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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第378号

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ISASメールマガジン   第378号       【 発行日− 11.12.20 】
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★こんにちは、山本です。

 JAXA相模原チャンネルが開設されました。
相模原キャンパス内のスタジオに川口淳一郎教授(元「はやぶさ」プロジェクトマネージャ)を迎えて、「宇宙研速報」を配信しました。

 その他 USTREAMで、
【「はやぶさ episode.ZERO」東映×文部科学省】
【「日本の宇宙開発〜「はやぶさ2」からその先へ〜」松竹×文部科学省】
のビデオを視聴できます。

(詳しくは、twitter【@ISAS_JAXA】で ⇒ 新しいウィンドウが開きます http://twitter.com/ISAS_JAXA

 今週は、宇宙科学共通基礎研究系の今村 剛(いまむら・たけし)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:「あかつき」太陽コロナ観測のお披露目
☆02:JAXA相模原チャンネル開設
☆03:宇宙学校・せたがや ー宇宙に夢中!ー(2012年1月15日)
☆04:「はやぶさ」カプセル等の展示スケジュール
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★01:「あかつき」太陽コロナ観測のお披露目


 12月5日から9日まで米国サンフランシスコで開催された地球惑星物理学の国際学会で、金星探査機「あかつき」による太陽コロナ観測の成果を報告してきました。

なぜ太陽なのでしょう?


 2010年12月に金星周回軌道に入りそこねた「あかつき」の今後の軌道を調べたところ、2011年6月に地球から見て太陽のほぼ反対側を通過することがわかりました。「あかつき」と地球を結ぶ電波の経路が、太陽表面から太陽半径の半分のところまで近づく見込みでした。


 太陽表面の温度は6000℃程度ですが、その外側には100万℃という高温のガスが広がっていて、コロナと呼ばれています。高温のコロナは自分自身の圧力によって外向きに押し出され、数百km/sという高速の太陽風となって太陽系内を吹き抜けています。

「あかつき」の電波が通過する領域はまさに、コロナが謎の加熱を受けている、太陽風の源です。地上で受信する電波の周波数や強度がコロナの影響で揺らぐ様子を調べれば、謎を解く手がかりが得られるかもしれません。


 太陽観測では「ひので」をはじめとする太陽観測衛星が活躍していますが、電波観測はこれらと違って画像が得られないかわりに、望遠鏡でも見えない小さなスケールの変動をとらえることができたりします。金星到着が遠ざかって少々元気を無くしていたところでしたが、これは面白いことになるかも・・と再起動しました。


 観測は断続的に1ヶ月間続きました。探査機が太陽の向こう側にいて通信しにくい時期に特殊な運用をするために、運用チームを挙げて慎重に臨み、結果として観測はうまくいきました。「ひので」チームの協力を得て同時観測も行い、世界に無二のデータセットを手にしました。ここで詳細は省きますが、太陽の近くで太陽風が加速される様子や、手がかりが乏しかったある種の波動らしき変動など、面白いものが見えています。


 さて、この成果を持って米国に乗り込んだわけですが、発表の場は、これまで惑星を相手にしてきた私が踏み入れたことのない太陽物理学のセッションです。大きな部屋を埋めた聴衆は知らない顔ばかりで、とても賢そうに見えます。(本当にそうなのでしょうけれど)

これほど知らない人ばかりの前で研究報告をするのは、学生のとき初めて学会発表をして以来です。専門的なことを突っ込まれたらどう誤魔化そうかと戦々恐々としながら壇上に上がりました。


 さて、どうにか発表を終えて休憩時間、やはり面識のない数人の研究者に囲まれ、面白い結果だねと(リップサービスかもしれませんが)ほめられたあと、あれこれ質問を受けました。

もしかして好評だったのか?

「あかつき」の成果を報告できて誇らしい反面、金星での成果だったらもっとよかったのにとも思う、複雑な気分です。


 最後に。「あかつき」は2011年11月、新たなスタートを切りました。
本来は姿勢制御用の4基の小さなエンジン(RCS)を3回にわたって長期連続噴射して速度変更を行い、2015年11月に金星に会合する軌道に乗ったのです。主エンジン(OME)がすでに使い物にならないことが9月に試験噴射をして判明し、残された手段がRCSによる軌道制御でした。


 OMEが燃料と酸化剤を混合燃焼させて推力を得る2液式エンジンであるのに対し、RCSは燃料を触媒反応で分解させて推力を得る1液式エンジンです。

今後RCSしか使わないとすると酸化剤は無駄な重量であり、これを抱えたままでは金星で条件の良い軌道に入ることが難しいことがわかりました。そこで2011年10月に本来は予定になかった酸化剤排出を行い、65kgの軽量化に成功しました。そのうえで11月にRCSによる軌道制御に臨んだのです。


 2015年に金星周回軌道に入るのか、2015年には金星でフライバイして時間を置いてから改めて周回軌道に入るのか、今後検討していきます。

ともあれ、予定よりずいぶん遅くはなりましたが、「あかつき」が金星に到達する目処が立ちました。改めてスタートラインに立った気分で新年を迎えられそうです。


(今村 剛、いまむら・たけし)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※