はその前者に参加した)

その後もイタリア隊による南極横断山脈周辺青氷での微隕石採集など、各国による採集・研究が進んでいる。


 これら惑星間塵、微隕石の研究が進むにつれて分かってきたことが、地球上に降り注ぐ宇宙物質の内、サイズの大きなものに当たる隕石と、これら宇 宙塵の主要なタイプが異なる点である。

隕石においては、普通コンドライトと呼ばれる、石質隕石が全体の80%以上を占めるのに対して、微隕石においては、隕石では5%以下の炭素質コンドライトが起源と思われるタイプが大部分を占めていることである。

実は、惑星間塵の主要な供給源の一つと考えられている小惑星の、太陽光を反射するスペクトルを調べて分類すると、小惑星のタイプでは一番多いのは 炭素質コンドライトと近いとされるタイプ(C型)であることが分かっている。

隕石で主要なタイプである普通コンドライトに近いとされる小惑星のタイプ(S型)は地球軌道近くでは比較的割合が高いものの、全体に占める割合は 20%を切る。この原因として考えられるのは、隕石は地球と軌道的要素の近い小惑星、すなわちS型小惑星起源のものに偏りがちなのに対して、惑星間塵においては、小惑星同士の衝突や彗星からの氷の蒸発で発生した塵が惑星間空間に放出され、その後の軌道進化により、徐々に太陽に近づいていき、 地球に降下してくるため、地球より遠い小天体の偏りのない平均的な集合を見ていることになるのではないか、と言うことである。


 また、成層圏の惑星間塵においては、炭素質コンドライトと近いタイプとも異なる、隕石では見られないタイプのものが半分ほどを占める。微隕石に はまれにしか見られない、このタイプの惑星間塵が成層圏で多く見られる理由としては、微隕石と比較してサイズが小さく、かつ、このタイプの惑星間 塵は空隙率が高く比重が軽い為、成層圏の滞在時間が長いと考えられることも影響していると思われる。

この空隙率の高い惑星間塵を調べると、炭素質コンドライトに見られるような水の影響を受けていない鉱物からなり、気相成長した鉱物片や、微小な金 属・硫化鉱物を含むアモルファス相など様々な物質により構成されている。

元素の同位体分析を行うと、これらの惑星間塵には炭素質コンドライトなどより遙かに高い濃度の、太陽系形成以前の塵、プレソーラーグレイン(presolar grain)を含むことが分かってきた。これらのことから示唆されるのが、このタイプの宇宙塵は彗星起源ではないか、ということである。

彗星は太陽系誕生以来46億年間、氷を保ってきており、そこに含まれる粒子は天体内部での2次的な水の影響をほとんど受けていないと考えられる。太陽系で最も始源的な天体、太陽系のロゼッタストーン、と呼ばれる彗星の試料は、地球上では宇宙塵からしか得られないことになる。


 ここまで述べてきたように、我々にとって身近な宇宙物質、宇宙塵に対する研究により、徐々に惑星間塵の現状と起源に対する理解が深まってきてい る。

これに加え、2005年にS型小惑星イトカワにて試料採集を行い、2010年に試料を地球に帰還させた小惑星探査機はやぶさに引き続き、JAXAが計画している、はやぶさ2ミッションでは、惑星間塵の主要な供給源である、C型小惑星の一つである1999 JU3からのサンプルリターンを目指しており、その実像に迫ることが出来ると期待される。

また、彗星についても、探査対象としたミッションは、既に打ち上げられたものとしてNASAのスターダスト、ディープインパクト、ESAのロゼッタ、計画中のものとしてNASAスターダストNExTと多く、今後、更に彗星物質の本質が明らかになっていくと思われる。

今後はこれらのサンプルリターンミッションとリンクした新たな宇宙塵研究の発展が期待される。


(矢田 達、やだ・とおる)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※