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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第388号

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ISASメールマガジン   第388号       【 発行日− 12.02.28 】
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★こんにちは、山本です。

 ISASメールマガジンの生みの親である的川泰宣名誉教授が、3月1日付で横浜の【こども宇宙科学館】の新館長に就任します。

 科学館に集まるこども達が、このメルマガを読んでくれるといいな

 今週は、名誉教授の小山孝一郎(おやま・こういちろう)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:エヂソンの言葉と私の地震前駆現象の研究
☆02:かにパルサーから吹き出す超高速のパルサー風をとらえた
☆03:「はやぶさ」カプセル等の展示スケジュール
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★01:エヂソンの言葉と私の地震前駆現象の研究


 大発明家のトーマス・エヂソンはいう。

ー私が心の努力に疲れ果てて問題を考えることをやめると、そのときこそ問題の真の解決がやってくるー


 1981年2月から1982年6月まで30度の軌道傾斜角、高度ほぼ600kmの円軌道にあった「ひのとり」衛星によりえられた電子密度を測るインピーダンスプローブ、電子温度を測る電子温度プローブの振る舞いを地震の影響があるかも知れないという目でみはじめてから既に6年余りがすぎてしまいました。

まず地震前に平均的な電離層のモデルから、何かずれがみられるかいうことが取り掛かりでした。 宇宙研を2006年に退職する直前に始めたこの研究は、台湾の国立中央大学に招聘された後、その後やはり日本から来た柿並博士の助けをかり、本格的になりました。

普通、電子温度は地方時4時ごろに最低で、太陽が当たり始めるにつれ上昇し、その後昼ごろ一度下がる。16時ごろに向かって上昇し、2番目の最大を記録して夕方に向かって減少する。ところが解析した地震では地震発生5日前から連続的にこの2番目のピークが見えなくなり、地震発生後又5日ぐらい下から消えて行く。この電子温度のプラズマ密度の振る舞いは之まで私の経験のなかで見たことのないものでした。

データは日本の誇る優秀な測定器により得られたものであり、信頼できるので、何とかしてその理由を見つけたい。考え始めると頭から離れられなくり、ずっと考え続ける。夜、横になってからも、プロットしてもらったデータをみる。明日を考えて眠ろうとするが目が冴えて眠れない。夢の中でも考えている。

これを毎日繰り返しているとだんだん普通ですら悪い頭の回転も更に鈍化する。考えが堂々巡りし始め、体の調子も下り坂になってくる。之では体がもたないとあえて問題をを離れようとすると、巷に聞く、薬物中毒のようにまた考えている自分に気づく。

 こんな状況が半年ぐらいは続いたかもしれません。しかしある日突然、それも突然に‘こうじゃないか’と閃く。データが苦しんでいる私を気の毒に思い彼の心中を明かし始めたのです。

この研究は2008年の米国地球物理連合のジャーナル〈JGR〉に、私にとっては初めての地震と電離層のかかわりを示した論文として発表されました。


 トーマス・エヂソンはまたいう
ー大切なことは君の頭の中に巣くっている、常識という理性を綺麗さっぱり捨てることだ。もっともらしい考えの中にあたらしい問題の解決はない。ー


 「ひのとり」データの解析を終えたところで、「ひのとり」と同じ時期に軌道上にあった米国のDE-2衛星で得られた電離圏のデータを見始めました。

「ひのとり」と同じように、毎夜毎夜みている。悲しい研究者の性で、どうしてもデータが頭を離れない。たくさんの地震の電離層のデータをプロットしてもらい、それらになんか共通点があるかもしれないと思いデータを見続ける。

例によって健康状態が下り坂になる。ああではないかと考えがどうどうめぐり。しかしある日突然、「ひのとり」の時と同じようにデータが話し始める。‘実はこうなんです’と。

このDE-2の解析結果は私の2番目の地震関連の論文としてJGRに2012年のはじめに公表されました。


 トーマスエヂソンは更にいう。
ーーなぜ成功しない人がいるかというと、それは考える努力をしないからだ。殆どすべての人間は ‘もうこれ以上アイデアを考えるのは不可能だ’というところまで行き着き、そこでやる気をなくしてしまう。いよいよこれからだというのにーー


 地震の電離圏への影響が存在することがあるという報告は年を追って急激に増えつつあります。しかしまだまだ多くの電離層研究者は懐疑的ですし、研究者数は世界でもまだ決して多いとはいえません。

データの見方、プロットの仕方などまだ暗中模索状態、すなわち研究手法として確立したものがない。学生に手伝ってもらおうとしても、指導教官がこの問題をどう攻めていいかわからない。

これまで地震の電離圏への影響をみてきた経験から 費やすエネルギー、時間は莫大であり、それも集中してやらないと難しい。研究者はよっぼどの理由がないと、この新たな研究分野に飛び込まないのはよく理解できます。しかし電離圏への影響があることは事実ですので、まず特に優秀な電離圏研究者が多い日本でデータ解析に取り掛かってもらいたいと強く希望しています。日本の情報通信研究所には世界中で最も整理された長期の電離層データが管理されています。


 トーマスエヂソンはまた熱く私に語りかける。
ーーー問題は君の考え方のほうにあるのだよ。自然界の秘密を解き明かすのに、人間の理性に頼っていては駄目だよーーー


 大きな地震発生前の電離圏への影響を解き明かす研究が進むには、新たな考え方と地上だけでなく衛星を使う新たな観測手法の展開が必須であろうと信じます。


(小山孝一郎、おやま・こういちろう)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※